子どもとアーティストの出会い
いま、教育現場に必要なアートとは?
アーティスト・イン・スクールのこれまでとこれから
※トヨタ・子どもとアーティストの出会い関連企画
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総合セッション
「なぜ、いまアートなの? アートの力、アートの社会的価値を考える」
分科会C
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総合セッション
※「舞台は高級クリニック、パネリストは著名なカウンセラー」という設定で行われた総合セッションは、分科会企画運営団体の代表者が、フォーラム応募の動機となった問題意識や参加者と共有したい課題、分科会実施後の思い等を2分程度でプレゼンし、パネリストが感想やアドバイスを述べるという内容。なお、代表者は「分科会実施前の問題意識」も事前に“カウンセラー”に提出している。
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総合セッションでの分科会代表者の質問内容
今取りざたされている教育問題に対してアートができることは何かという命題のもと議論した。ディスカッションでは結局結論は出なかった。アートが教育現場に何ができるか、アートが子どもの成長に何ができるかは、現場や人によって価値観はさまざま。コーディネーターもそれぞれ言葉を磨いている途中である。アートが教育現場にできること、アートが子どもの成長にできることについて、ご意見をうかがいたい。
(子どもとアーティストの出会い代表 井手上春香)
映像記録
レポート
来場者数
121名
実施内容
冒頭に、子どもとアーティストの出会いの井手上から、「アーティスト・イン・スクール」の概要と目的、課題についてプレゼンテーションを行った。また、本セッションではアーティスト・イン・スクールの教育活動を「変容する社会で生きるための力を得るためのひとつの方法」として捉え、教育全体がより創造的になることを目的に行うと定義した。
次に、各パネリストが、それぞれの活動内容に関するプレゼンテーションを行った。
アートサポートふくおかの古賀は、文化政策やアートマネージメントに関する講座の開催等の情報提供、授業やワークショップのコーディネート、芸術家と学校地域のお見合いセミナー、アーティストカタログの作成を行っている。また、これらの現場の活動を通して政策提言を行っていきたいと考えている。
大澤のNPO法人STスポット横浜アート教育事業部では、アーティスト・イン・スクールを神奈川県教育委員会と協働して行っており、将来は行政とNPOだけでなく文化施設や文化芸術団体に参加してもらい、この取り組みを広げていきたいと考えている。
平良のNPO法人前島アートセンターでは、学校のみならず子どもたちが関わる全ての環境の中でアートが必要だという考えのもとで、那覇市の農連市場や小学校、病院等でワークショップを行った。いずれも、長期間のプログラムであることが特徴である。
続いて漆がNPO法人S-AIRでの活動を紹介した。S-AIRのアーティスト・イン・スクールの特色は、滞在型のプログラムであること。活動を通して学校や個人に様々な価値観や生き方に触れてもらい、学校という環境が地域の文化や教育の中枢であるということを理解してもらうとともに、そこに関わる児童と先生や保護者、地域住民が学校を精神的な拠り所としてコミュニティを形成することで、地域の環境を向上させていくことをめざしている。
坪井のNPO法人芸術家と子どもたちは、2000年から学校にアーティストを派遣するコーディネート事業をおこなっている。授業は1日〜1、2か月など、ケースバイケース。人と人の出会いということをワークショップの核にして、アーティストと子どもが出会うことを重要なポイントとしている。
最後に、東京大学の秋田は、アートという生きる技を子どもたちに身につけてもらいたい述べ、アーティスト・イン・スクールの活動を、子どもにとっては自己解放となり、先生にとっては刺激となり、地域の中の学校に新たな文化活動の拠点となるための役割を与える機会になると語った。同時に、今後の課題としてはコーディネータのネットワーク形成、記録の保存と公開、アーティストと子どもに対して互恵性があるかを考えていくことが重要と述べた。
