ミュージカル人気の勢いが止まらない。ストレートプレイを中心に見れば、かろうじて横ばいの舞台芸術市場は、コロナ禍前から2.5次元を含むミュージカルによって右肩上がりになっていたが、この数年、その存在感は大きくなった。Twitterのトレンドワードにミュージカル俳優の名が頻繁に挙がり、女性誌ananが『エリザベート』のムックを発売するなど、人気の高さを裏付ける現象は日々増えている。「ミュージカルってなんで突然歌い出すの、変でしょ?」というタモリの言葉が爆笑をさらっていた時代を知る者には隔世の感がある。

この市民権拡大の最大の貢献者はディズニーだろう。登場人物が当たり前に歌うディズニー映画、非日常の世界の一員に自分もなれるディズニーランドに幼い頃から親しんできた世代は、話していた人が突然歌い出すことへの違和感は薄い。そして後押ししたのが推し活とコロナだ。特に後者は、演技と歌と踊りで心情を表現するミュージカルが、気持ちを外に出すことを抑圧された人々の代替行為になる機能を明らかにしたのではないか。ここ数年、複数回のスタンディングオベーションが目立つようになり、特にミュージカルで常態化したのはその証という気がしている。