芸術文化と公益法人入門
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非営利法人の種類
~特定非営利活動法人、一般法人、公益法人~
前回(入門[1])は、「A市伝統奇術普及協会」が法人種類を比較検討するにあたって、1.任意団体、2.団体の法人化、3.営利法人について説明しました。今回は「非営利法人」です。
- 非営利法人【1】:特定非営利活動法人
非営利法人は営利を目的とするのではなく、剰余金を分配することが禁じられています。非営利法人にもさまざまな種類がありますが、最も人々に利用されているのは特定非営利活動法人(いわゆるNPO法人)と一般法人です。他に社会福祉事業だけを目的とする社会福祉法人や私立学校の法人などがあります。
特定非営利活動法人は、阪神淡路大震災で市民のボランティア団体が救援活動に大活躍したことがきっかけとなり1998年に制定された法律に基づく法人で、市民のボランティア団体が都道府県などの所轄庁の認証を取得して比較的簡単に設立できます。特定非営利活動法人の事業は法律により17種類が指定されていますが、その4番目に「学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動」というのがありこれに該当できそうです。
特定非営利活動法人となり2年の実績ができれば、パブリックサポートテストと呼ばれる市民から広く寄附金を受けているかどうかのテストを含む認定基準を満たすことにより、国税庁より「認定特定非営利活動法人」という認定を受けて、寄附金への税制上の優遇措置も認められ、なかなか魅力的です。特定非営利活動法人は今や全国で4万団体に達しようとしていますが、この認定を受けた法人はわずか200足らずであり、なかなか難関のようです。しかし、2011年度からその要件が大幅に緩和される方向で、すでに政府の方針が固められているそうです。
Bさんたちは特定非営利活動法人を候補として残し、次の法人種類を検討しました。
- 非営利法人【2】:一般法人と公益法人
それは、2008年に施行された「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、一般法人法)」という新しい法律に基づく法人です。
この法律に詳しい人の話を聞くと、日本には明治29年という大昔から民法で社団法人・財団法人制度というものがあり、総称して公益法人と呼ばれていました。公益法人は文字通り公益に関する法人ですが、その設立には主務官庁の許可が必要で、その許可基準も明瞭ではなくお役所の都合で許可したり許可されなかったり、首尾よく設立できた後も主務官庁がその業務を監督するという、お役所の支配・介入色が大変強い法人でした。そのような主務官庁制度の弊害が識者から指摘され、ようやく政府が重い腰をあげ、抜本的に公益法人制度を改正したのです。実に110年ぶりの大改正です。
この大改正は三つの法律でできています。「一般法人法(略称)」と「公益認定法(略称)」そして「整備法(略称)」です。簡単にその制度の内容を説明しましょう。
まず、一般社団法人と一般財団法人は株式会社同様登記だけで簡単に法人を設立することができます。剰余金を会員に分配することだけは禁じられていますが、主務官庁というものはなく日常的な監督はどこからも受けません。目的や事業にも特別の制限はありません。いってみれば法令や公序良俗に違反しない限り自由に事業ができます。市民にとってはなかなか使い勝手のよい法人種別です。税制上は解散した時に残った財産を会員等の関係者に分配しないことを定款で規定するなど、一定の要件を満たせば、「権利能力なき社団」や特定非営利活動法人同様、税法が規定する収益事業にのみ課税されます。
なお、「A市伝統奇術普及協会」は会員によって事業が運営されていますから財団法人ではなく社団法人に該当することもわかりました。財団法人はある程度の大きな財産を元手に事業を行う法人に向いています。
この一般法人に公益性があれば、所轄行政庁の認定を受けて(新)公益法人になることができます。公益認定を受けるためには18の基準が公益認定法で規定されていますが、一口でいうと、
- その事業が不特定多数の者の利益増進に寄与するものであり、特定の者への利益供与となっていないこと、
- 理事、監事、社員総会、理事会などの機関がしっかり機能していること、
- 利益を蓄積したり、公益目的事業以外の事業を50%以上しない、使用目的のない遊休財産を多額に保有しないこと
また、公益認定は形式的にはお役所がおこないますが、実質的には市民を代表する役所から距離を置く第三者機関が認定する点で大きな特徴があります。
公益認定を受けると「A市伝統奇術普及協会」は「公益社団法人A市伝統奇術普及協会」と「公益社団法人」を名称につけることが認められますが一般法人のままですと「一般社団法人A市伝統奇術普及協会」ということになります。
さらに、税制上公益法人は、公益目的事業はたとえ税法上の収益事業であっても非課税となるなど法人に対して手厚い税優遇があるばかりでなく、寄附者に対しても寄附金控除や相続財産を寄付したときの控除もあります。
「A市伝統奇術普及協会」は、最近その活動が広く市民に認められ一般会員が急増するだけでなく、賛助会員と呼ぶサポーターからの寄附金募集にも力を入れているので、2年の活動実績がなくてもすぐに受けられる寄附者優遇税制は大変魅力的です。
最後に「整備法」ですが、これは旧民法で公益法人と認められていた法人約2万4000の新制度への移行手続きに関する法律で、2013年11月までに新しい公益法人か一般法人に移行しなければならないことになっています。
さて、Bさんたちの検討は終わりました。そして特定非営利活動法人にするか一般法人を先ず設立して公益法人となるか2つの選択肢が残されました。あとは、会員総会でじっくり議論をして、会員の総意に従うこととしています。
ここで「A市伝統奇術普及協会」のお話は終わります。
(2011年2月15日)
※本シリーズは全3回の連載です。次回(最終回)は「芸術文化と公益法人」(2011年3月掲載予定)です。