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後半は会場からの質疑応答とパネルディスカッションを行った。
会場からは、アーティスト・イン・スクールの教育的効果について、成長段階別のプログラムの有無ついて、いじめや不登校などの教育問題についての姿勢などの質問が出た。
パネラーの古賀は、アートは特効薬ではないが、子どもたちの想像力やコミュニケーションに働きかけることができると述べた。また、秋田は現実の世界を超えて現在の問題をみつめ、それを超えていける力をアートが持っていると述べた。続いて地域へのアプローチが議論の焦点となり、平良は、プログラムを行っていくと、学校の枠組みを超えて地域の人々を巻き込むものになっていくこと、坪井は学校になじめない子どもがワークショップで輝く瞬間があり、そこに可能性を見出しているが、そういった子どもがあまり学校に来ていないことがはがゆいと述べた。最後に漆は、アートの教育的効果を論ずるよりも、アートが地域に入っていくことで、環境をどう変えていくかを先生や保護者と話あうこと、またそのプロセスそのものが重要であると述べた。
今回の分科会では、各地におけるさまざまなアーティスト・イン・スクールの取り組みを俯瞰し、多角度からこの取り組みを見つめなおす機会となった。それぞれの目的やフレーム、活動内容が多岐にわたり、後半の議論が散漫になった感もあったが、アーティスト・イン・スクールの活動を読み解くにあたって「教育」「アート」「地域」というキーワードが浮き彫りになった。今日社会問題として取りざたされている不登校やいじめ、学力の問題に対してアートが救世主となるという保証はないが、アーティスト・イン・スクールのプログラムが人々のコミュニケーションや関係性を生み、現在問い直されている子どもたちと家庭、地域の人々との関わりを深めて地域の環境を向上させていく可能性を持っていること、また本活動ではそれをめざしていくことが確認された。
アンケート集計結果から
Q.アーティスト・イン・スクールの活動は今後必要だと思うか?
「思う」と回答した方の理由
- 学校教育の中にアーティスト、アートが入ることで子供の新しい経験、力を発揮することができ、また、学校の先生、教育現場に関わる人にも、気づきを与えられると思います。
- 学内とは別の制限で子どもが学ぶべき要素。例えば、コミュニケーションや人間関係を育むきっかとしてアートはこれからもっともっと有効なスパイスになると思うから。
「わからない」と回答した方の理由
- 現在の学校における指導内容に行きづまりがあることは事実であるが、その解決として単にアーティストとのかかわりや芸術体験を持ち上げていくこともできない。地域におけるアートプロジェクトや町づくりも同様に追い風がふいたら疑いを持つ姿勢が大切であると感じた。
Q.セッションの感想
- アーティスト・イン・スクールが日本のさまざまな地域で行われていることを知るきっかけになりました。
- 「美術を教育する」「美術で教育する」—あいまいな理解でしたが、少し頭の中が晴れた気がします。
- 興味深い活動報告が多くあり、とても有意義な時間でした。子育てネットワーク活動に参加していますが、「アートサポートふくおか」の活動はとても参考になりましたし、教育とアートの関連についての漆氏の「多様な価値観と生き方に触れる機会の創出」という視点は、大変共感しました。
当日配布資料
- レジュメ : ダウンロード(PDF : 39KB)
- アンケート : ダウンロード(PDF : 20.2KB)
- 分科会関連企画勉強会のお知らせ(07年3月4日@にしすがも創造舎:東京)
- ASIAS資料(NPO法人芸術家と子どもたち)
- 「アートサポートふくおか」資料(アートサポートふくおか)
- 前島アートセンター会報誌 a-new(NP0法人前島アートセンター)
- Artist In Shool資料(NPO法人 S-AIR)
- 「芸術体験講座実施報告会〜子どもがイキイキする芸術体験を学んで〜」チラシ
(07年3月19日@福岡県吉塚合同庁舎)
- 『アートと学校教育の連携に関する調査研究報告書』(NPO法人STスポット横浜)
文責:子どもとアーティストの出会い 井手上春香
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