投稿番号:15
企画名
ベネズエラに学ぶオーケストラの社会的役割
応募動機・現在抱えている課題
提案する企画を通じて改善したいアートマネジメント環境の基盤など
びわ湖ホールの運営費削減や大阪センチュリー交響楽団への補助金全額カットなど、近年アートマネジメントの現場に活動の継続に不安材料を与えるような事態が発生しています。これは助成する側とされる側に「なぜアートが必要なのか?」という根本問題に共通の認識が欠けていることに起因しているからだと思います。
アートを創造・提供する側は、アートを「嗜好品」ではなく、社会の「必需品」(=ライフライン)であるという意識を持っていると思います。その意識を助成する側と共有する環境を一刻も早く整備しなければ、予算削減の傾向を防ぐことは難しくなるでしょう。
私はオーケストラを具体例として「オーケストラはなぜ必要なのか?」の問いに「オーケストラの演奏活動に関わる人々はその活動によってどういう人間に変わっていくか?」という新しい視点を追求することでオーケストラの社会的役割を明確に説明したいと思います。オーケストラは贅沢な嗜好品ではなく社会の必需品との認識が、自治体や民間企業との長期的な協力関係を可能と
趣旨・重点テーマ
目標、なぜ今この企画の実現が必要なのか等
青少年に楽器と指導者を無償で提供しオーケストラ活動を組織的に実践しているベネズエラのユース・オーケストラ・システムをわが国に浸透させることを目的とした企画です。
「貧しい子供たちを犯罪から守り、健全な市民に育成し、社会の発展に寄与する人材を育成すること」を目的としてベネズエラのアブレウ博士がはじめたユース・オーケストラ・システムには現在ベネズエラの全国30万人の青少年が参加しています。犯罪多発国のベネズエラにあってユース・オーケストラからこれまでに犯罪者が出ていないという報告をヒントに、わが国の青少年のいじめ、自殺、傷害事件、不登校、引きこもりなど近年益々深刻化している問題を根本的に解決する一助としてベネズエラのユース・オーケストラ・システムをわが国に導入したらどうかを検証します。
日本の児童をオーケストラ活動に関わっている者とそうでない者とを、「他人や自己を傷つける」傾向および他者とのコミュニケーションのあり方を中心に調査し、子供が5年、10年にどう変わったか、時間をかけて統計を取る作業の準備段階を整えることが本企画のテーマです。
内容
プロジェクトの具体的な最終形態
ベネズエラのユース・オーケストラについては、放送やCDを通じてシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ(SBYO)と同オーケストラ出身の指揮者グスターボ・ドゥダメルの活動が著しく、2007年から2008年にかけてのヨーロッパの主要音楽祭(ザルツブルク、ルツェルン、エジンバラ、ロンドンプロムス、シュレスヴィヒ・ホルシュタインなど)や北米旅行(ロスアンゼルス、サンフランシスコ、ボストン、ニューヨーク・カーネギーホール)で熱狂的な歓迎を受け、技術力、音楽性、人気度とも世界のトップブランドオーケストラの仲間入りをした感があります。わが国でも大きな話題となりつつあります。
しかしながら、1975年にこのオーケストラの前身で国立ベネズエラ青少年児童交響楽団全国制度財団(FESNOJIV)を創設したホセ・アントニオ・アブレウ博士が目指した目標は「貧しい子供たちを犯罪から守り、健全な市民に育成し、社会の発展に寄与する人材を育成すること」でした。そして貧富の差を問わず2歳半以上の希望する子供全員に楽器と指導を無償提供したのです。
このような壮大な目標をオーケストラで達成しようとした理由として博士は「オーケストラは社会の縮図であり、調和と協調、自己表現、忍耐、そして皆が合意に達しようする唯一の芸術体だからです」と語っています。アブレウ博士はSBYOが世界中から招待を受けていること以上に、「子供たちを犯罪から守る」という目標が30万人の子供たちに達成されていることを誇りに思っています。
ベネズエラ政府もその成果を評価し、2010年までにあと70万人の子供たちを受け入れ、計100万人のユース・オーケストラを全国に発展させる、というMision Musica (ミッション・ムジカ)という新しいプロジェクトがスタートしました。オーケストラは国益であると位置づけたベネズエラのこのプロジェクトはわが国も参考にすべきではないでしょうか?
この企画の最終形態は以下のような活動を総括したものになります。
- アブレウ博士の話した講義内容、テレビのドキュメンタリーなどを公開し、ベネズエラのユース・オーケストラがこれまでに達成したことを知らせます。
- SBYO出身のトランペット奏者フランシスコ・フローレスを招き、さまざまなメディアにユース・オーケストラの活動について語ります。一橋大学大学院社会学研究科の「平和と和解の研究センター」の協力を得てライブ演奏とワークショップを行います。
- SBYOの日本公演をサポートし、公演の空き日に各都市の学校や施設でアウトリーチを実施します。
- 小中学校や地域のユース・オーケストラ活動に従事してきた指導者達とのネットワークを作り、現団員および卒団員の追跡調査を依頼します。
- 三菱東京UFJリサーチ&コンサルティングなどのシンクタンクの協力を仰ぎ、調査に関する専門的なアドバイスを受けます。
- 内閣府と厚生労働省の少子化対策担当者と意見交換を行います。
- オーケストラで青少年を健全育成することに関心のある自治体に「オーケストラ特区」の申請を呼びかけます。同時に地域に隣接した大学や音楽大学、プロオーケストラ、アマチュアオーケストラなどとコーディネートいたします。
以上の成果をTAMのネット上に掲載いたします。
Music Against Crime の理念がこの企画によって幅広く共有されることを願っています。
実現までのスケジュール
最長一年を目処
08年 |
7月 | トランペット奏者フランシスコ・フローレス来日公演に同行。コンサートのほかに「平和と和解の研究センター」の企画に参加。 |
8月 |
ザルツブルクにてアブレウ博士と打ち合わせ |
9月 |
三菱東京UFJリサーチ&コンサルティングから調査・統計に関する助言を得る。 |
10月 |
指揮者井上道義、ピアニスト小曽根真のベネズエラ訪問に同行。 |
11月 |
小中学校のオーケストラと地域のユース・オーケストラの指導者との交流を図る |
12月 |
NHKがFESNOJIVのドキュメンタリー放送。SBYO来日、フローレス独奏。名古屋、東京、広島でアウトリーチを実施。 |
09年 |
1月 |
音楽大学や大学で特別講義を行う。 |
2月 |
内閣府と厚生労働省の少子化対策担当者と意見交換を行う。 |
3月 |
自治体の首長と話し合う。 |
4月 |
自治体の首長と話し合う。 |
5月 |
「企業メセナの理論と実践」(共著)の執筆終了。本企画のテーマを加筆。 |
6月 |
「オーケストラ特区」について意見交換会を実施。 |
©Music Against Crime/佐藤正治