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活動拠点|拠点となる場をみつけよう

こんにちは。東京、まだまだ暑いですね。大丈夫ですか? 前回、第2回目は『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>』(以下、通称『ことば本』)から「事務局3人組」ということばを紐解き、アートプロジェクト運営の基礎となる事務局の役割やなりたちに迫りました。素敵な3人組がそろったら少し歩みを進めて、今回はプロジェクトの広げ方を考えてみます。活動拠点のお話です。最古参プログラムオフィサー(アートポイント歴9年)の大内がお届けします。

今月のことば
活動拠点

まちなかでのアートプロジェクトでは、拠点を構えることが効果的だ。「事務局」の事務所として機能し、事務作業やミーティングのための場所として活用することに限らず、プロジェクトを展開する地域のなかで、アーティストやボランティアスタッフ、地域の関係者が集まり、ともにまちにプロジェクトを仕掛ける計画を練り、作業を重ね、活動を発信していく場所となる。日々、そこでざわざわと活動していることが、地域との顔のみえる関係づくりにも有効に働くだろう。

『ことば本』48頁

まちの人とつながる、「前線基地」

「拠点」ってなんでしょうか。アートプロジェクトの現場では日常的に使用する頻出ワードです。あまり意識せずに多用しています。辞書で引いてみると「活動の足場となる重要な地点」とあります。なるほど。アートプロジェクトのフィールドはまちなかです。出かけていくスタート地点、帰ってくる場所。打って出るための企てをする場所、プロジェクトで出会ったさまざまな層の人々が集う場所。どんな人が、どんな目的で、どんなことをしているのかを示すプロジェクトの顔となる場所。それが「拠点」。まずはそんなところでしょうか。
ちなみに、東京アートポイント計画のミッションである「文化創造拠点の形成」を語るときは、「人的資源」や「活動」など、「社会関係資本」を含めて「拠点」としていますが、今回は具体的な場所=建物にしぼって進めていきます。

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「トッピングイースト」の拠点は和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」の「Nicos Orchest-Lab(ニコスオーケストラボ)」としても稼働中。古い電化製品を使ったオリジナル楽器の開発をアーティストとラボメンバーが日々企てている。

魅力的な拠点は探すものではない、出会うもの

それでは「拠点」は、どう探せばいいのでしょうか。ただの「事務所」ならまだしも、「アーティストやボランティアスタッフ、地域の関係者が集まり、ともにまちにプロジェクトを仕掛ける計画を練り、作業を重ね、活動を発信していく場所」となると、ある程度広さが求められます。10畳敷が2部屋くらい。バックヤードも必要です。あとは集まりやすさ。駅から徒歩5分くらいでないですか。通りすがりの人にもふらりと立ち寄ってほしいので、前線基地的には路面がいいですね。2階はちょっと…。雰囲気があって好き勝手に手を入れてもよくて。予算は、ないです。…という理想と現実の葛藤をぐるぐると巡らせた結果、不動産屋で会話にならない会話をしているプロジェクトの現場も想像に難くありません。

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なので、アートプロジェクトの拠点は、本来では利用価値がつきにくい場所に立ち上がることが多々あります。たとえば、長らく使われていなかった空き家や空き店舗。ビルの空きスペース、使われていない公共施設の一角など。そういったまちの隙間に入り込んでじわじわとプロジェクトを展開していきます。ただし、こういった物件は取り壊し前の期間など時限付きでお借りするケースも多いため、オーナーの意向で急に立ち退き(!)、などという突然のリセットを余儀なくされることもあります。

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「としまアートステーション構想」(2011年-2016年)で制作したカードゲーム「としまアートステーションYのつくりかた」。2014年度に実施した「としまアートステーションY」をめぐるプロジェクトをシミュレーション・ゲームとして追体験できる。「場」を表すカードは13枚。空き家や公共施設、お寺など、リアリティのあるまちの隙間がふんだんに取り入れられている。

拠点の見つけ方に必勝法はありませんが、魅力的な物件との出会いはタイミングであるといえます。プロジェクトのいしずえが整い、まちの人々と出会っていく過程で、活動が信用を得て認知されたころに「プロジェクトを広げていくために拠点が必要です(なくて困っています)」を訴え探し続けていると、思いもよらぬところから助け舟はやってきます。えてして、適正規模で。よいプロジェクトほど運命的な出会いをして拠点を手に入れていきます。それもそのはず、基本的に「お金がない」ところから始まるケースが多いので、運命的と思えるところにしか着地できないのです。プロジェクトの成長過程に合わせて、拠点の規模や数も変化を遂げていきます。わらしべ長者の様に。アートプロジェクトにかかわって14年、そんな現場を何度も見てきました。ほんとうです。まずはセオリー通り地元の不動産屋めぐりからはじめてさまざまな物件を見てまわる過程で、「(この空き家、いいなぁ)」と建物を見上げていたら「…なにしてるの?」と持ち主がふらりと現れて交渉スタート、なんてこともありました。

