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「私」からはじまる強さ

今年度のリライトコミッティの受講生には「生と死」というテーマのもと、一人の社会彫刻家として自身が考える「行動計画(Action Plan)」の立案とその実践に取り組んでもらった。

通常何かを企画する場合、自身の取り組みたいテーマに対し社会/顧客が抱える課題を分析し、社会/顧客が抱える課題を明らかにすることで、具体的な解決策につながる提案をつくりあげていく。

しかし、このリライトコミッティでは、その企画を通じて相手に何を伝えることができるか、何が解決できるかという他者への影響よりも、本人がどれだけその企画を実現させる意志があるか、自分自身は何に対峙しアクションをつくろうとするのかという自分自身の内側から始まる企画を求めた。

何よりもまずは、よそ行きの言葉ではなく、自分自身の言葉でプロジェクトを語ること。自己満足だけの企画は見たくないが、こうすれば正解だという自分の外に答えを求めるような企画も見たくない。社会彫刻家を育成することを掲げる学びの場だからこそ、「私たち」の中に答えを探すのではなく「私」という1人称で行動を生み出し、そこから「私たち」に影響を与えていってほしい。それこそが、一人ひとりが主体となり社会を彫刻していく力なのではないかと考えている。

現在、一人ひとりが考えたプランはWEBサイトに公開している。色々と考えた末にどんな企画が生まれたのか、ぜひ確認いただきたい。

さて、今回はRelight Projectを運営するNPO法人インビジブルでインターンシップを行なっている鶴見香月による寄稿文を合わせて記載し、リライトコミッティという場からの学びを共有させていただきたい。

(2017年3月17日)
特定非営利活動法人インビジブル 林曉甫

「inVisibleでの学び」

大学で美術館や博物館の勉強を始めたころ、私にとって美術館という存在は感動と刺激をくれる大切な場所であり、アートに触れる唯一の場所という認識がありました。そんなときインビジブルと出会い、『Counter Void』をはじめとするパブリックアートの世界を知ります。

博物館を飛び出し、日常に溶け込むパブリックアートは常に外にひらかれており、アートと人々の関係の広がりに新鮮な驚きを覚えました。インビジブルが取り組むRelight Projectでは、宮島達男のパブリックアート『Counter Void』を一般の参加者で取り囲みます。作品のメッセージである「生と死」について対話を重ね、それによって一人ひとりが主体となり、各自の行動へと昇華させていく。

アートをめぐる場が多様になっていることや、そこに集まる人々の動きに興味を持ちました。アーティストだけでなく、それを活かす人、そこに巻き込まれていく人々を見てみたいと思いインビジブルの門を叩きました。

インビジブルではインターンとして、また一参加者としてRelight Projectを見守ることとなりました。市民大学としての学びの場をつくっているRelight Committeeは、社会にひらかれた新しい経験を得ている感覚がありました。企画をつくり上げるだけでなく、企画をつくるまでの道のりや、自己と向き合う姿勢を重視していることが見えてきます。参加者自身が、アーティスト的な思考を体感する日々でした。

『Counter Void』が再点灯した3月11日、私自身も参加者としてメンバーに付き添い、六本木の街を練り歩きながら歌いました。東日本大震災を悼み、多くの人によって歌い継がれてきた『花は咲く』。道行く人々は怪訝そうな目線を向けますが、それ以上は何も反応を示しません。誰かに止められることは一度もありませんでした。

私たちが歌うことは、無言のうちに許されていました。六本木という、震災から程遠く見えるまちで、震災を思い起こす歌を歌うのは勇気が必要でした。しかし、公共の空間に違和感を生み出している感覚に抗いながら、震災の発生から6年が経った日を噛みしめながら、今を生きていることを強く意識した時間を過ごしました。

Relight Daysが始まるまでは、宮島達男というアーティストの作品に参加者が寄り添うイメージがありました。3日間の再点灯を経て、参加者の想いが『Counter Void』のメッセージの引力に引きつけられ参加者自身の手によって想いを考え行動する場になったのだと実感しました。

インビジブルのインターンとして、Relight Committeeのメンバーの変化を感じ取り、また一参加者としてもプロジェクトを体験しました。今までに関わることがなかった、新しいアートに触れる場所に足を踏み入れた1年でした。近い距離で作品に触れ、一個人としてどう感じるか、そこからどんな行動を起こすのかという問いを投げかけられました。学生として、または社会人といった無意識の枠を解いてくれるのはアートでした。

