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子どもとアーティストの出会い
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次に、各パネリストが、それぞれの活動内容に関するプレゼンテーションを行った。
アートサポートふくおかの古賀は、文化政策やアートマネージメントに関する講座の開催等の情報提供、授業やワークショップのコーディネート、芸術家と学校地域のお見合いセミナー、アーティストカタログの作成を行っている。また、これらの現場の活動を通して政策提言を行っていきたいと考えている。
大澤のNPO法人STスポット横浜アート教育事業部では、アーティスト・イン・スクールを神奈川県教育委員会と協働して行っており、将来は行政とNPOだけでなく文化施設や文化芸術団体に参加してもらい、この取り組みを広げていきたいと考えている。
平良のNPO法人前島アートセンターでは、学校のみならず子どもたちが関わる全ての環境の中でアートが必要だという考えのもとで、那覇市の農連市場や小学校、病院等でワークショップを行った。いずれも、長期間のプログラムであることが特徴である。
続いて漆がNPO法人S-AIRでの活動を紹介した。S-AIRのアーティスト・イン・スクールの特色は、滞在型のプログラムであること。活動を通して学校や個人に様々な価値観や生き方に触れてもらい、学校という環境が地域の文化や教育の中枢であるということを理解してもらうとともに、そこに関わる児童と先生や保護者、地域住民が学校を精神的な拠り所としてコミュニティを形成することで、地域の環境を向上させていくことをめざしている。
坪井のNPO法人芸術家と子どもたちは、2000年から学校にアーティストを派遣するコーディネート事業をおこなっている。授業は1日〜1、2か月など、ケースバイケース。人と人の出会いということをワークショップの核にして、アーティストと子どもが出会うことを重要なポイントとしている。
最後に、東京大学の秋田は、アートという生きる技を子どもたちに身につけてもらいたい述べ、アーティスト・イン・スクールの活動を、子どもにとっては自己解放となり、先生にとっては刺激となり、地域の中の学校に新たな文化活動の拠点となるための役割を与える機会になると語った。同時に、今後の課題としてはコーディネータのネットワーク形成、記録の保存と公開、アーティストと子どもに対して互恵性があるかを考えていくことが重要と述べた。
後半は会場からの質疑応答とパネルディスカッションを行った。
会場からは、アーティスト・イン・スクールの教育的効果について、成長段階別のプログラムの有無ついて、いじめや不登校などの教育問題についての姿勢などの質問が出た。
パネラーの古賀は、アートは特効薬ではないが、子どもたちの想像力やコミュニケーションに働きかけることができると述べた。また、秋田は現実の世界を超えて現在の問題をみつめ、それを超えていける力をアートが持っていると述べた。続いて地域へのアプローチが議論の焦点となり、平良は、プログラムを行っていくと、学校の枠組みを超えて地域の人々を巻き込むものになっていくこと、坪井は学校になじめない子どもがワークショップで輝く瞬間があり、そこに可能性を見出しているが、そういった子どもがあまり学校に来ていないことがはがゆいと述べた。最後に漆は、アートの教育的効果を論ずるよりも、アートが地域に入っていくことで、環境をどう変えていくかを先生や保護者と話あうこと、またそのプロセスそのものが重要であると述べた。
今回の分科会では、各地におけるさまざまなアーティスト・イン・スクールの取り組みを俯瞰し、多角度からこの取り組みを見つめなおす機会となった。それぞれの目的やフレーム、活動内容が多岐にわたり、後半の議論が散漫になった感もあったが、アーティスト・イン・スクールの活動を読み解くにあたって「教育」「アート」「地域」というキーワードが浮き彫りになった。今日社会問題として取りざたされている不登校やいじめ、学力の問題に対してアートが救世主となるという保証はないが、アーティスト・イン・スクールのプログラムが人々のコミュニケーションや関係性を生み、現在問い直されている子どもたちと家庭、地域の人々との関わりを深めて地域の環境を向上させていく可能性を持っていること、また本活動ではそれをめざしていくことが確認された。