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「としまアートステーション構想」では雑司ヶ谷駅直結の「としまアートステーションZ」に続いて豊島区上池袋にある木賃アパートに「としまアートステーションY」を開設。偶然にもアパートの名称が「山田荘」、プロジェクトパートナーのユニット名が「山本山田」と「Y」にまつわる運命的な出会いも。写真は中崎透プログラム「上池ホームズ計画」@山田荘の様子。

ここで素敵なタイミングを得るために肝心なことは、アートプロジェクトにおける誠実な日々の営みです。地域の人々と関係をつくり、丁寧に人とつながること。その先に楽しい企みを考える共犯関係を築くことです。こつこつと積み上げた信頼の上に運命的な出会いは宿ります。お金がないなら空き家を持っていそうな人、つないでくれそうな人を探す。探していることを声に出していってみる。やれることからやってみましょう。

拠点は、はぐくむもの

魅力的な拠点が手に入ったら、まず「ご挨拶回り」をしましょう(『ことば本』、45頁)。アートプロジェクトの運営側は「ヨソモノ」であることが多いです。地域住民との良好な関係なくしてプロジェクトは動きません。できれば、毎日オープンして、掃除をしましょう。常に人がいる状態をつくり、「なにかやっている、なぞの場所」というイメージをつくりましょう。時に正しく、時にあやしく。掃除と挨拶。拠点をもったら合言葉のように意識しましょう。「なぞの場所」を開くと、大抵は地域の子どもたちが転がり込んできます。子どもたちと仲良くなることも、地域に溶け込む近道です。まちに「なぞの場所」があること。それは、子どもたちの遊び場となり、時には逃げ場としても作用するはずです。適切に開き、適当に閉じる。ほどほどな居心地をはぐくむことで、地域に居てもよい状態をつくりましょう。

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千住ヤッチャイ大学」によるコミュニティスペース「たこテラス」。シャッターを開けていると、どこからともなく子どもたちがやってきて、不思議な楽器で遊んだり、工作をしたり。「なぞの場所」を余すことなく楽しんでいた。2017年7月23日に惜しまれつつ約2年間の活動に幕を下ろした。(提供:千住ヤッチャイ大学)

また、活動拠点は、さまざまな情報がストックされていく場でもある。部室のように、人が変わっても活動の歴史が蓄積されていく。その環境が、新しく加わってくるメンバーの育成の助けになるだろう。

『ことば本』48頁

プロジェクトの空気感を託す

第1回第2回でも触れているように、東京アートポイント計画でのアートプロジェクトとは、「ある一定期間に実施される一過性のアートイベントではなく、連続性・持続性のある活動」を指しています。連続性・持続性のある活動を続けるにはプロジェクトそのものの知見や経験、価値観や空気感(雰囲気)の共有が欠かせません。それらの要となるのが「事務局」ですが、メンバーチェンジは毎年あるもの。アーティストやサポーターも毎年顔ぶれが変わります。人の知見の引き継ぎには限界があり、毎年のカラーが変わるのはやむを得ないとしても、核となるプロジェクトがまとう空気感を託す方法があります。それが「拠点」です。新メンバーはまず拠点を訪れ、ここにかかわることでなにができそうか、またはここではないかもしれない…など自分とプロジェクトとの親和性をはかることができます。拠点を訪れて、わくわくすること。それがプロジェクトの入り口です。拠点の空気感の蓄積は、危機と思いがちなメンバーチェンジなどの人の循環を、ポジティブに転換してくれます。

いつまでもあると思うな

プロセスが重視されるプロジェクトであるからこそ、拠点にはさまざまな経験と物語が蓄積されていきます。かかわった人にはかかわった分だけ愛着がわくものですが、えてして時限的なものゆえに、いつかは終わり、次の場所へと移っていきます。いつか来る拠点じまいを嘆くことなく、楽しい日々に胡坐をかくことなく、常に新たな場所や人へのアンテナをはっておく。場所やプログラムについて「続けるか否か」への議論の連続。それがアートプロジェクトの日常です。拠点を手放すとき、それはプロジェクトが脱皮して次のフェーズへ移るときです。例え拠点との別れが唐突に訪れたとしても、それは移行を見据えたプロジェクトの意志だ、と捉えましょう。

