シンポジウム(2)
TAMスクールレポート
「第1回TAMスクール」、2日目の最後は当日登壇いただいた田村かのこさん、野田智子さんとファシリテーターの田尾圭一郎によるシンポジウムで締めくくりました。
しかも急遽、聴講いただいた方々全員参加による、ユニークなスタイルに。
フィールドを超えて組織が網の目のようにタテ・ヨコにつながる"アートウーブメント"は、どのように起こし、持続していけるのか?
2日間の総まとめとして、さまざまな議論が交わされました。
グループに分かれて議論された4テーマとは。
2日目のシンポジウムでは、講師の田村さん、野田さんも加わり4つのグループにわかれて語り合う形式で実施。その後、各グループの議論を共有することで、さらに議論を深めることになりました。
「アートプロジェクトは今後どのような姿をめざすべきなのか。アートウーブメントのタテ・ヨコの要素が具体的にどんな特徴を持っていて、どんな課題を解決できるのか。皆さんと議論したい」とファシリテーターの田尾圭一郎がシンポジウムのゴールイメージを共有。
さらにグループトークで語り合う4つのテーマが以下のように提示されました。
- Aチーム『どんなネットワークや集まりがあればよいですか』
- Bチーム『どんなクリエイティビティを発揮していますか』
- Cチーム『聞くため、伝えるために工夫していることはありますか』
- Dチーム『どんな労働環境であれば持続可能ですか』
さっそく6~7名ずつに分かれた4グループが、それぞれ白熱した議論をスタートしました。
『どんなネットワークや集まりがあればよいですか』というテーマで話し合ったAチーム。それぞれが現場でかかえる苦労、課題を共有しながらの議論でした。だからこそ印象的だったのは「何か悩みがあったときに気軽に相談できるネットワークもほしいが、むしろ一つのプロジェクトを成立させるために自分の知見からアドバイスをくれる、何なら一緒に動いてくれる。そんなネットワークがほしい」との声でした。
また「地域の企業や地域の観光協会とのつながりがあると費用面で助かる」「おカネ集めが得意な人、デザインが得意な人、マネジメントが得意な人...と多彩な人々がプロジェクトごとに臨機応変に集える。そんな機動的なネットワークがベスト。ネットやSNSの環境が整ったおかげでそれがしやすい。ネットTAMもプラットフォームになりえるのでは」と、実務的な提案もありました。
Bチームのテーマは『どんなクリエイティビティを発揮していますか』。比較的抽象的なテーマだったため、実際には「コロナ禍で環境が変わったが、どのようなクリエティブな工夫をしているか」に寄った議論がされました。
たとえばギャラリストの参加者からは「ビジュアルコミュニケーションの価値を感じている方は多いと思うが、私はアーティストがその作品で何を表現したいのかを理解し、お客様に言語化して伝えることを重視している」という話が。また「気軽にスピーディに大勢の方々とミーティングするためClubhouseを活用している」といった、コミュニケーションの手法としてのクリエイティビティに活発な意見が出ていました。
Cチームは『聞くため、伝えるために工夫していることはありますか』がテーマ。たとえばコミュニティ内で問題が起きた際、相談をどう受けるかの議論が交わされました。
「窓口担当者を決める」という意見もあれば、「又聞きにならないようにあえて担当者を置かない」という真逆な意見も。そのほか、初対面でのコミュニケーションを円滑にするために、「その土地ならではの場所の活用や、食べ物の用意」と、別の角度からの提案もあり、具体的なディスカッションが進んでいました。
Dチームのテーマは『どんな労働環境であれば持続可能ですか』。
「海外のように、アート業界に携わる人に対するリスペクトがある環境」という意見。その背景には、不安定な収入を補うために兼業するしかなく、「アートに割ける時間が減ってしまう」、「兼業先でも肩身の狭い思いをしている」という苦しい現状が語られました。
30分という短い時間、ほとんどが初対面ながら、誰しも胸襟をひらいた話が飛び交う場に。それぞれの現場で悩まれていたこと、考えていた着想が、解き放たれているようにも見えました。
その後、各グループでの議論の内容を、各グループの代表が発表。チームごとに発表内容をまとめました。
