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事務局3人組│アートプロジェクトの第一歩

第1回目「はじめに」では、『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>』(以下、通称『ことば本』)の前提について、「アートプロジェクト」「事務局」「プログラムオフィサー」という3つのキーワードからご紹介しました。さていよいよ今回より、『ことば本』に収録されているいくつかのことばを実際に紐解きながら、アートプロジェクトの運営について考えていきます。まずは、本のタイトルにも含まれる「事務局」についての言葉からスタートです。

今月のことば
事務局3人組

アートプロジェクトは、まず事務局づくりから。「事務局」とは、プロジェクトが動いていくための道をつくり、動かしていく存在。「こんなプログラムやあんな活動があったら良いな」という思いを形にして実現できるチームだ。

『ことば本』、12頁

アートプロジェクトを生み出し、動かし、かたちにするチーム=「事務局」

アートプロジェクトのはじまりはさまざまです。アーティストの構想を実現するところが出発点だったり、地域の課題に応答するために立ち上がったり、自治体の文化政策によるものだったり。そしてそれらのプロジェクトにかかわる人も同様に多様です。(前回の「はじめに」にあるように、ここでいうアートプロジェクトとは、ある一定期間に実施される一過性のアートイベントではなく、連続性・持続性のある活動を指しています。)

そこで重要になってくるのが、それらをまとめあげ、動かし、かたちにしていくチームといえます。東京アートポイント計画ではそのチームを「事務局」と呼んでおり、それらはアートNPOが担っています。

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アートアクセスあだち 音まち千住の縁
イミグレーション・ミュージアム・東京「フィリピンからの、ひとりひとり マキララ-知り、会い、踊る-」(パーティ「フィリパピポ!!」2016年度会場風景)
撮影:冨田了平

今回は、東京アートポイント計画事業の一つ「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」(以下、通称「音まち」)の事務局の事例を参照しながら、事務局についてたどってみたいと思います。

音まちは、足立区にアートを通じた新たなコミュニケーション(縁)を生み出すことを目指す市民参加型のアートプロジェクトです。足立区千住地域を中心に、市民とアーティストが協働して、「音」をテーマとした多様なプログラムをまちなかで展開しています。東京都、アーツカウンシル東京、東京藝術大学音楽学部・大学院国際芸術創造研究科、特定非営利活動法人音まち計画、足立区の五者による共催事業です。

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音まち事務局メンバー 左から、長尾さん、吉田さん、松岡さん、戸塚さん。
音まちでは、事務局長、広報・記録、経理の3役に加え、広報補助・現場担当を配置しています。経理担当以外の3人は、メインの役割に加えて、プログラム担当を兼務することもあるとのこと。一方、経理担当は、総務や契約にかかわる業務も担っているようです。

持続的なアートプロジェクトは一人ではできない(というかやらないほうがよい)

「事務局」をしっかり機能させるには、「事務局長」「広報」「経理」の3役が最低でも必要だ。事務局長は、組織の存在意義を提示し、それにもとづいたプロジェクトを構築し、実施体制をつくる。全体を統括しながら関係各所との調整役も担う。広報担当は、活動を対外的に発信し、自分たちの活動を価値化する役目。そして経理担当は、組織運営に必要な予算を確保し運用する。アートプロジェクトの現場では、予算も限られており、1人が何役もこなすケースがあるが、少なくともこの3役は担当を分けたほうがバランスのとれた運営ができるだろう。

『ことば本』、12頁
事務局3人組

これは、事務局員は3人いなくてはならない、または3人さえ集まれば万能、という意味ではありません。ここに込めたメッセージは、事務局が向き合わなければならない事柄は非常に多岐にわたるため、持続的な活動を目指すのであれば、異なる視点をもつ複数のメンバーとともに進めるのが理想的だということです。

単純にやるべきことがたくさんある!