脱皮し続ける「取手アートプロジェクト」の拠点

最後に東京アートポイント計画以外の事例をひとつ。私がスタッフとして2004年から2008年にかかわった取手アートプロジェクトでは、1999年にスタートして以来およそ2~3年に一度は拠点を移しながら活動しています。あるときは使われなくなった学生寮、駅前デパートのバックヤード。またあるときは国道沿いの空き店舗、団地の中の元銀行。現在は、畑のど真ん中の旧農協の施設がアーティスト・イン・レジデンスやギャラリーも備えた拠点となっています。それぞれの時期のプロジェクトに応じて、適切な物件と運命的に出会い、前線基地として機能させています。能動的に次の地へ、というよりは常に「出て行かなければならない状況」がやってきました。過去に使用して出て行った拠点はすべてすでに解体し、別な建物や施設が建っています。まちの風景の隙間に入り込み、活動を企て、役目を終えて次へ向かう。地域に根ざしたアートプロジェクトが活動拠点を転々とすることは、まちの成長とともに歩んでいるのです。

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拠点「TAPヒルズ」(旧茨城県学生寮)撮影:齋藤剛 2005年(提供:取手アートプロジェクト)
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指輪ホテル「Please Send Junk Food」 撮影:齋藤剛 2005年(提供:取手アートプロジェクト)

取手アートプロジェクト2005 はらっぱ経由で、逢いましょう。」は使われなくなった茨城県の学生寮を「TAPヒルズ」と称して市内のアトリエを巡るツアーのデスク、コンサート、パフォーマンス公演、無声映画上映など、100日間にわたりアートセンターのデモンストレーションをおこなった。継続展開を望む声がありつつも会期終了後、すぐに解体。更地となった。
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拠点「Tappino」(旧銀行出張所) 2009年-2011年(提供:取手アートプロジェクト)
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きむらとしろうじんじん「野点 in 取手+Takibino」プロジェクト説明会 2010年(提供:取手アートプロジェクト)

取手アートプロジェクト2008 取手井野団地 電気・ガス・水道・アート完備」では団地内の銀行だった物件を当時ゲストプロデューサーを務めた建築家ユニット「みかんぐみ」が『Café Tappino』としてリノベーション。イベントや展示、カフェのスペースに。会期終了後、約2年間事務所兼コミュニティスペース「Tappino」として継続展開したが、現在は更地に。
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拠点「TAKASU HOUSE」(旧農協支所建物) 2014年-現在
「ひだまりのひマルシェ」開催風景 2016年(提供:取手アートプロジェクト)
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成田優之×早川文彩「ワークショップ:窓にかざる小さなステンドグラスをつくろう」2016年(提供:取手アートプロジェクト)

取手アートプロジェクト コアプログラム 半農半芸」の拠点「TAKASU HOUSE」。旧農協の物件をリノベーションし、現在のTAP事務所とともにレジデンススペースとギャラリーをそなえ、作品制作や展覧会、ワークショップほか地域交流プログラムなどを展開している。

いかがでしたでしょうか。素敵な拠点、出会いたいですね。そしてともに歩みたい。私たちプログラムオフィサーは今日も『ことば本』を携え、プロジェクトに伴走しながら「適宜修正」(『ことば本』、40頁)し、こつこつと日々の企ての後押しをしています。小さな拠点からまちの文化をつくるために。

おすすめの1冊

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『としまアートステーションのつくりかたZ・Y・X』
「としまアートステーション構想」(2011年-2016年)が「アートを生みだすささやかな営み」と定義したさまざまな「アートステーション」をつくる試みの数々のドキュメント。公共スペース・木賃アパート・既設の福祉施設や建物のない場所まで。それぞれ各フェーズを振り返るトークやシンポジウムも収録しています。
こちらからPDFにて閲覧可能です。

参考リンク

実践編「アートプロジェクト」 目次

1
はじめに|アートプロジェクトを動かす「ことば」を紡ぐ
2
事務局3人組│アートプロジェクトの第一歩
3
活動拠点|拠点となる場をみつけよう
4
アーティスト、ボランティア/サポーター|

アートプロジェクトを「ともに」に動かす
5
叱られる|土地に入る態度とコミュニケーションの出発点
6
ブツ切れにしない|広報コミュニケーション活動、3つの視点
7
第3コーナー|マネジメントサイクルを超えて
8
プログラムオフィサー|先を見据えて間に立つ
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