「アートマネジメント」の技術を国内外の高等教育機関カリキュラム比較から考える。
共執筆:
高橋 諒(AKANESASU 代表)
阿部 利尋(昭和音楽大学大学院アートマネジメント修士課程)
- 海外:高等教育機関の事例紹介
5. 海外:高等教育機関の事例紹介
〜「Boston University」「Carnegie Mellon University」「New York University」「Michigan State University」各カリキュラムの比較考量 〜
海外のアートマネジメント教育の高等教育機関のプログラム導入時期は、欧州では1967年イギリスにおけるPolytechnic of Central London/School of Management Studies 1967「Training Arts Administrators: Report of the Committee of Enquiry into Arts Administration Training」が始まりであり、その後1993年にはEU諸国だけで100に近い大学でアートマネジメント関連のコースが開設されている。アメリカでは1966年Yale Universityの大学院演劇課程に3年間の修士課程が置かれたのが始まりであり、その後1995年には80以上の大学がアートマネジメント関連の講座をもち、45の大学院が学位コースを開設している。欧州においてもアメリカにおいても、日本国内と比べると高等教育機関のプログラム導入の歴史は25-30年ほど長い。
本レポートでは海外高等教育機関事例としてAssociation of Administration Education (AAAE)の加盟大学である「Boston University」「Carnegie Mellon University」「New York University」「Michigan State University」の4校の大学院カリキュラムを比較考量した。調査対象はAAAEホームページ内に掲示された各校のカリキュラムである。なお各校ごとのシラバス等による詳細な授業内容等は調査対象外とする。そのため、あくまでカリキュラム名称における比較考量となるため、実際には、あるカリキュラムに他分類の要素が内包されている可能性があることは付言しておきたい。
各校のコース種類やトピック、及びカリキュラムの学問分類を付属資料として【資料−海外/高等教育機関】(最下部に掲載)にまとめた。この【資料−海外/高等教育機関】を比較分析したものが【図16】〜【図19】である。
上掲の【図16】海外高等教育機関カリキュラム比較では、カリキュラム数を5つの区分に分けて比較した。5つの区分とは「インターン、行政学(公共性)、法学、経営学、その他(横断的領域など)」である。特徴としては、インターンが行政学・法学と並んで重要な位置を占めているように感じられる。また経営学が中心に置かれていることは明らかであるが、その他(横断的領域など)のプレゼンスが高いようである。この「その他(横断的領域など)」は各校によって内容がさまざまであり、それぞれの独自性・個性となっているようである(【資料 - 海外/高等教育機関】参照)。
上掲の【図17】海外高等教育機関カリキュラムの割合比較では、やはりアートマネジメント教育における経営学の存在感の高さがわかる。インターン・行政学・法学に関してはバランスよく配置されている。そして、その他(横断的領域など)のカリキュラムのウエイトの大きさが見てとれる。これは時代の潮流である多様化による現代社会の変容を反映しているように感じられる。多視点から総合的にアートマネジメントを捉えていく必然性を表しているのかもしれない。もしくは地域ごとに求められるアートマネジメント技術の差異による特性、つまり地域マッチング機能の表層なのかもしれない。
上掲の【図18】海外高等教育機関のカリキュラム数、経営学区分比較ではマネジメント領域のカリキュラム数が最も多く存在していることがわかる。そしてマーケティング領域、ファイナンス領域のカリキュラム数が続いている。この結果にはAAAEスタンダードカリキュラムとの差異が確認できる。ただ各校ごとのシラバス等による詳細な授業内容等は調査対象外とした比較考量となるため、実際には、あるカリキュラムに他分類の要素が内包されている可能性があることは付言しておきたい。
上掲の【図-19】海外高等教育機関のカリキュラム、経営学区分の割合比較では、すべての大学においてマネジメント領域のウエイトが最も高いことがわかる。そしてカリキュラム数同様に、カリキュラム割合においてもマーケティング領域、ファイナンス領域が上位に続いていることがわかる。
以上、海外高等教育機関カリキュラムの比較考量を行ってきた。AAAEスタンダードカリキュラム(第3章を参照)と比較して、第一にわかることは「インターン」が重要視されている点である。AAAEにはインターンという特記はないが、AAAEの求める教育基準に対し、海外高等教育機関はインターンを利用して対応している。つまり海外における専門的な実地経験という社会的ニーズの存在が見てとれる。そしてもう一つの特徴は「その他(横断的領域など)」の比重が大きいことである。学問としてのアートマネジメントの始まりは非営利組織の運営管理という画一的な概念で始まったが、現在では時代の変化、多様化の中で学問領域自体も変容せざるを得ない状況のようである。実際にこの「その他(横断的領域など)」に含まれる領域は多種多岐にわたっていることが【資料−海外/高等教育機関】を見ていただければわかるであろう。そこには、文化観光や都市研究、ゲームの制作や展示デザイン、コミュニティパートナーシップや博物館に関する多種多様な講座、さらに人文科学にいたるまでさまざまなカリキュラムが確認できる。しかし考えてみれば当たり前のことである。文化や芸術や社会や人間は複雑であるのだから、その関節にあたるであろうアートマネジメントという概念も結果的に複雑になってしまうという必然性を感じることができる。
【資料−海外/高等教育機関】
(事例として:海外高等教育機関の4校をAAAEホームページより抜粋/2023年3月6日閲覧)
Boston University 大学院 |
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【コース】
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■インターン |
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■行政学(公共性) |
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■法学 |
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■経営学 |
□ファイナンス
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■その他:アート、データ分析、実務、横断的領域、地域、教育 |
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Carnegie Mellon University 大学院 |
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【コース】
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■インターン |
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■行政学(公共性) |
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■法学 |
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■経営学 |
□ファイナンス
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■その他:アート、データ分析、実務、横断的領域、地域、教育 |
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New York University 大学院 |
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【コース】
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■インターン |
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■行政学(公共性) |
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■法学 |
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■経営学 |
□ファイナンス
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■その他:アート、データ分析、実務、横断的領域、地域、教育 |
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Michigan State University 大学院 |
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【コース】
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■インターン |
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■法学 |
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■経営学 |
□マネジメント
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■その他:アート、データ分析、実務、横断的領域、地域、教育 |
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※本レポートは、高橋が4.6.8を、阿部が1.2.3.5.7を分担執筆した
※参考文献は第4回の巻末に記載しています
(2023年3月13日)