Aチーム『どんなネットワークや集まりがあればよいですか』
色々なかかわり方を許容できるネットワークが必要。そのために"この指とまれ"方式がいいのではという案が出た。たとえば「アフリカ音楽のプロジェクトを一緒にやりませんか」と投げかけてみる。そうすると資金獲得に強い人、デザインに強い人、集客に強い人、場所提供ができる人など、さまざまな得意分野を持った人が集まることができる。結果、上下の力が発生してしまうタテのつながりではなく、ヨコに緩やかなつながりを持って、連携できるのではないか。しっかり資金面を獲得したい人、とにかくアートに携わっていたい人など、それぞれの状況に応じたかかわり方も実現できうる。そんなこの指とまれのプラットフォームをネットTAMでつくってもらえたらすばらしい。
Bチーム『どんなクリエイティビティを発揮していますか』
異なる職能を持つメンバーがそれぞれ発揮しているクリエイティビティを発表したい。「ゴールに向かうための勘所を見極め、問いを絞っていくこと」。それが共通の意見としてあがった。たとえばディスカッションの際に、言語化しにくい部分をビジュアル化することで、共通認識をもたせ、皆のイメージを膨みやすくする。サイエンスを伝える仕事をされている方は、イベント参加者の理解を深めるために、一方通行の質問タイムではなく、一緒に問いをつくるために事前にコミュニケーションカードをつくっていた。あるいは瀬戸内国際芸術祭に携わっている方は、求められているテーマを絞ることで深掘りしていた。分野や役割は違っても、問いを絞るということが共通していた。
Cチーム『聞くため、伝えるために工夫していることはありますか』
「わかり合えないことを前提に、ちょっと寝かせて一呼吸置く」こと。それが肝要ではないかとの結論に至った。たとえば、何か悩みを相談されたとき、力になりたいがゆえに他の人にも話を共有して協力を求めてしまいがちだ。けれど相手は解決したいのではなく、信頼している人にただ聞いてほしかっただけかもしれない。一呼吸置いてその人の気持ちを考えてみる必要があるだろうという意見があった。それは最近よく話題になるハラスメントや差別の話も同じ。解決へのスピード感を出すより、勇気を持って打ち明けてくれた人の気持ちをまずは一旦受け入れることこそが大事だという意見が出た。
Dチーム『どんな労働環境であれば持続可能ですか』
プレイヤーであるアーティストだけではなく、アートマネージャーといったサポートする立場の人の必要性がきちんと認識され、それが賃金に安定的に反映される環境。それが持続可能な労働環境の基本だと考えた。そのために我々マネージャー側の必要性をプレイヤー含めた多くの方々に認知してもらうことが大切だ。また世間への地道な啓蒙という意味で、見積もりの中にマネージャーの人件費を経費として明確に計上すること。そして企画やプロジェクト単位での一過性の助成金や資金提供ではなくて、人件費や研究費のような名目の助成金やスポンサーの確保など、継続的な資金確保ができる仕組みが構築されることが望まれる。
各チームの議論から、アートプロジェクトを進めるうえで、非常に重要となるポイントや解決するべき課題が浮き彫りとなりました。
アーカイブにより時代をつなぐ
各チームの発表を受け、登壇者と参加者の全員参加で、さらに議論を深めるかたちでシンポジウムの後半戦へ。
全国各地から参加者が集まっていることから、"地域のアートマネジメント"に関してディスカッションがなされました。
東名阪の3大都市すべてに住んだことがある参加者の方からは「(大都市でも)地域でまったく異なる個性がある」と、実体験をもとに感じた話が。
「東京はダンス、演劇、音楽など各ジャンルの枠がはっきりしているがゆえに領域横断がしにくい面がある。その一方で地方に行けば行くほど、お客さんの母数が少ないので他ジャンルと手を組むことが不可欠だと皆が感じていて、領域横断の活動がしやすい」と、興味深い地域特性について語られました。
それを受け、野田さんは実体験から課題を示唆。
野田:地方はアートのイベントであればどんなジャンルであろうが、だいたい同じ人が来ているなと感じる。来る人たちの顔が思い浮かぶみたいな。そういった環境でのプロジェクトは、大都市でのプロジェクトとはまた違った手法が求められる。
さらに大都市過ぎる東京ならではのデメリットもあることを田尾が提示。