持続的な活動を目指す事務局は、それを可能にする運営基盤づくりに取り組みます。プロジェクトの未来を見据えた中長期的視点を持って、ときに経営的感覚もたずさえつつ切り盛りをしていきます。

活動理念やビジョンを掲げ、事業の設計をし、実施計画や戦略を立て、実行に必要な資金を集め、いざ実行に移す役目を担い、さらにはそれに伴う人事、総務、法務、経理にも対応します。そして、プロジェクトの全体方針にそって、企画を立ち上げます。もちろんその企画の数だけ、“ブレインストーミング→企画→準備→実施→検証・評価”といった業務が発生していきます。(詳しくは、アートプロジェクト運営ガイドライン《運用版》をご参照ください。)

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音まち企画の一つ、「千住タウンレーベル」の会議風景。会議に参加しているのは、アーティストのアサダワタルさん、事務局長の吉田さん、企画担当の冨山さん(東京藝術大学音楽環境創造科)。プログラムの企画内容や進捗確認をしている様子。
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音まち企画の一つ「野村誠 千住だじゃれ音楽祭 第1回 だじゃれ音楽研究大会」の会場準備。運営に関する各種確認をしている様子。
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当日運営に必要な各種書類も作成します。これは会場に掲示するスケジュールやマップ。これ以外にも、運営マニュアルや当日配布資料(アンケート)なども準備します。

事務局は、いま目の前で動いているプログラムの対応に加え、過去の実績を残し伝えるためのアーカイブ作業や、未来の活動を生み出すためのリサーチや準備などを同時進行で行います。さまざまなことを並行し展開する事務局は、運営をスムーズにするための環境整備にも取り組みます。

たとえば、音まち事務局では、プロジェクト関係者との情報共有や進捗確認のためのツールを生み出したり、実績をストックするためのクラウド環境や、書類整理の方法を整備したりしています。

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壁に貼られているのは、広報物のタスクリスト。いつまでに、だれが、何をするのかを書き込み、タスクの進捗を確認できるようになっています。会議では、このような書類をながめながら状況を確認しています。
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経理の長尾さんは、経理業務をスムーズに行うためのツールとして、源泉税額表(契約や支払い時に参照)と、精算時の書類フォーマットを紹介してくれました。
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音まち事務局のバックヤード。広報掲載紙や、プロジェクトごとの資料を整理して保管しています。

多様な人々とともにプロジェクトをつくりあげるための環境づくり

はじまりから終わりまでのプロセスを多様な人々とともにつくりあげることが、アートプロジェクトの醍醐味の一つです。事務局は、いろいろな人のかかわりを可能にする環境づくりに尽力します。

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音まち企画の一つ「大巻伸嗣 Memorial Rebirth 千住 2016 青葉」関係者集合写真
アーティスト、企画・運営スタッフ、地域のボランティアの方々、事務局など
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しゃボンおどり盛り上げ隊(中学生や地元住民の有志など)やアーティストチーム(くるくるチャーミー)、大巻電機K.K(千住の小学校の現役PTAやOBのお父さんたち、東京電機大学の学生を中心に構成される市民チーム)など運営を支えるさまざまなメンバーとともに一つの風景をつくりあげます。
撮影:高田洋三

音まち事務局の吉田さんは、日頃より積極的に地域の人々との交流や関係性づくりに取り組んでいます。「まちなかで展開するアートプロジェクトは、地域の方の理解や協力なしには成立しません。さまざまな人々との関係性が、プロジェクトに可能性をもたらし、広がっていきます。一人でも多くの人に音まちのインフルエンサーになってもらえるよう、日々の出会いを大切にしています」と吉田さんはいいます。

さまざまな人々とのコミュニケーションは、事務局に新たな気づきをもたらしてくれるといいます。まちの人に、「このようなアートプログラムをやっているんです」と自分たちが考えるアートについて説明すると、まったく予想もしない反応が返ってきたり、これまでアートのことを語ったことのなかった人が、音まちへの参加をきっかけに、アートについて語りだす場に遭遇したり。プロジェクト関係者がそれぞれ勝手に、自分の思い描くアートプロジェクトを妄想をしだしたり。そのような周囲の人々とのやりとりが活動を豊かにしています。

事務局を中心に、プロジェクトにあわせて運営メンバーを構成することもできる

異なる立場の3人が事業を組み立てる体制が整うと、プロジェクトは動き出し、運営を維持するためアクションがとれる。更なるメンバーを増やし、新たな事業を展開する可能性も出てくるだろう。アートプロジェクトの組織づくりは、まず3人の仲間が出会うところからはじまる。

『こどば本』、12頁
事務局3人組

プロジェクトの規模によっては、事務局を中心に、企画担当や現場担当を担う人を配置することも考えられます。音まちでは、企画に携わるディレクター、現場で動く人材など、企画ごとに座組(体制づくり)をしています。

