1度目は、初めて近所で開いたコンサート。2010年の8月に、同じ墨田区両国周辺に住む音楽関係の仕事をする仲間と「近所で何かやりたいよね〜!」と、カバン屋さんの倉庫を借りて開いた投げ銭ライブ。産業とは異なる形で音楽と人との関係を見つめ直したいという想いから小さなトライがこの時、始まった。前半は近くのフラ教室の方々と会場にいる全員でフラダンス。後半はスティールパン奏者・原田芳宏さんにスティールパンの故郷トリニダード・トバゴを若い頃に旅したお話とトリオでの演奏をたっぷりと。この時に来てくれた、0歳から90歳くらいまでの約50人による、みんながみんな知り合いではないが ”ご近所のよしみ” のようなものがふんだんに詰まった何ともいえないフンワリとした幸せな空気は、真夏のまとわりつく暑さと相まって未だに忘れることができない。

翌年に起きた東日本大震災、放射能への恐怖で静まりかえった街。こんな時こそ!と桜が満開の時に同じ倉庫で催した2回目のコンサートの空気は、1回目とはあまりにも程遠いものだった。

そこから月日は流れて、地道にこの地域でさまざまな形で活動を続けてきた2019年の2月。地域の小学生が、響きの美しい音楽に触れ、練習を重ね、発表会を行う「ほくさい音楽博」の開会式。両国シアターXに集まった義太夫・和楽器&スティールパン&ガムラン各チーム総勢72名の子供たちと、講師の皆さん、保護者の皆さんや子供たちの発表を楽しみに来てくれたご近所さんたち。300人くらいがギュウッギュウに集って、発表への期待と緊張でみんなの胸のドキドキが聴こえてきそうなまさにその時、9年前に感じたあのジンワリと満たされた空気がふと蘇ってきて、舞台袖で涙が溢れた。ああ、また会えたね。

2021年、我々トッピングイーストは過去最大のプロジェクト『隅田川怒涛』に挑んだ。葛飾北斎がおよそ180年前に描いた「怒涛図」を現代に蘇えらせる、音楽とアートで人々が怒涛のように混ざりあう姿を描きたいと、このような状況でも粛々と準備を進めてきた。いくつもの現場を、たくさんの方々のご協力によりこのコロナ禍の真っ只中でも実現できたことに深く感謝する気持ちと、一方で、現場で感じる何か得体の知れない失われてしまった無くなってしまったものの大きさに、途方もなく絶望的な気持ちにもなっていた。

生きている間にもう一度あの空気を味わいたい。復興がはじまる。