第2回トークセッションレポート(前編) 「生活と地続きに展開するアートマネジメント」
モデレーター:野田智子[アートマネージャー/Twelve Inc. 取締役]
アートマネジメントを志すうえでの心構えやこれからの未来のアートマネジメントについて1年間にわたり実施してきたTAMスタジオ2023。いよいよラップアップ目前となった2024年2月に第2回のトークセッションが開催され、スタジオメイトの学生たちが再び全国各地からトヨタ自動車株式会社東京本社に集結しました。モデレーターの野田智子さんとゲストの堀切春水さんのトークから、アートマネジメントの現場で起きていることを学生たちが自分ごととして捉え直し、それぞれが自分の次の一歩を踏み出すための手がかりを探っていった1日をレポートします。
美術史を読み解く営みから、今まさに生まれ出ずる美術史を目撃する仕事へ
まずはお互いの近況報告と自己紹介ののち、堀切さんのレクチャーへ。ゲストの堀切春水さんは「NPO法人BEPPU PROJECT」のプロジェクトマネージャー。90分間のレクチャーのうち、前半は堀切さんが所属するBEPPU PROJECTの多岐にわたる活動について語られました。
堀切:甲府で立ち上げたアート活動を展開させていくうちに、組織でアートマネジメントに取り組んでいる現場で学んでみたいと思うようになり、BEPPU PROJECTにやってきました。私の中では両方が地続きに続いている感じです。出産を経て子育てしながら感じたことからどんどんアートプロジェクトが生まれた経緯もあるのですが、そのときの活動については後半、まずは今所属しているBEPPU PROJECTの活動についてお話したいと思います
堀切さんは1984年福岡に生まれ、進学先の北海道大学で芸術学を専攻。20歳でフランス大使館主催の夏季研修に参加し、世界中から集まってきた若者との交流を通して、フランスの風土や文化に触れ、研修の合間に訪れた美術館で、とある作品に感銘を受け、直感的にアートの仕事で生きていきたいと感じたそう。その後、本格的に学ぶために大学院ではフランス近代美術史を専攻し、研究を続けた。
堀切:フランス近代美術史の研究を進めるうち、当時の集団肖像画などからアーティスト同士の交流やコレクティブな活動の様子を読み取ることができたが、文献だけでは真実が読み取りきれず、私も当時にタイムスリップしてこの中に入って本当の評価や関係性を見てみたい!と思ったんです。同じころ、研究の傍ら、美術館で学芸補佐としてワークショップの手伝いをしたり、ギャラリーでのアルバイトをしていて、自分が現代アーティストたちと一緒に働いているこの環境が、19世紀フランスのサロンとオーバーラップしているようにも感じられて、19世紀末のフランスには行けないけれど、ここで私は美術史が生まれる現場を目撃できるかもしれない! と気がついた時に、胸が高鳴ったのを覚えています
文献や資料から過去の世界を読み解く美学・美術史の世界から、今生きているアーティストたちと一緒に仕事をする現代アートの世界へ、堀切さんは自らが進む道を定め、舵を切ります。
2013年、あいちトリエンナーレの事務局の一員として公式ガイドブックとカタログの編集を担当。100組を超えるアーティストや担当キュレーター、所属ギャラリーらと連絡を取りながら、チームを率いて編集業務にあたったそう。
堀切:『あいちトリエンナー2013』での出会いが縁となり、あいちでともに働いたキュレーターと一緒に、あいちに出展していたアーティストのミハイル・カリキスの新作発表とパフォーマンスを企画したり、中﨑透さんのプロジェクトマネジメントをさせていただいたりもしました。このころは現代アートの現場が楽しいという気持ちが常にあって、仕事をしている感覚がなく夢中でやっていたというのが正直なところです。
伝統的な温泉観光地に風穴を開け次々と革命を起こし続ける「BEPPU PROJECT」
BEPPU PROJECTは世界有数の温泉地として知られる大分県別府市を活動拠点とするアートのNPO法人。2005年4月の発足以来、現代芸術の紹介や普及、フェスティバルの開催や地域性を生かした企画の立案、人材育成、地域情報の発信や商品開発、ハード整備などさまざまな事業を通じてアートが持つ可能性を提示し、魅力ある地域づくりに取り組んできました。18名の社員が複数のプロジェクトを担当し、これまで通算2000にものぼるプロジェクトを実施してきたといいます。
