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「TAMスタジオ 次代のアートマネジメントのつながり方」が目指すもの

──中間報告に代えて

TAMスタジオは、アートマネジメントに携わる方々が集い、学びたいことや悩みごと、相談ごとを共有しながら、現場をとりまくさまざまな状況の再認識および関係性の再構築を試みるプログラムです。

2022年7月から始まった本企画には、山形、東京、金沢、京都、大阪、広島、沖縄と、全国各地から13名の方が参加しています。ひと言でアートマネジメントといっても職業も経験もバラバラで、ギャラリーや文化施設での業務に当たる方や、芸術祭・イベントなどの運営を行う方、まちづくりの観点からアートに関心を抱いて活動している方、ご自分でこれから独自の活動を展開していきたいと考えている方など、TAMスタジオがなければなかなか集まらなかったであろう多彩な人々が集結しています。

開催はオンラインと対面とのハイブリッド形式で、7月に2回のオンラインミーティングを開催した後、8月に東京でトークセッションを開催、9月に振り返りと次の展開に向けたオンラインミーティングを経て、それぞれの興味関心に沿ったコンテンツを制作・発表し、今に至ります。

参加者の皆さんをつなぐ役としてファシリテーターにご指名いただいた私は、TAMスタジオ運営チームの方々と企画段階から相談を重ね、今現場で活動している皆さんにとって必要な場とは何か?を考えながらプログラムを進めてきました。私がこのプログラムで大事にしたい、つくり出したいと願っていることは大きく分けて以下の2点です。

① 同僚でも友達でもない、でも本気で相談できる相手のいる場 

アートの現場は、それぞれがあまりに多種多様で個別具体的に存在するため、状況を知らない人との文脈の共有が難しく、孤独な戦いになりがちです。意見を聞きたいと思っても誰に相談すればいいのかわからず、暗中模索を続けている方も多いと思います。社会全体を見渡しても、明るい将来が待ち受けているとはなかなか思えない状況が続くなか、参加者同士が仕事の喜び(ここが重要です。課題ばかりに心をとらわれると、本来好きだったものや原点を忘れがちだと思うので)や課題を共有し合い、連帯を強める場にしたいと考えています。

そのためにまずはこのプログラムにおける「セーフスペース」の構築が何より大事と考え、それぞれの出自・立場・経験にかかわらずお互いを尊重しながら発言・活動することを明確な目標として掲げ、活動しています。

オンラインミーティングで参加メンバーとともに決めたTAMスタジオのガイドライン

② 今後の活動に還元できるような気づきや視点を自ら獲得する場

トークイベントで「いい話」を聞いて理想とやる気を胸に帰路についても、仕事場に戻れば現実が待ち受け、聞いた話は一瞬でどこかに消え去ってしまう...というのは残念ながらよくあることだと思います。なんとなく話を聞いて満足するのでもなく、答えを一方的に求めるのでもなく、参加者それぞれが今必要としているものを再確認し、今後の活動に活かせる視点や考え方を、自ら獲得する場になればと考えています。実は悩みの答えはすでに自分の中にあり、ただ日々の仕事に追われてそれとじっくり向き合う時間がないだけ、ということもあるかもしれません。TAMスタジオに参加している時間だけは、普段の仕事から少し離れて、日ごろ抱えているモヤモヤや、やってみたいと思っていたけれど手が出せないでいたこと、乗り越えたいと思っている壁などにじっくり向き合うきっかけになればと思います。

TAMスタジオが一回限りのイベントではなく、通年の企画なのはこのためです。またトークゲストを迎える前には勉強会を行い、ゲストと有意義な対話ができるよう準備する時間を取り、トークのあとには皆で振り返りをして、受け取った言葉を消化する過程をふめるよう設計しました。そして、そこで得た知見や視点をふまえて、自らの興味関心をかたちにしてみるところまでを一つのサイクルとしています。

