ブツ切れにしない|広報コミュニケーション活動、3つの視点
こんにちは! そして遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。ネットTAM講座実践編「アートプロジェクト」、新年最初にお届けするのは、東京アートポイント計画でコミュニケーション・デザイン担当を務める中田です。
「伝える」仕事は外側に目が向きがちですが、実際は活動の内側を整えたり、深く深く潜っていくことに通じています。現場のエピソードを拾い、関係性に手入れし、外の声と内の意思を丁寧に編んでいく。そんな視点から、今回は広報コミュニケーションという仕事を考えてみます。
それではさっそく、『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>』(以下、通称『ことば本』)から、今月のことばをどうぞ。
今月のことば
ブツ切れにしない広報活動も「ハレ」と「ケ」の情報が混ざり、複雑な織り目として表現できたとき、はじめてプロジェクトの総体を伝えられる。大事にしたいのは、活動の流れ、全体コンセプトと個別企画、情報間の導線など、プロジェクトの点と点を可視化し、文脈として編んでいくこと。そして関係性を切らさないための継続的なコミュニケーションだ。プロジェクトは、日々変化する生き物のようなもの。ブツ切れ広報では、もったいない。
『ことば本』、54頁
筋を通して、信頼をつくる。東京アートポイント計画のコミュニケーションを見直す!
どんな分野の組織、施設、事業の広報コミュニケーション活動においても「ブツ切れにしない」は大切です。なぜなら、信頼とは「筋が通っていること」に宿るものだから。人との関係性がブツ切れになっていたり、いっていることとやっていることが全然違っていたり、打ち出し方に反して実情がボロボロだったりしたら……情報発信している場合ではありません。
……などと書くと、そのままわが身に返ってきますね。あぁ胃が痛いなぁと思いつつ、東京アートポイント計画でも約2年前から広報コミュニケーション活動に本腰を入れ、まさにブツ切れにしないための施策を重ねてきました。
ちなみに、この記事における「東京アートポイント計画」は、今までご紹介してきたような「東京アートポイント計画事業としてNPOと共催している都内各地のアートプロジェクト」ではなく、それらを支える「中間支援の枠組み」を指します。
今年で9年目を迎えた東京アートポイント計画 *。時間を重ねてきた分、「やってきたことは沢山あるけれど、何が成果でこの先どこへ進むのかが見えづらい」ことが課題でした。また、現場を裏支えする中間支援事業であるがために、「人から遠くなりがち」な点が、広報的には難しくもあります。そろりそろりと歩みを進め、少しずつ快方に向かいつつある(?)実践を、3つの「ブツ切れにしない」からご紹介します。
* 2009年に東京文化発信プロジェクト室の事業として始動。東京文化発信プロジェクト室は2015年にアーツカウンシル東京と組織統合した。いずれも公益財団法人東京都歴史文化財団内の組織。
その1、目標と行動をブツ切れにしない
広報コミュニケーション活動の見直しをかける場合、外から見えている情報のバランスを把握し、本当に伝えたいこととの差分を埋めるべく、施策を立てていきす。大切なのは、広報担当者だけで進めないこと。若手と中堅を交え、色々な現場を持つ担当者と協力しあえるとベストです。そして行き当たりばったりにならないために、広報コミュニケーション戦略の見取り図となるようなツールを共有するのがおすすめです。
東京アートポイント計画の場合は、マネージャーとプログラムオフィサーの4名からなる「戦略会議」をつくり、年度ごとのスローガンと「戦略タスクリスト」を立てることにしました。
たとえば、2017年度のスローガンは「言葉をつかう、仲間をふやす」。これまでの事業資産を活用し、プログラムオフィサーも積極的に情報発信し、コラボレーターを増やしていくことを目標に掲げました。そのために必要だと思われるタスクを洗い出し、「チャネル開発」「新たな人と出会う」「ことばの見直し・再発信」「インナーコミュニケーション」などのカテゴリに分けています。予算と担当を決め、着手時期と完了時期も設定。これを毎週の会議ごとにメンバーで確認し、更新しながら年間30件超の施策を実行することを目指しています。
もちろん予算や人手の問題で、着手できない「本当はやるべきこと」も沢山ありますが、できていないことも含めて可視化し、メンバーで共有することが重要です。この活動をはじめてよかったのは、だんだんとチームの「課題をみつける筋力」が上がってきたことです。
「このエピソードって外に出すべきなのでは?」や、「○○○について解決したいんだけど、どう思う?」など、戦略会議をはじめてから、日常業務の中での気づきを共有する時間が増えました。「課題リスト」ではなく、解決方法を考えたうえでの「対策リスト」をつくるので、建設的な意見が出やすくなります。
「目標と行動」を指差し確認することは、広報コミュニケーション活動だけでなく、事業環境を見渡す視野を拡げ、チームメンバーの心持ちを変えていくことにもつながります。
その2、関係性をブツ切れにしない
次の「ブツ切れ注意」は、「関係性」です。プロジェクトを進めれば進めるほど、アーティストやゲスト、参加者、サポーターなどのステークホルダーが増えていくはず。そういった人たちをパッと一覧できるデータベースや、一斉に連絡するための手段は持っていますか? その後の報告などできていますか?
