私が勤務するロームシアター京都では、今年度のメインホール(約2,000席)の稼働率は8割を超える見込みです。実はコロナの影響を受ける前の年度の稼働率以上になっており、劇場が静かで誰も来ない日が続いていた2020年度(約5割)に比べると、もはや隔世の感という言葉を使いたくなるほど。オペラ、バレエ、演劇、ポップス、演歌、幼稚園などの発表会、学会、研修…、日々、劇場に多くの方がいらしています。
 そこで、つい、劇場を運営している私たちは口にするのです。「稼働率も戻ってきた。観客もだいぶ戻ってきた。いろんな制限も戻していけそうだ。劇場の日常が戻ってきた」と。
 そのために私たちは工夫や努力を重ね、様々なご支援、ご協力もいただいてきました。しかし、劇場を利用する方々は、本番に向けて実に様々な苦労をされており、決して以前に「戻って」いるわけではないと感じます。そして「リモート」という選択肢が一般的になってきた今、「同じ時間に同じ場所に集まる」ことのあり方も変わっているとも感じます。
 確かに、かつてよく劇場にいらしていたあの方は劇場に戻ってきていただけているのだろうか…。かつてと今で、劇場の使われ方や観客の方々の顔ぶれ・期待が実はだいぶ変わっていたりしないだろうか…。そもそも、人々の生活の中での芸術や文化のあり方、そして私たちの仕事の仕方などが、かつてのままに「戻る」ことなどないのかもしれず、だとしたら、だからこそ、これから私たちは何をすべきなのか…。「何も変えないためには全てを変えなければならない」という言い回しすら、現実味を帯びたものとして脳裏をよぎります。
 “No Theatre, No Life”。劇場が社会にとって、そして多くの人の人生にとって、なくてはならない存在であり続けるために(となるために)、「戻る」その先と道筋をしっかり見据えていきたいと思っています。