田尾:京都のアート関係者の人と話していると、「あの店に行けば、アートの総合的なトレンドがわかるよ」というような場所があって、すごくうらやましい。東京は広すぎて、美術に興味がある人と演劇に興味がある人が偶然出会うようなことが起きにくいのも、領域横断がしにくい理由の一つだと感じる。
そして話はジャンルミックスのオンライン・アートプロジェクト『AICHI⇆ONLINE』へ。「地域に根差したプロジェクトだからこそ、行政的には観光施策としての意味合いもあったのか?」という田尾の質問に対し、プロデュースした野田さんが回答しました。
野田:コロナが明けた後に、愛知県を訪れてほしいという、愛知県のねらいはあった。なので、その場所への憧れや、行ってみたいという思いをオンライン上でいかに設計できるかを意識した。
すると、参加者から、「WEBサイトを見ておしまい、にしないためには、その土地をリアルに感じてもらう必要があると思う。そこをどのように表現したのか? また設計するときにどのようにオーダーしたのか?」という問いかけが。これに対し、野田さんはWEBディレクターの存在について言及しました。
野田: リアルの展覧会で会場設計をする人がいるように、オンラインの展覧会でWEB構造を設計する人が必要だろうと思ってWEBディレクターの必要性を感じた。どうすればお客さんがWebサイトを見たときに興味を持ってもらい、その世界感へ没入することができるのかを常に考えている人たちなので、企画段階の最初の段階からメンバーに入ってもらった。おかげで"自分ごと"として深くかかわっていただけたと思う。
大きなアートプロジェクトでは、スタートの段階の座組みで、どんなメンバーを選定するかが重要だということに触れました。「Webサイトも広報のためのツールではなく、作品体験のツールとして考えるべき」とこれからのアートの可能性を感じさせるような発言も。
野田:WEBサイトを作品体験の場にできると、今の作品としてだけでなく、過去のアーカイブとして蓄積しておくこともできる。それらをどうこれからのアートプロジェクトにうまく融合できるか考えていきたい。
時代をつなぐことがオンラインの活用で実現可能になる。新たなアートマネジメントのかたちかもしれません。
アートに必要不可欠なマネジメント人材をつなぐ。
その後、田村さんより、地域に根差した芸術祭では「地域のボランティアさんの心に、その体験が残ることが一番重要だと思う」との話が。
田村:芸術祭は数年に一度の開催で常に何かがあるわけではないので、地域に渡せるものがあるとすれば、芸術祭にかかわった人の心に残る体験そのものだと思う。札幌国際芸術祭2020(SIAF2020)では、コロナで芸術祭が中止になっても興味を持ってくれている人たちのコミュニティを強化したいという思いから、登録制のSIAFラウンジオンラインという取り組みを始め、月に1回ZOOMで集まっている。これは、あいちトリエンナーレ2019開催時に「あいトリ同好会」という芸術監督の津田大介さんも参加するコアファンの集いがあって、これを札幌でもつくりたいという想いで始めた。2023年のSIAFが開催されるまでに、時空や場所を超えた強力なコミュニティができていたらすごく強いなと。
野田:あいちトリエンナーレのボランティアさんって横浜トリエンナーレなど他の芸術祭のボランティアさんともすごく仲がいい。メンバーに声がけをしてツアーを組み、お互いの芸術祭を一緒に行き来している。オンライン化が進んだことで、さらに日常的にコミュニケーションを取りやすくなっているかもしれない。
「ボランティア同士のヨコのつながりが存在している」その重要性を感じたと田尾もいいます。
田尾:今日の話を通じてさらに強く感じたのは、マネジメントをする人材を、やはりもっと可視化するべき。そしてヨコのつながりができるとノウハウを共有することもできるし、さまざまな考え方に触れることができて新たなアイデアが出たり、問題解決の糸口を見つけることもできる。
「まさに今回のこの場が貴重なコミュニティになるのではないか。今日の参加者がつながることから始めませんか?」多くの参加者からそういった提案を受け、前向きに検討することとなった。
2日間にわたるスクールは、新たなコミュニティの萌芽の場となって幕を閉じました。
2021年8月24日
取材・文:日下部沙織