応募動機・現在抱えている課題
提案する企画を通じて改善したいアートマネジメント環境の基盤など
2002年からNYにも活動の場を広げ、外から、日本のダンス環境をとらえる事で、今何が必要なのかを自ずと認識してきました。その中で、アーティストによる自発的なダンスのオーガニゼーションを東京で設立することが必要不可欠であると確信しました。
ダンサー、振付家が少しでも多く創作活動と発表の場を持ち、お互いコミュニケーションをとりながらダンスコミュニティー全体を活性化していけるような環境づくりを目指します。日本の首都であると同時にダンス人口の最も多い東京で、ダンスの環境改革が行われることはパブリックにもよいエネルギーの波及をもたらすと考えています。日本でダンスを続けてくことがいかに不毛かという周りの声と、自身の振付家としての経験から、経済的に恵まれているといえない状況の中でさえ、少しでも多くのダンサー、振付家がダンスをやっていることの意義、充実感、幸福を得られるような環境を整えたいという思いが強くなりました。今後ますます多様化するであろうダンサー、振付家の未来を考えると、それらに対応できる、今までの日本にはなかった新しい環境づくりが必要不可欠です。
ダンスにおける環境が、現在に至るまで少しずつ改善されてきていることは確かだと思いますが、その在り方に疑問を持たずにはいられません。まず、日本人の国民性なのかもしれませんが、それぞれの芸術的指向が尊重されるべき振付の世界においてさえ、日本ではコンペティティブな傾向があり、オーガニゼーション側もスターを発掘することに躍起になっています。また、70年代後半から日本のダンス界を見てきてアーティスト同士が余りコミュニケーションを持たなく孤立化する傾向と、時代の風潮から作品を一芸化する現在の傾向にも危惧を感じます。時代と共にダンスが積み重なっていくための基盤として、一体何が必要なのかを切実に考えなければいけません。現状況で、アートマネジメント側はアーティストの意見を尊重しているとは思えず、まして自ら行わなければいけない選択を、ダンスの人生に身を投じていない趣味的な嗜好の評論家に委託する傾向があります。
内容
プロジェクトの具体的な最終形態
私の考えているオーガニゼーションの企画は次のようなものです。
■スペースグラント制の確立
アーティストが作品制作のために必要なリハーサルスペースを、オーガニゼーションに申請。選ばれたアーティストは、無料、もしくは少額でダンススタジオを使うことができる。
年に数回、申請期間を設ける。
■ワークショップ週間
それぞれのオープンクラススタジオと提携しながら、海外の教師、日本の教師でワークショップを開催。将来的にはダンス公演も招聘し小さいフェスティバルを目指す。
■スタジオシリーズ(新人振付家育成のためのプロジェクト)
シーズンごとにキュレートする振付家を決め、振付家は数人の新人の振付家を選出し、
選ばれた新人の振付家は100時間のリハーサル時間と制作費に10万円支給される。
新人の振付家は、リハーサル期間、最低一回は、オープンリハーサルを設け、他のアーティストや訪れた人からのフィードバックを参考にすることで、様々な視点から自身の作品を捉え、より強固な作品づくりを目指す。今回この企画を申請します。
■パブリックなスペースでの公演
一般の方が自由に出入りできる、パブリックなスペースを捜し、無料のダンスショーケースを行う。一般の方が気軽にダンスに接することができ、また新人、ベテラン問わずアーティストが作品を実験的に発表、共有できる企画。定期的に行われることが望ましい。
■アーティストによる無料のダンス新聞を発行
それぞれのアーティストが何を考えているのかインタビューしたり、紙面上での対談や意見交換、毎号、違うアーティストたちの肉筆によるフリーなページ、またダンス公演、ワークショップの情報掲載など、アーティスト同士の生なコミュニケーション又は情報交換の場として。アーティストが自発的に企画、実現できるよう目指す。
■コーチングプロジェクト
経験のある振付家が新人の振付家と時間を共有し、新人の作品創りを支援する。
