文化オリンピアード、いよいよ始動!
演出家野田秀樹氏による「東京キャラバン」が、東京都の2020年に向けたリーディングプロジェクトとして駒沢公園で実施されたのが昨年の10月10日。それからほぼ1年、2016年10月7日、江戸の庶民文化の拠点ともいえる日本橋・福徳の森で、「東京2020文化オリンピアード」のキックオフが行われた。公益財団法人東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下組織委員会)、三井不動産株式会社、東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団(以下財団)の共催で開催された公式プログラムだが、組織委員会によれば「東京2020文化オリンピアード」の目的は、「東京2020大会の開催に向け、文化芸術の力で地域を活性化し、若者の参画促進や創造性を育むことで2020年から先の未来に日本や世界の文化を継承していく」となっている。
このキックオフに先がけて、組織委員会では、10月からの事業を対象として東京2020公認プログラム等の認証を開始しており、例えば東京都としては、「小曽根真&ゴンサロ・ルバルカバ“Jazz meets Classic” with 東京都交響楽団(10月1日、東京文化会館)」が公認プログラムとなっている。その他9月末の時点では、「文化」カテゴリーとして全国で20件近い事業が組織委員会の公認プログラムとして認証されており、いままでロンドン大会を追うように語られていた「オリンピック・パラリンピック文化プログラム」が、現実のものとしてとうとう始動しはじめた。今後、組織委員会が認証する東京2020参画プログラムは日本全国でさまざまに展開されていくはずだ。
ちなみに昨年からの東京都のリーディングプロジェクトは、今年8月の2016リオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピック大会開催期間中のリオでの事業に引き継がれた。「東京キャラバン」は多様なアーティストが出会い“文化混流”することで、新しい表現や可能性が生まれるというコンセプトで、ブラジルのアーティストとのコラボレーションを展開。そのほか、日比野克彦氏による「TURN」事業(異なる背景や習慣を持ったさまざまな人々の出会い方、つながり方に創造性を携え働きかけていくアートプロジェクト)、東北と東京の郷土芸能を介して、東京の文化の発信とともに、東日本大震災の被災地“東北”の復興と世界に向けた感謝をアピールした「TOHOKU&TOKYO in RIO」などが、2020年に向けてのプログラムを、まさに“リード”するかたちで実施された。
東京都は、都が主導する文化プログラムの方針として、「文化プログラムを牽引するシンボリックな事業を展開する」、「さまざまな主体の新たな発想を取り入れた事業を推進する」、「海外との交流を促進し、国際的な発信力を強化する」、「東京と全国各地が連携して、オールジャパンとして魅力を向上していく」、「さまざまなセクターとの連携による芸術団体等の活躍を支援し、文化の祭典としての機運を醸成する」の5つの柱を打ち出し、「東京文化プログラム」として東京都や財団主催の既存の事業も巻き込みながら、この4年間でさまざまな事業を展開していく予定である。
これから東京都はもちろん、国(政府)、地方自治体、スポンサー企業、業界団体等、さまざまなセクターが、文化プログラムを積極的に実施していくことになる。また組織委員会の認証の対象とならない事業も山のようにでてくるだろう。その多様な動きをみていると、文化プログラムには2方向の展開があると感じている。この4年間そしてその先を展望するうえで、線形的展開と指数関数的展開とでもいえばいいか。既存の事業やイベントを文化プログラムとして取り込み、より多くの事業を展開し多くの方々に参加してもらう量的なインパクトを生み出す方向と、この機に2020年以降を見据えて、新しい文化の魅力を引きだせるようなチャレンジ、あるいは未来を牽引するであろう未知数のインパクトを模索する事業の方向である。
量的なインパクトで、多くの人々に新しい価値観や、新しい感動を生み出していくことも重要、そして、創造環境の向上や社会と向き合う芸術文化のあり方の提案など、文化プログラムを通じて新しい可能性を追求するチャレンジも重要、両軸があってこそのオリンピック・パラリンピック文化プログラムであろう。アーツカウンシル東京でも、今年はより多くの方に文化プログラムをアピールできるよう「東京文化プログラム助成」として、民間の方々のもつ活力・波及力に期待した、大型プロジェクトの支援制度を立ち上げた。これに引き続き、来年度以降は若手のクリエーターや市民が参画できるような、人材育成につながるような支援や、新しい感性を掬いあげることができるような事業を立ち上げる予定にしている。
オリンピック・パラリンピックという世紀の祭典に資する祝祭感あるプロジェクトとともに、日常社会の中で、知らず知らずのうちに失いつつある何か、埋没している価値、そして傍らで生まれつつある新しい創造にも留意しつつ、文化プログラムの推進が新しい生活の豊かさにつながり、都市を変えていくパワーになるということをぜひ、さまざまなセクターとともに、挑戦できればと思っている。