堀切:BEPPU PROJECTの活動は、前代表の強い思いから始まりました。設立から17年が経ち、社会の情勢も大きく変化する中で、この活動の社会的意義を見つめ直した時に、代表が替わっても持続する、"100年続くNPO"を目指したいという考えから、2年前に代表が交代をしました。現在は中村恭子が代表を務めています。
別府市は人口約12万人で、戦災を免れたために古い路地やまち並みが残っているまち。温泉の源泉数、湧出量ともに全国一を誇り、観光・サービス業の従事者が全体の80%を占めるほどの観光都市。さらに国際大学・立命館アジア太平洋大学(APU)の約3,000人の留学生が居住している影響もあり、外国人居住率も全国でも上位だといいます。
そんな宿泊観光のイメージが強い別府ですが、2005年当時の宿泊者属性では団体客が占める割合が圧倒的に高く、男性客が女性客の1.5倍ほどだったとか。そんな状況に風穴をあけるべく、若年層女性個人客という真逆のセグメントに向けて、アートを活用した新たな魅力創出に切り込んだのが、BEPPU PROJECTの初代代表・山出淳也さんでした。
堀切:私たちは常に、アートとまちを同時に楽しんでもらうことを意識して企画を立てています。アートファンは好奇心や感受性が豊かで、表現が得意な方が多いです。芸術祭などをきっかけに、アートファンが別府を訪れ、アートだけでなくまちの情報もあわせて発信してくれることで、少しずつ別府の魅力が拡散されていきました。そうすることで、従来は温泉や旅行という切り口でしか紹介されることのなかった別府が、若年層女性にリーチしそうな雑誌に特集を組んでもらえるなど、まちの印象が変化してきました。アートNPOとはいいつつも、観光、福祉、経済など分野を問わずに地域の課題に向き合って、そこにアートという横串を刺す活動を展開しています。
「BEPPU PROJECT」をかたちづくる6つの事業
そんな多岐にわたる活動を展開するBEPPU PROJECTは、大きく分けると「文化芸術振興に関わる活動」「移住・定住促進に関わる活動」「福祉・障がい者芸術に関わる活動」「観光振興・情報発信に関わる活動」「産品のブランディングに関わる活動」「経済活性化・産業振興に関わる活動」の6つの活動で構成されてきました。
堀切:文化芸術振興に関わる活動には、地域の特性を生かした芸術祭やアートイベントの企画・運営、学校へのアウトリーチや子育て世代の支援事業などが含まれます。
移住定住促進に関わる活動では、アーティストのためのアパートやレジデンス施設の運営、国内外のアーティストやクリエイターの移住・定住や滞在制作を支援するレジデンス事業に取り組んでいます。
福祉や障害者芸術に関わる活動では、「アートは誰にでも開かれているべきである」という信念に基づいて、高齢・障害・家庭環境などによる施設利用者や、経済的・身体的な理由で美術館に行けない人のところへアーティストを派遣して、アートを体験してもらう活動をおこなってきました。
観光振興・情報発信に関わる活動では、若年層の女性個人客にリーチするような地域情報の発信を目的に、『旅手帳beppu』という冊子を発行し、無料配布しました。
現在はウェブに展開して、別府市の魅力を発信しています。産品のブランディングに関わる活動としては、地域で生まれた商品のプロデュースや販売事業で、「Oita Made」というブランドを立ち上げました。統一したブランディングによって、地域の魅力を高めるとともに、大分県の魅力を発信する仕組みをつくりました。この事業は、現在は大分銀行に無償譲渡し、現在も継続展開されています。
最後に経済活性化・産業振興に関わる活動ですが、企業の課題分析から県内企業とクリエイターとのマッチング、ブランディングまでを一気通貫で実行しています。こんな風に、アートを軸にさまざまな分野を横断して活動しているんです。
6つの活動の柱のもとに大小2000以上のプロジェクト実績を擁するということで、すべてを語り尽くすことは難しいものの、BEPPU PROJECTを代表するイベントや、堀切さんが特に印象に残っている経験について語ってくださいました。