また新人・若手教師によるワークショップにおいても、経験のある教師が時間を共有し、アドバイスを行う。新人の為に良い方向性を促すと同時に、世代間を超えた、ダンスコミュニティーの活性化を図る。
■新人ダンサー、振付家発掘の為の小さいコンペティション
起用されたダンサー、振付家は一定期間、無料でクラスを受けることができ、その他、ダンス環境についての知識や、公演を行うのに必要な技術的・運営上の知識についても学べる機会を設ける。
上記にある全ての項目については、今後、オープンスタジオ関係者、セゾン財団、アートマネジメントに携わる方々など、いろいろな人たちと意見を交換しながら設立していけたらと思っています。
このような企画の実現から、少しずつ基盤を築き、将来的にはダンスセンターのようなものが設立されることを望んでいます。ここでいうダンスセンターとは従来のオープンダンススタジオとは異なり、同じ建物内に、いくつかのダンスオーガニーゼーションのオフィスやダンススタジオ、プロフェッショナルを対象にした学校、子どもを対象にしたオープンクラス、多様なパフォーマンス形態や規模にもフレキシブルに対応でき150人程度の観客を収容できるような効率的な劇場、などが共存し、コミュニケーションをとりながら総合的に機能していけるような場所を意図します。
その中で今回は、上記にある企画の一つ、スタジオシリーズを採用されたく応募しました。
この企画はNYのDTWという劇場が実際行っている企画を参照したものであり、具体例を出しますと、私のカンパニーアシスタントを務める西村未奈が昨年、経験したプログラムです。
彼女はダンサーとして経験は積んでいましたが、ソロ作品以外は、振付家としての経験はまだ浅いものでした。ロザンナ・スプラデンというベテランの振付家がこのプログラムのキュレーターになり、ロザンナの決断で彼女が新人アーティストとしてこの企画に参加することが依頼されました。
ダンサーを起用して行うグループ作品の振り付けは新人にとっては大変な作業です。場所と制作費を与えられ、また、信頼している振付家から依頼されるということで、一発勝負的な作品ではなく、しっかり自分の芸術性と向き合う創作活動ができる、そうならざるえない状況におかれます。彼女は彼女含め4人のダンサーを起用し、「TUNA」という45分の初めてのグループ作品を創り上げました。
これがきっかけとなり、外から見ていても、彼女にはアーティストとしての責任と自信がつき、次のステップへの大いなる可能性を見出したようでした。
今年4月には彼女はこの作品のソロバージョンをショーケースで公演し、NY Timesで絶賛されました。
このように、新人のアーティストは、挑戦する機会を与えられることで、確実にステップアップしていきます。今回申請するこの企画は、新人の育成と発掘、そして彼らを次へのステップへと導くものであり、一過性のものではなくしっかりと根付いた創作活動の必要性と、中堅・ベテラン振付家と新人との間の信頼関係、交流の重要性を提示する、ダンス環境改善の一歩として必要不可欠な企画であると考えます。
この企画は、東京港区芝浦を拠点とするオープンスタジオ、アーキタンツの協力のもとで行われます。数名のダンス有識者に尋ね、理想と思われるキュレターの振付家を選考。その振付家が将来的に有望と思われる新人の振付家(2名)を採用します。
新人の振付家は、アーキタンツにて100時間無料のリハーサルスペースを与えられ、制作費に10万円支給されます。振付家育成プログラムのため、選出された新人振付家には、自身の振付作品に3人以上のダンサーを起用し、グループとしての作品づくり挑戦することが望まれます。創作過程で、キュレターの振付家はリハーサルを何度か訪れ、アドバイスや意見交換を行います。またオープンリハーサルを少なくとも一度は設定し、創作過程をオープンに提示、そこからのフィードバックを通して、より強固な作品創りを目指します。
100時間の創作の成果を、アーキタンツのスタジオにて発表。作品は、荒削りであっても、30分以上、完成度ではなく新しい先駆的な作品が期待されます。スタジオ公演故、照明は蛍光灯のみとなりますが、(照明の持ち込みは可能ですが、設定する時間は2時間のみ。)公演情報はシーズンごとに配るアーキタンツのプログラムや、ネットにて公開されます。