【東京エリアレポート】
企業と行政、大学が織りなすエリアの隆盛
執筆:高橋 諒(AKANESASU 代表)
東京と一括りにいっても、さらに細分化していくとエリア別にアートの捉え方は多種多様だ。細分化された各エリアにおいては主たるプレイヤー(主に大企業と行政+大学)が存在し、各エリアを盛り上げていると感じている。筆者が特に有力と捉えているのは以下の3エリアである。
1. 中央区銀座
百貨店、画廊・ギャラリーが都内市場の中心的存在だが、百貨店の業績が縮小傾向にある中で画廊・ギャラリーの存在感が増してきている。※1
※1:「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株)、(一社)芸術と創造
銀座エリアは有名百貨店が密集する有数のエリアであることは周知の事実だが、それに加えて画廊・ギャラリーも大小合わせて約90~100店舗と集中しており売買市場の中心地となっていることから、都内でも有力なアート市場エリアと言えるだろう。
2. 台東区上野
日本を代表する国立・公立美術館が集中しており 、また日本で唯一の国立総合芸術大学であり多くのアーティストを育成してきた東京藝術大学が立地している※2。都民のみならず、全国的にミュージアム・アカデミズムの中心地とみなされており、東京でも有数の芸術文化地域といえよう。
※2:台東区ホームページ
3. 港区六本木
国立新美術館、森美術館・森アーツセンターギャラリー、サントリー美術館など官民の有力な美術館の揃ったエリア。
森ビル、サントリー、富士フイルムといった大企業のメセナ活動の中心地であり、官民が連携して開催しているイベント「六本木アートナイト※3」等を通じたエリアの活性化が盛んである。
これらのエリアに加えて、今後は渋谷がアートの有力エリアとなっていくのではないかと予想する。2022年夏に渋谷で実際に展示を行った経験とその地域特性に鑑み、以下論じていきたい。
渋谷には東急グループの運営するBunkamuraザ・ミュージアム、渋谷PARCO内にあるPARCO MUSEUM TOKYOなど企業ミュージアムに加え、ファッション専門学校の名門である文化服装学院、デザイン専門学校の桑沢デザイン研究所、建築・インテリアに特化した青山製図専門学校など幅広い教育機関も備える。
このような企業の芸術文化施設や教育機関に加えギャラリーも複数あり、弊社2022年夏の展示も渋谷gallery concealで行った ※4 。土地柄若者が多いイメージがあるが観客の年齢層は幅広く、前述した文化施設・教育機関の充実から他エリアに比してアートにかかるインフラは整っているといえよう。また渋谷は交通の要所である。具体例として渋谷駅は新宿駅に続いて乗降者数の多い駅(約228万人/日)であること、都内のみならず神奈川や埼玉からもアクセスが良いことなどが挙げられる。通勤通学の乗換駅として多く利用されており、平日には仕事帰りに弊社展示に訪れていただいた方もいた。
従来の上野や六本木、銀座と並んでアート(特にポップカルチャーと親和性の高い分野)の中心地として都民に認知されるのもそう難しくはないのではないか。行政としても渋谷区は岡本太郎「明日の神話」が渋谷駅へ恒久設置されることが決まった翌年2009年から芸術祭を開催、認知を広めようとしている。
渋谷芸術祭は2009年から2021年まで13回開催している。昨年2021年のテーマは「都市とアートの関係性の模索 ※5」。渋谷駅を中心に約21箇所で同時展開され、Culture Connect01~09と題したそれぞれ異なるコンセプトの展示を街中で実施した。主催は実行委員会、共催に渋谷区、後援に東京都。協賛は東急、東急不動産、東急建設、三井不動産と官民連携しての芸術祭となっており、特に渋谷のまちづくりに強い影響力をもつ東急グループが強力にコミットしている。
上記展示の一つには東急のもつ最も影響力のある広告メディアであるサイネージが活用された。通常利用だと一週間(5分に1回15秒放映)で72万円程度の利用料がかかるといわれる ※6 が、それを芸術祭へ利用させていることからもその本気度が伝わってくる。
思うに、力のある企業と自治体がうまく連携し、渋谷のカルチャー・特色を強化する目的で芸術祭を開いている印象を受ける。芸術祭参加のアーティストたちをみると、伝統的というより現代アートが中心、若く新進気鋭の者が多数である。渋谷のイメージに沿った人選であるといえよう。参加するアーティストも挑戦するいい機会と捉え積極的である。
渋谷のイメージは流行の発信地、若者の街であり、これからも変わらないだろうが、ここに新たな要素としてアートを加えようとしているのではないか。そしてその主体は自治体と有力企業であり、各々が連携してイベントを仕掛けていくことで、人々を渋谷へ誘引する力を強める狙いがあるように感じられる。現在も着々と進む渋谷の大規模開発、生まれ変わろうとする渋谷エリアの新たな方向性の一つとして、アートが官民において求められている。