温泉地・別府だからこそ誕生した、みんなが集うお風呂のような芸術祭
まずは文化芸術振興に関わる活動として、山出前代表が発案した芸術祭「別府現代芸術フェスティバル『混浴温泉世界』」について。別府市の全域を舞台とした芸術祭で、その作品を通して地域の魅力を知ってもらうことを目指して、2009年、2012年、2015年の3回実施しました。国際的に活躍するアーティストから若手アーティストまで何百組もが参加し、別府のためだけに構想した新作の展示や公演を行い、まちを舞台にしたダンス公演や音楽イベントなどが展開された複合型の芸術祭です。別府に根づいていた混浴文化をコンセプトとして、「国籍も宗教も関係なく武器も持たずに丸裸でそれぞれの人生のあるときを共有する(芹沢高志)」温泉のようなあり方を目指し、『混浴温泉世界』と名づけられました。
来場者の傾向としては、3回を通じて若年層女性が最も多く、7割程度が県外客、宿泊を伴う参加者が増えるほどに経済効果が高まるという結果に。
堀切:若年層女性個人客に届けるという当初の目標はここで一定程度達成が確認できたといっていいと思います。さらに、芸術祭の開催が地域経済の活性化に貢献できるということも、このデータによって可視化できたかと思います。
その後BEPPU PROJECTの芸術祭は、多数のアーティストを招聘する形式から一人のアーティストに焦点を当て、予算も情熱も一点集中で投資する形式に切り替わっていきます。『混浴温泉世界』の後継企画として誕生した個展形式の芸術祭『in BEPPU』です。
堀切:2016年に実施した第1弾のアーティストは"目 [mé]"でした。別府市役所を舞台に、市役所として稼働している空間を来場者が通って、最後は市長の応接室にたどり着くクルーズ形式のプロジェクトでした。翌年の招聘アーティストである西野達は、JR別府駅前にある油屋熊八像の周りを囲って温泉旅館のような空間をつくったり、街頭で串刺しになったトラックを路上に出現させたり、別府のシンボルである別府タワーを地蔵に見立てた作品を発表したりしました。
1年に一人のアーティストと向き合える『in BEPPU』では、予算も人的リソースも1点に集中できるので、そのアーティストにとっての新たなチャレンジを促し、将来の代表作となるような作品を制作してもらうことを期待していました。実際に、数年後に別府で発表した作品を自身の図録の表紙に起用してくれたアーティストもいました。
その後、ファッションデザイナーの廣川玉枝を迎えた2021年まで、個展形式の芸術祭は全6回続きました。2021年のテーマは「祭」。何度もリサーチを重ねた結果、別府のエネルギーの象徴であり、別府の歴史や文化の源泉であり資源でもある「地獄」に着目し、コロナ禍に落ち込んだエネルギーを取り戻す祭と展示をおこないました。ゼロから祭のコンセプトや衣装をつくり、最後には市民参加で5時間の練り歩きをする壮大なパフォーマンスを展開したそうです。そこで堀切さんはアーティストのクリエイティビティが自分の想像の範疇を超えていく感動に立ち会ったといいます。
堀切:祭は誰でも知っている言葉だけど、頭の中で想像しているものがみんなそれぞれ違っていて、誰も正解がわからないまま当日を迎えてすごく不安でした。でも、コロナ禍の谷間でちょうど規制が緩和されていた時期の開催となり、子どもたちも含めて地域をはじめとする多くの観客が密集して集まって楽しんでいるのを見た時に、人が集まって場を共有することの大切さや、アートを通して地域の人自身の地域の見方が変わったのを目の当たりにした時に、やっぱり自分が向き合っている仕事には意味があるんだと実感できました。同時に、自分の想像力の限界を反省し、アーティストがやろうとしていることにもっと耳を傾け、少しでもその考えに近づけるようにコミュニケーションを取り続ける必要があると感じました。
著名なアーティストと市民のクリエイティブが混在する唯一無二の別府の景色
2022年10月に始動した「ALTERNATIVE-STATE」は、1年で2組のアーティストの作品を設置し、4年間かけて8作品を完成させるプロジェクトです。別府市内に長期的に展示されるそれらを巡ることで、普段とは異なる別府の表情を楽しめる仕組みがデザインされています。JR別府駅近くのホテルの屋上看板にサルキスが手がけた《別府の天使(Les Anges de Beppu)》から始まり、現在は第4弾として栗林隆を招いて作品を制作中とのこと。