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アートプロジェクトは明確な問題解決を目指すのではなく、人々の常識や価値感、状況を揺さぶり、問いをあぶりだしていく試みです。いままでに出会ったことのない何かに出会うために、多様な人々とともにあらゆる妄想を膨らませながら、つくりあげる実験。

まちにプロジェクトが放たれたのちは、仕掛け手の思惑に沿ったり、意に反したりしながら、生き物のように動いていきます。アーティストと向き合いながら、プロジェクト実現のために、各所へのあいさつ回りをしたり、交渉や調整をしたり、現場の雰囲気づくりをするのも事務局の仕事。さらには、プロジェクトが横道にそれたり、膨らんだりしたら、上手に軌道に乗せていくこともします。事務局はそんなアートプロジェクトとじっくり付き合いながら、活動を丁寧に育てていくチームです。

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次の音まち企画は、イミグレーション・ミュージアム・東京「フィリピンからの、ひとりひとり マキララ-知り、会い、踊る-」の再演、7月22日より開催です!

「東京アートポイント計画」は、アートNPOとともに、一つのプロジェクトに取り組むことを通して、持続的な活動を担う人々の支援を行っています。目指すのは、日々の生活に寄り添う無数のアートプロジェクトが社会の中で「常態」として存在するための環境をつくり出すこと。都内のあちらこちらで日々多様な文化事業が繰り広げられる状況を生み出すことを目指し、アートNPOに伴走しながらさまざまなプロジェクトを展開しています。

アートプロジェクトの実施予算は数万~億単位までさまざまであり、その予算規模によって、雇用人数も変わってきます。東京アートポイント計画の各事業は300万〜2000万程度の予算で実施され、常勤職員は1名〜3名。そこに非常勤またはインターン、ボランティアなどが加わり、組織づくりをしています。雇用環境や資金確保に向き合いつつも、アートプロジェクト運営の担い手が、複数名のチームとして、役割分担しながら未来に向けて活動できるような環境づくりを、これからもアートNPOとともに考えていきます。

最後に、『ことば本』のなかから事務局の実践において使える2つの言葉と、それらに関連するツールをご紹介して終わりたいと思います。

おまけのことば(要約版)

企画4点セット

プロジェクトを動かすには、「企画書(企画)」「体制表(人)」「予算書(お金)」「スケジュール(時間)」の4つの書類が必須アイテムとなります。何のために、誰に向けて行う、どのようなプロジェクトなのか。そして、実施にむけて、何人、いくら、何日必要なのかという数値化された情報。それらどれか一つでも欠けたらプロジェクトは成立しません。

『ことば本』、16頁

会議の3点セット

会議はプロジェクトを前に進めるための場です。そんな会議の質を決める3点セットがあります。一つ目は、会議の進行表「アジェンダ」。2つ目は、協議するための検討材料をまとめた「資料」。3つ目は、会議で話されたことを事実として記録し、その後の行動の根拠とするための「議事録」。

『ことば本』、18頁

関連ツール

アートプロジェクトの現場で使える27の技術
Tokyo Art Research Lab「思考と技術と対話の学校 基礎プログラム2「技術編」」の授業をもとに制作した一冊。アートプロジェクト運営における27の技術を収録しています。この本の付録であるワークシートをツールとしてご紹介します。

  • 86頁 worksheet D「伝わる企画書を書く」
    企画の4点セットの内容に完全には対応していませんが、企画を立てる際の道しるべにはなるのではと思います。

  • 83、84頁 worksheet B
    「会議を設計する」アジェンダを書き出すためのツールです。書き方のサンプルつきです。

(2017年7月6日)

参考リンク

実践編「アートプロジェクト」 目次

1
はじめに|アートプロジェクトを動かす「ことば」を紡ぐ
2
事務局3人組│アートプロジェクトの第一歩
3
活動拠点|拠点となる場をみつけよう
4
アーティスト、ボランティア/サポーター|

アートプロジェクトを「ともに」に動かす
5
叱られる|土地に入る態度とコミュニケーションの出発点
6
ブツ切れにしない|広報コミュニケーション活動、3つの視点
7
第3コーナー|マネジメントサイクルを超えて
8
プログラムオフィサー|先を見据えて間に立つ
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