「生きている」ことをどのようにして実感するか―コロナ禍の今、それがとても大切だと思っています。その実感を得ることができる空間の一つが、劇場。生きている人間が演じ、生きている人間が観て、共に笑い、共に涙することで自分自身の生を実感する—三つの「生きる」を確かめ合う、それこそが舞台芸術の真骨頂であると思うのです。

私が携わっている狂言が生まれたのは室町時代。戦乱や疫病、天災などを乗り越え、現代まで綿々と生き続けてきました。今は、舞台『子午線の祀り』の演出と平知盛役を務めています。この作品は“天”の目線で壇ノ浦の合戦を描くというスケールの大きな作品。先祖たちが様々な苦難に立ち向かい、懸命に生きてきた歴史という大きな時間軸の延長線に、今、私たちは立っている―そんな実感を得ていただける舞台です。今だからこそ、上演できた意味もあるのではないかと思っています。

私にとってコロナ禍のこの一年間あまりは、劇場や舞台芸術が果たすべき役割を改めて問い、噛み締める重要な期間でありました。誰しも、苦しい、辛いと感じることもあるでしょう。でも、いつかは必ずまた日が昇ります。皆様の心に寄り添い、「生きる」を実感していただける舞台芸術を提供し続けられるように……。劇場で、お待ちしています。