あれからもう14年も経っていたんですね。あの現場を離れて8年ですか...地元の小さな演劇組織の事務屋でしかなかった僕が、当時、金沢市が「若者の文化発信の拠点づくり」を目的に作った施設、金沢市民芸術村のドラマ工房ディレクターとして関わって、振り返ればとんでもない所まで来てしまったものです。
あの時の金沢演劇状況を振り返ると「トヨタ・アートマネジメント講座」の開催は、まるで「黒船」がやってきたような事件でした。少なくとも当時のディレクターや市民参加で集まったスタッフたちにとって、「黒船」が運んできた「アートを社会に開く」という理念は、開催後にさまざまなプロセスと4年の歳月をかけて、2002年に完成したドラマ工房創造発信事業「蜃気楼」公演に大きな影響を及ぼしました。しかしながら、過度の負担と言われ続けた「市民ディレクター制度」は、任期交代制によって、蓄積された専門スキルを地元に定着させることなく、現在でも懸命な個人のバトンリレーで続いているようです。
05年から市直営の金沢文化振興財団が指定管理で運営する「金沢文芸館」でも、若干の市民参加運営があるようですが、市民からの発信力までには至っていません。いま一番金沢文化をけん引している「金沢21世紀美術館」は、設立当初04年に市民ボランティア運営をスタートさせたものの、数々の教訓から、現在では事業単位ごとの「美術館ボランティア」を専門職がしっかりコーディネートし、キュレーターによる良質なマネジメントが定着しているようです。このまちには「市民力」をはぐくみ、育てる土壌が決して豊かとはいえないことが「芸術村」から「21美」への変遷からもうかがうことができます。
話題の「金沢21世紀美術館」。市民の参加で円形建物全体を囲む「
朝顔プロジェクト」を実施。
思えば現場を離れてからのち、公共に参加できない市民参加の実態を経験し、NPOという切り口で市民をコーディネートする支援組織の専従者を志願したのは、やはり芸術村で果たせぬ想いがあったからだといま、あらためて思います。
自主的・自発な意思で組織をつくり、新たな公共を担う運営主体として市民にサービスを提供する仕組みを持つことは、NPO法人に限ったことではありません。少子高齢化で限界町会(自治会)へ向かう住民の新たな決起もまた同じです。2年前からはそうした地域課題のアドバイザーとして、週半分ほどですが市役所へ出向するはめになってしまいました。行政の力技が通用しなくなった今日、いよいよ人と人、組織と組織を結ぶコーディネートが忙しい時代になってきました。アートに限らず、「市民の暮らし」全体がいま、新しい公共のマネジメントを求めています。あらためて「トヨタ・アートマネジメント講座」との出会いに感謝しています。
金沢市民芸術村アート工房と田んぼを持つNPO法人、それに近隣の児童館とのマッチングをプロデュースした「田んぼにアートなかかしをつくる」プロジェクトの完成作品(2009年8月)。
金沢市の協働をすすめる「市民フォーラム」で、協働についての寸劇をプロデュース。協働の理解促進に寸劇が一役 (2010年2月)。
(2010年3月9日)
青海 康男
NPO法人いしかわ市民活動ネットワーキングセンター理事・事務局長
1950年生まれ。民間非営利団体活動の促進及び支援を目的とする特定非営利活動法人「いしかわ市民活動ネットワーキングセンター」理事・事務局長。
金沢大学非常勤講師、金沢市の協働をすすめる市民会議アドバイザーを務めるほか、金沢市町会連合会コミュニティアドバイザーとしても町会(自治会)運営や活性化に関する相談・支援業務を行うなど多方面にて活躍中。
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