振り返り後、自分のやりたいテーマに分かれてグループワークを実施

トークセッションに向けて事前勉強会の様子。相馬千秋さんのご活動をリサーチしたうえで、聞きたいことや興味あることをあげていきました。

前期は、トークゲストにアートプロデューサーの相馬千秋さんを迎え活発な対話を行った後、参加者それぞれの興味関心に基づいて、グループまたは個人でコンテンツを制作しました。この11月に発表になったコンテンツは次の通りです。

これらはTAMスタジオとしての成果ではなく、あくまで参加者の皆さんが自分の現在地を確認するためにアウトプットしたものです。丁寧な言葉や仕事がさまざまなかたちを伴って紡がれていますので、ぜひご覧ください。

それぞれのグループワークで、どのようなアプトプットをしていくかを議論しました。

一人でコンテンツ制作に臨む人もいます。皆さん、それぞれの考えで自由にアウトプットしていきます。

これまで述べてきた通り、TAMスタジオは答えを一方的に提供する場ではなく、アートマネジメントに携わる皆さんがそれぞれに歩みを進めるために必要な時間や、出会いや、視点を探すプラットフォームになることを目指しています。そのため、場をつくる作業も、参加者のみなさんの協力を得ながら、試行錯誤を重ねている最中です。

後期の活動では、参加者の皆さんのニーズにより一層寄り添いながら、安心して発言できる場を維持し、それぞれの活動に還元されるような刺激的な対話を生み出せるよう、私自身もファシリテーターとしてできる限りを尽くしたいと思います。今後のTAMスタジオの活動にも、ぜひご注目ください。

(2022年11月29日)

2022年度 目次

TAMスタジオ2022開催
次代のアートマネジメントのつながり方
田村かのこさんビデオメッセージ
第1回トークセッションレポート
ゲスト:相馬千秋 [NPO法人芸術公社・代表理事/アートプロデューサー]
ファシリテーター:
田村かのこ[アートトランスレーター]
地域とアートの交点
アートと地域の交点を地域側から考える
芸術祭
【エリアレポート概要】
文化芸術の地域特性への考察
―石川県、広島県、東京都を事例として―
芸術祭
【金沢エリアレポート】
巡りゆくまち
― 故きを温ね新しきを知る ―
芸術祭
【東京エリアレポート】
企業と行政、大学が織りなすエリアの隆盛
― 渋谷芸術祭を事例として ―
マッピング
アートのお仕事図鑑2.0を作ろう
─アートを作る組織・人々のリサーチ─
Vol.1
「TAMスタジオ 次代のアートマネジメントのつながり方」が目指すもの
──中間報告に代えて
第2回トークセッションレポート
ゲスト:森隆一郎 [アーツカウンシルさいたまプログラムディレクター/合同会社渚と 代表社員]
ファシリテーター:
田村かのこ[アートトランスレーター]
TAMスタジオ参加メンバーへの15の質問
Art Management Paper for TAM
「アートマネジメント」の技術を国内外の高等教育機関カリキュラム比較から考える。
第1回
地域とアートの交点
Q1.「ヨーロッパで活動する作家から見た京都・日本にはどのような魅力があるか?」
対話篇:東野雄樹氏(アーティスト、批評家)
マッピング
アートのお仕事図鑑2.1
─アートなMAP─
Art Management Paper for TAM
「アートマネジメント」の技術を国内外の高等教育機関カリキュラム比較から考える。
第2回
地域とアートの交点
Q2. 地域の活動を支援してきたスポンサーは何を期待するのか?
対話篇:根本ささ奈氏(アサヒグループホールディングス株式会社 コーポレート・コミュニケーション 広報部門)
Art Management Paper for TAM
「アートマネジメント」の技術を国内外の高等教育機関カリキュラム比較から考える。
第3回
地域とアートの交点
Q3. 地域を新しい角度で見るプロジェクトを通して醸成されるものとは?
対話篇:曽我高明氏
Art Management Paper for TAM
「アートマネジメント」の技術を国内外の高等教育機関カリキュラム比較から考える。
第4回
もやもやが消えることはないけれど...
──SETENV(セットエンヴ)入江拓也さんインタビュー
「TAMスタジオ 次代のアートマネジメントのつながり方」を終えて
── 一人だけど、一人でない場所
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