堀切:芸術祭の開催を経て別府=アートの町のイメージが浸透していく中で、行政や市民から、町に作品を残してほしいという声が出るようになりました。そこで、新しいプロジェクトとしていつ別府に来てもアートを楽しんでいただけるような事業を始めました。
こうした著名なアーティストを招いた芸術祭やプロジェクトを手がける一方で、別府市民のおもしろさや多様性に着目した市民文化祭を開催しているのも、BEPPU PROJECTの興味深いところです。
堀切:ベップ・アート・マンスは、登録料を払えば誰でも参加できる市民文化祭で、もう14年も続いています。絵画や彫刻の展覧会、フラダンスの発表会、ヨガや折り紙の教室など、芸術・文化にまつわる活動であれば何でも登録できます。始めた当初は40組弱だった企画者は年々増えて、今や120組超の壮大なプログラムになっています。著名なアーティストの作品と一緒に、市民の趣味から生まれた作品や表現、そのどちらもが並んで存在しているのが別府のよさなんです。
CREATIVE PLATFORM OITAが提案するアートな解決策
経済活性化産業振興に関わる活動を代表するのが、「CREATIVE PLATFORM OITA」。2016年から4年間継続した大分県からの受託事業で、企業が抱えるさまざまな課題を解決してするため、事業者とクリエイターをマッチングして、新たな視点で経営課題を解決する事業を数多く実現してきました。これまで、老舗菓子店のリブランディングや、アートホテルの開業などの事例により、大分県内の企業間で、アート思考やクリエイティブで企業課題を解決するという手法が認知されたという実感が得られたと堀切さんは指摘します。
堀切:アートホテルのプロジェクトでは、当時代表だった山出淳也がコンセプト立案・作家キュレーション・アートキュレーションをおこない、12名のアーティストの制作管理をBEPPU PROJECTが担いました。どのプロジェクトでも、最初は地域の魅力を知ってもらうために、まず視察を組んでそのアーティストが興味を持ちそうなポイントにご案内します。別府の歴史や土地、文化、人を知ってもらったうえで、どんな作品ををつくるのかを考えてもらうんです。
アーティストが暮らし、創作し、まちを元気にする仕組みづくり
移住定住促進に関わる活動では、滞在制作の拠点としてBEPPU PROJECTが管理運営を行う『清島アパート』があります。戦後間もなく建てられた元下宿アパートで、アーティストに対して安価に居住と制作の場を提供すべく、月額家賃1万円で居住者を公募しています。2023年度は7名のアーティストが利用しており、年に2回ほど地域に対しての発表の機会もあるそう。卒業した後も別府に残るアーティストが多い点も特徴だそうです。
堀切:家賃が格安なので、生活費に悩まされずに制作に集中できるというのと、みんなが集まることで切磋琢磨しあい、技術や悩みを共有しながら創作活動に刺激を受けられるというのが清島アパートのいいところです。
清島アパートでの経験をきっかけに移住したアーティストが温泉の組合長になり、廃業した共同温泉を再生した例もあります。
堀切:彼は東京での作家活動に窮屈さを感じていた折に、『混浴温泉世界 2009』に参加するために別府を訪れたのが最初のきっかけでした。そのときに、別府ならではの温泉文化や、すべての人を分け隔てなく受け入れ親切に接する姿に触れ、感銘を受けたそうです。創作意欲も復活し、その恩返しのような気持ちで別府の文化である共同温泉も復活させたいと奮闘したんです。ほかにも、利用率が下がりつつある共同温泉に、アーティストと地域住民が協働して壁画を設置し、地域の財産に新たな価値を付加するなど、アーティストと地域が力を合わせて魅力ある地域づくりをする活動が草の根的に発生しています。