「アーティスト的な思考は身につけることができる」─社会に出ていこうとする今のわたしにとって、それは希望に溢れた気づきとなりました。

(2017年3月17日)
NPO法人インビジブル インターンスタッフ 鶴見香月


講座レポート(第8回 2017年2月18日開講)
報告:山上祐介

「単なるサード・プレイスではないという気づき」

集団でのアクションから個々のアクションへ

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それぞれのアクションプランの発表。

残すところあと2回となった今年度のリライトコミッティ。今日は3月11日から3日間だけ開催されるリライトデイズに向け、全体で実施するアクションプランと個々のアクションプランの擦り合わせを行なった。

リライトコミッティ2016のメンバー(以下、2016メンバー)の発表を聞きながら、リライトコミッティ2015メンバー(以下、2015メンバー)である私が、昨年の活動を通しての経験を踏まえながら今回感じた気づきを交えつつ話しを進めていこうと思う。(編集注:今回のレポートは、3月11日からのリライトデイズ前に書かれたものです。)

2016メンバーが取り組んでいる各アクションついては、最新の情報がウェブサイトに更新されている。こちらをご覧ください。

5年ぶりの点灯と1年ぶりの点灯

1年前のことを思い出してみると、昨年のリライトコミッティは5年ぶりとなる『Counter Void』の再点灯に向けて、記者会見やリライトセッション、点灯式の準備を縦方向として、リライトデイズに実施する各企画の落とし込みを横方向とする、まるで織物を織るような活動であった。

一方、今年のメンバーは全体として象徴的なイベントは行わず、2015のような昼企画や夜企画といったチーム分けもせず、各々が「社会彫刻家」として自身の企画を実施している。

昨年のリライトデイズのような規模のイベントが開催されないことに対して、外部の人は残念がるかもしれない。しかし、昨年の当事者だった私は2016メンバーのこの行動を喜ばしいことと捉えた。

というのも、昨年の2015メンバーは5年ぶりとなる『Counter Void』の再点灯を基準に行動をしていた。つまり、生と死を考える3月11日からの3日間がゴールだった。

それに対し、今年のリライトコミッティは「社会彫刻家」の輩出がテーマである。2016メンバーにとって3月11日からの3日間はゴールではなく、あくまで通過点なのだ。事実、リライトデイズ終了後も継続する企画を考えているメンバーや、リライトデイズの開始前あるいは終了後に企画を実施するメンバーもいる。

それらの成果発表は、リライトコミッティの最終日3月18日に行われる。演劇に例えると、2016メンバーにとって成果発表が本公演だとすると、リライトデイズはワーク・イン・プログレスのような位置づけと言えるだろう。(2つの期間が短すぎるのは置いておく)

このように書くと、今年は昨年に比べてバラバラでまとまりがないように聞こえてしまうかもしれない。しかし、むしろ2016メンバーの一体感は2015メンバー以上にあると私は感じている。

そう感じる理由として2つ挙げられる。1つは昨年に比べて人数が少ないという点。人数が少ない理由は、プロジェクトのテーマが異なるためである。昨年はリライトデイズの企画・運営を題材に「ポスト3.11」の社会を考え、アクションを起こすことがテーマだったのに対し、今年は社会彫刻家の輩出をテーマとした少人数制の市民大学を目指していたためである。

もう1つは2016メンバーが公募の時点で「社会彫刻家」を意識していたという点だ。『Counter Void』の「再点灯」よりも、「社会彫刻」という言葉に魅力を感じてリライトコミッティの門を叩いた2016メンバーにとって、リライトデイズは昨年の位置づけとそもそも違っていたのだ。視野を広げ自分ごととして企画を考え行動する「社会彫刻家」の意識を持つ2016メンバーにとって、2015メンバーと同じことをするのではなく、自分たちだからこそできる挑戦に舵を取り出したのだ。

新たな価値をつくり続け、行動する人とは? 社会彫刻家を彫刻する

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昨年の受講生からもさまざまな質問が投げかけられる。

さて、昨年は3月11日の18時に5年ぶりに点灯された『Counter Void』だが、今年は3月11日の14時46分に点灯される。

再点灯にあたっては、昨年は5年ぶりの点灯だったこともあり、『Counter Void』前にメンバーと宮島達男さんが並び、2015メンバーによる進行のもと厳かな点灯式が行われた。点灯式にはメディア関係者も含め300人以上の方々が集まり、このプロジェクトの関心の高さと自分たちが行なっていることの影響力の大きさをあらためて実感した。あの点灯式は、今となっては夢のような出来事だった。

しかし、今年は点灯式のような式典は行わず、14時46分になったら作品が点灯される。式典のかわりに、けやき坂を挟んだ『Counter Void』の向かい側にのインフォメーションセンターを設置し、3日間メンバーが持ち回りで常駐し、作品の説明やワークショップなどを行う。2015メンバーとして、昨年の経験を活かして2016メンバーを自然に引っ張っていきたいと考えている。

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六本木アートナイト2015からスタートしたワークショップは今も継続して行われている。