東京アートポイント計画の場合は、これまでの8年間で43団体と34のアートプロジェクトを実施してきました。ただし、そういった関係資産を引き継いだり、継続的に情報共有する仕組みがありませんでした。そこで始めたのが、関係づくりの口実となるような小さな施策です。
たとえば、2016年はメール配信システムを導入し、関係者の連絡先データベースを整えつつ、イベント案内メールをときどき配信してみました。作業ボリュームや配信先の反応を確かめられたので、今年度からは月刊メールニュースとして定期配信しています。
また、ブログで取り上げることを口実に、かつての共催団体を訪れ、当時の話や現在の活動をうかがいました。そこから新しい発見や情報、事業に活かすべき示唆を沢山いただき、新たな企画やプログラムにも結びつきました。現在、このインタビュー企画の連載化を進めてます。また、昨年度からスタートしたイベントシリーズ「Artpoint Meeting」では、事業テーマにかかわるゲストを招き、新たなコラボレーターを発掘する目的で開催しています。
大切なのは、「今こんなことをしていますよ」とたまにお知らせしながら、「いつか」を待つ心持ち。
わたしたちもメールニュースをはじめたからといって、ぐんぐん参加者数が増えたり、記事がたくさんシェアされるようになったというわけではありません。手がかかる割に読まれているのか不安もあります。ただ、「プログラム背景を読んで興味が湧いたよ。久々に顔を出そうと思って」と声をかけていただいたり、ニュースの内容を元に個別でスタッフにメールをくれる人が現れるようになりました。また、上記で触れた、かつての共催団体へのブログインタビューでは、「東京アートポイント計画で共催すると(方法的に鍛えられ)、中途半端な団体にならない」と、NPO法人AKITEN代表・及川さんからおっしゃっていただきました。そういった視点で捉えたことはなかったので、うれしいと同時にあらためて事業を見直す機会になりました。
関係性は、プロジェクトの大事な資産。新たなネットワークを拡げるだけでなく、過去を振り返ったり、フィードバックをもらいにうかがったり、そういった広報コミュニケーション施策も続けていきたいです。
その3、知見をブツ切れにしない
最後は「成果」を活用していくための視点について。わたしは現在の職場に来てからさまざまな専門用語(業界用語?)に出会いました。その一つが「成果物」ということば。
東京アートポイント計画における「成果物」とは、主に記録集やドキュメントブック等、事業から生まれた紙媒体を指します。毎年30冊近く生まれる成果物。当初は、なぜ「プロジェクト冊子」と呼ばずに「成果物」と呼ぶんだろう? どうしてこんなに発行するのだろう? と、不思議に感じていました。
そして何冊かの成果物づくりにかかわる中で、アートプロジェクトは、生の出来事や表現の連なりとしての姿を持つと同時に、それらを記録し考察し、第3者にも共有可能なものとして編集した何らかの「知見の塊」にもなりうるということ、その役割を強調するために「成果物」と呼んでいるらしいことがわかってきました。だとしたら、その知見も重要な広報素材。使わない手はありません。
たとえば、東京アートポイント計画の『ことば本』も成果物です。『アートプロジェクトのつくりかた 「つながり」を「つづける」ためのことば』(2015年、フィルムアート社)として一般流通書籍になったり、発行から3年後に増補版を各地に配布するほど好評を得ています。このネットTAM講座の連載も「『ことば本』をさらに活用するなら何ができるだろう?」と考え、ネットTAM運営事務局に企画を持ち込み、始まりました。