こうした活動の結果、2017年にはアート関係の移住者が120名にのぼり市の人口の0.1%にまでなったことが、地元紙に「根づくアーティスト」と取り上げられました。別府市は、これが人口減少を食い止めるため、地域に新たな活力を生む起爆剤になりえると考え、『令和4年度 文化観光の推進とアーティスト・クリエイター移住・定住計画』を発表します。これはアートに特化した移住増加施策で、アーティスト移住の集積エリアを設定し、ハード・ソフトの両面から整備していく計画です。
堀切:中心街から歩いて15分ぐらいの「南部・浜脇地区」というエリアが対象となります。2030年までにアート関係の移住者数を1,200名に増やすのが目標です。
移住をサポートする窓口として別府市創造交流発信拠点『TRANSIT』が誕生。堀切さんも立ち上げからかかわっています。移住者の窓口となる相談室では、移住希望者と空き物件所有者のマッチング、エリア内の芸術文化に関するイベントをまとめてWebやSNSで発信するほか、対面での情報提供、CREATIVE PLATFORM OITAの下地を活かした地域や企業からの相談をクリエイティブで解決していく活動などに取り組んでいるそう。
堀切:私は、『TRANSIT』展示室での企画展や公募展のほか、相談室での各種相談を受けてさまざまなコーディネートをしています。たとえば、アプリのロゴやパネルデザイン、ワークショップ講師など、ご相談に応じてアーティストやデザイナーをご紹介し、地域や企業とアーティストをおつなぎしています。ほかにも、空き物件を改修して、展示や制作のための拠点をつくるハード整備も担当しています。物件探しや建築家の選定もしますし、図面の製作、塗装作業など、業務は多岐に渡ります。
別府のまちを飛び出して、大分県各地に沁みだすBEPPU PROJECTの取り組み
アートやクリエイティブを活用して地域をアップデートするBEPPU PROJECTの活動は、別府市内だけでなく、大分県内の各地にも広がっています。
2014年には、大分県北部の国東半島を舞台に『国東半島芸術祭』を開催。その作品は現在も残っており、国東半島の文化とアートを1日かけて楽しむカルチャーツーリズムができるそう。
また、コロナ禍に活動機会が失われたアーティストのために、アーティストの発表の機会創出を掲げて大分県が始めた事業『Regain! Oita Art Series』で受託したプロジェクトのうち、堀切さんは下平千夏の作品を担当。佐伯市の丹賀砲台園地で作品を制作するにあたり、進行管理だけでなく、アーティストと行政、そして住民の方々との間の調整役も担ったといいます。
堀切:ここは戦争遺構なので、人によってさまざまな思いがある場所です。行政や住民の方々との調整の過程では繊細なコミュニケーションを必要としました。また、下平さんも私も子育て中なので、制作が佳境になっても作業時間にリミットがありました。別府から片道1時間半かかる現場だったこともあり、さらに稼働時間は限られてしまいました。
そこで、最初に作家と話し合い、16時半で必ず作業は終わらせること、ただし妥協せずによい作品をつくるために集中して作業をすることを決め、限られた予算と時間の中で充実した時間を一緒に過ごすことができました。出来上がった作品は素晴らしく、当初のドローイングがかたちになり、アーティストってやっぱりすごいなと報われた気持ちになりました。時間をかけることだけが現場の正解ではないと証明できて、子育てをしながらマネジメントをする上での自信にも繋がりました。
ここまで紹介してきた通り、想像以上に多岐にわたる事業があり一つひとつは異なるように見えても、地域の課題に対してアートやクリエイティブを活用して事業を計画し、実践し、その過程を検証して、また次の課題を見つけることを繰り返して行く中で、その想いが地域のさまざまな場所に派生していき、多種多様な主体者の手で地域のアップデートが起きているのが別府の今。その中心的存在として、「継続」を活動の指針として掲げ、課題にぶつかってもどうすれば実現するのかを常に提案し続けているのがBEPPU PROJECTなのです。
レポート概要
- 開催日:2024年2月22日
- 会場:トヨタ自動車株式会社東京本社
- 登壇者:
ゲスト:堀切春水[NPO法人BEPPU PROJECTプロジェクトマネージャー]
ファシリテーター:野田智子さん[アートマネージャー/Twelve Inc. 取締役] - 取材者:前田真美(メセナライター)