リライトデイズで行なう具体的なアクションとして、今年も参加者が3.11に対する各々の想い・考えを書き込み、ウェブ上で共有するワークショップ「3.11が■ている」を行なう。2016メンバーらの個々の企画にあわせて、ワークショップやパフォーマンスなども行われる。

また、2016メンバーから企画された「社会彫刻家を探せ」も実行される。

これはリライトデイズ期間中にメンバー(2016+2015)が老若男女問わず「この人は社会彫刻家だ」と考えた人を写真に撮らせてもらい、SNS上に記録することで、リライトコミッティがさまざまな角度から社会彫刻家の輪郭を浮かびあがらせていく企画だ。

浮き彫りにするだけでなく、記録を蓄積することで選ばれた方々とリライトコミッティの関係性を可視化することにも期待している。

声を掛けられた人は「社会彫刻」という概念を知り、それまでと違う視点で自らを見直し、より豊かな毎日を送るキッカケになればと考えている。

今年のリライトデイズは、昨年と比較すると『Counter Void』自体から少し離れたが、その分社会に対するかかわり方は深くなったのではないだろうか。

Relight Committee 2016のアクションを通し、あらためて気づいたこと

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最終プレゼンのディスカッションには熱が入る。

さて、発表された2016メンバーそれぞれの企画は個が際立つものばかりだった。自分が行いたいことを徹底的に突き進めて行った結果、周囲を巻き込んでプラスのスパイラルをつくり上げている空気をひしひしと感じた。

メンバーの中には、自分の言葉で伝えようと試みるも気持ちが空回りしてしまいまだ掴んでいない人もいる。もちろんこのリライトコミッティという場は職場ではないので先に掴んだからといってそれが優れているわけではない。かといって何も掴まないまま活動を終了してしまうのももったいない。

もしかするとそれを掴むのは1週間後かもしれないし1年後かもしれない。メンバーはもちろん事務局を交えて自分のごとの企画となるようさまざまな意見が飛び交った。

家族であっても職場の人に対しても、他者に対して意見を言うのは自分自身にも痛みが生じるため本当は言いたくない。しかしリライトコミッティでは他者の企画や考えを自分ごとのように捉え、終了時間を過ぎても改善策を残って考える場が今のリライトコミッティなのだとあらためて実感した。

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最近、Socially Engaged Artに関連する企画が増えてきている。

リライトコミッティとは何かを表現するならば、それは「実験的な挑戦ができる」ことだ。ここでいう実験的な挑戦とは具体的なプログラムを指すこともできるが、私が考えているスケールはもっと大きな括りである。

具体的には「多様性を受け入れる」挑戦である。この挑戦には労力と時間を要する。特にアートプロジェクトにおいては、現場になればなるほど相手の肩書きというフィルターを介すことなく素の人間として相手を捉え、ともに活動するために互いに本音で議論する。もちろん、ときに衝突が生まれることもある。

「多様性を受け入れる」といえば聞こえはよいが、実際は自分と異なった考えや立場の相手を許容するためには、先ず自分自身を見つめる必要があり、自分自身を変えていく必要がある。相手を受け入れるためには、相手を知り自分を省みて対話を重ねる必要がある。

それを乗り越えお互いが許容し合うことができれば、チーム内に今まで以上に強固な信頼関係が生まれてくる。その信頼関係がプロジェクト遂行の原動力になる。このような出来事を私はリライトコミッティの活動を通し何度も目撃した。

例えば、昨年のリライトデイズに向けて同じ夜企画メンバーが打ち出した「Count」を、私は当初理解できなかった。その理解不能な企画が自分自身の考えを整理する機会となり、メンバーと本音で話し合っているうちに、気づくと企画の手伝いをしている自分がいたのだ。結果として、私にとって昨年のリライトデイズで1番印象に残る企画となった。

今年度のリライトコミッティの定例会も、次回が最後だ。その間にリライトデイズがやって来る。

今年1年ぶりに点灯する『Counter Void』の姿を観て、昨年に点灯した作品の前で感じたことと今年感じることでは間違いなく違うはずだと予想している。それだけこの1年間充実した日々を送ることができた。

昨年とは違う気づきにいくつ出会えるか、今から3.11の点灯が楽しみである。

レポート執筆:山上祐介(Relight Committee2015)
写真:丸尾隆一

実践編「Relight Committee」 目次

1
アートと社会の関係を考える場
2
学びの仕組みと当事者の視点
3
実験的な学びの場が持つ課題
4
アーティストとして
5
アート的に考えることから
6
現在RCに参加している者として、どのように感じ、どのような学びがあるのか
7
自己の弱さ、他者の弱さを受け止めることから
8
「私」からはじまる強さ
9
「私は社会彫刻家である。」

Relight Committeeを振り返って
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