また、知見に対して、外部からアクセスしやすい環境をつくることも広報コミュニケーションの仕事。人材育成事業「Tokyo Art Research Lab(TARL)」の公式ウェブサイトは、2017年初頭のリニューアルでその点を大幅に改善しました。アートプロジェクトのための各種専門情報が活用しやすいように組まれています。
TARLウェブサイトでは、編集者やデザイナーを中心に結成された外部の制作チームと対話することで、「成果物」の捉え方が更新されました。いわゆる教科書的な冊子だけでなく、レファレンスをつくることで背景となる文脈を情報化したり、各プログラムに紐づく課題を可視化したり、ゲストとしてお招きした方々の情報も、TARLの「生み出したもの/提供できるもの」として可視化しました。外部パートナーとコミュニケーションメディアをつくることは、事業の価値を再発見する貴重な機会でもあります。
美しいビジュアルや先鋭的なコンセプト、キャッチーなタイトル、著名なゲストはもちろん、有力な広報素材です。でもそれ以上にアートプロジェクトの魂が宿るのは、活動をコツコツと重ねた先の「知見」や「経験」。プロジェクト情報だけでなく、そこから生まれた知見もブツ切れにしない。それは、大変ですがとてもやりがいのある、広報コミュニケーション活動です。
おわりに。本当に重要なのは…
以上ここまで、広報コミュニケーション活動における戦略・施策・素材の3つの視点から「ブツ切れにしない」を考えてみました。
なんだか大変そうで、手間がかかりそうだなと思われたかもしれません。そう、大変です。手間がかかります。担当者を一人置いただけでは決してできません。チームメンバーの手を借り、意見を出し合いながら進めないとできないことばかりです。
ということで、本当に重要なのは、「チームをブツ切れにしない」です。多様なステークホルダーと豊かな関係を築くためのはじめの1歩は、最も身近な人との関係づくりから。そこに目配せをするのも、広報コミュニケーション担当者の仕事ではないでしょうか。
チームワークアートプロジェクトは多様なライフスタイルをもった人々が作業をともにするプラットフォームとなる。それぞれの働き方や持ちうる技術は、ばらばらだ。そういうメンバーが全力を出せる動き方を考えるには、時間も手間もかかるだろう。お互いの特性を掴むため、まずは何か作業を共有してみる。一緒にご飯を食べたり、趣味や関心を共有してみたり、目の前のプロジェクトを「やる」ことに捉われない時間の過ごし方も大切だ。
そのチームをつくるプロセスこそが、個々人の想像を超えたワクワクする現場を生むことになるはずだ。
『ことば本』、44頁
(2017年12月18日)
おすすめの1冊
『アート・アーカイブの便利帖―アート・プロジェクトをアーカイブするために知りたいこと』
編集:井出竜郎、川口明日香、工藤安代、清水裕子、原田美奈子(アート&ソサイエティ研究センター)、藤元由記子、真下晶子(株式会社ブックエンド)ほか
発行月:2016年1月
発行:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
Tokyo Art Research Lab(TARL)の研究・開発プログラムから生まれた1冊。プロジェクトのアーカイブを始めるための入門書で、とてもわかりやすくまとまっているのでおすすめです。広報・コミュニケーションには、伝えることの種としての「記録」が欠かせません。TARLウェブサイトからPDFでダウンロードできます。
https://tarl.jp/library/output/2015/art_archive_benricho/