助成とは何か?
はじめに
みなさんのなかには、もうどこかの助成金をもらった経験のある人もいるでしょうし、将来申請してみたいと考えている人もいるでしょう。もしかしたら何度申請しても落ちてしまう、何とかならないかと思っている人もいるかもしれません。
私も芸術活動に助成する財団で仕事をしていますので、「助成を受けるコツは何ですか?」という質問を時々受けることがあります。そんなときはつい「特別なコツはないですねえ。やはりいい活動をして、それをきちんと説明するということだと思いますよ」などと答えてしまいます。
1分以内で答えるには、これはこれで、まちがった答え方ではないと思います。でも本当は、時間の関係で省略してしまっている部分も、少なからずあるのです。それは、「そもそも助成とは何か」というところから、いちど考えてみてはどうでしょうか、ということです。そうすることで、助成する側の視点からも、ものを見ることができるようになります。助成を受けることの意味についても、理解が深まるはずです。きっとそのうち「いまの助成制度で本当によいのか?」といった疑問も浮かんでくるに違いありません。
すぐに役立つコツが聞きたい、と思っている人にとって、こんなことを考えるのはずいぶん遠回りなことに思えるでしょう。でもこれは、ぜひお勧めしたい回り道なのです。
というわけで、これからその「いつもは時間の関係で省略してしまっている部分」について、いろいろとお話していきたいと思います。
寄付や賞とはどう違う?
ではさっそく「助成とは何か?」ですが、じつは「助成」という用語には統一された定義があるわけではありません。ですからここからの話には「私はこういうものだと思う」というところが少し含まれていることをおことわりしておきます。
さて、あるものがどういう性質のものかを説明するには、似たものと比較するのが一番です。助成が何に似ているかというと、まず寄付が挙げられるでしょう。
寄付と助成は違うものでしょうか? 「なにか社会的な目的のために、見返りを期待することなく、お金などを差し出すこと」が寄付だとすれば、寄付はとても広い意味を持つことになり、助成はそのなかに含まれることになります。つまり助成は寄付のひとつなのです。
しかし、普通の寄付にはなく、助成だけが持っている特質のようなものがあります。それは、(助成の)目的や対象がはっきりと示されており、計画性・継続性があるということです。さらに公募されていることが多く、その場合は申請・報告などの手続きがあらかじめ決まっているということです。助成はひとことでいえば、寄付のなかでも専門性、戦略性をともなった、より制度的なものだといえるでしょう。
つまり、普通の寄付と助成の違いは、おもに出し手の側の体制や考え方の違いによるのです。助成の出し手にとっては、大事なのは目的、つまり「助成することで何を達成したいか」というところです。その意味では助成そのものは手段にすぎません。ですから、「共感」に動機付けられた普通の寄付の場合ですと、寄付した時点で「いいことをしたな。よかったな」と満足を感じてしまってもよいわけですが、助成の場合はまだ喜ぶには早いわけです。
では助成の目的とは何でしょうか? もちろんこれは助成の出し手によってさまざまです。ですが、どの助成にも共通している(はずの)ことは、"make a difference"ということです。これは海外の財団やNPOがよく口にする言葉ですが、「違いをつくる」つまり「変化を起こす」ということです。助成した先、あるいは助成する領域全体に、意図したインパクトを与えることこそが、助成の出し手が期待していることなのです。
ところで、助成に似ているものとしてもう1つ挙げられるのは賞です。アートの分野でも、いろいろな賞がありますが、こちらのねらいはむしろ「ほめる」ことや「励ます」ことにあります。受賞者にとっては、賞金や賞品もうれしいでしょうが、仕事の価値や可能性を認められ、多くの人の前で表彰されることが何よりの喜びでしょう。そしてこの瞬間、賞の目的はおおむね達せられているのです(「おおむね」というのは、賞にはあとに続く人々に刺激を与えるという、もうひとつの目的があるからです)。
このように考えると、賞と助成との違いは明らかでしょう。助成は「具体的な成果」を将来に要求するものです。別の言い方をすると、助成は問題解決の方策ともいえるでしょう。何か問題があるからこそ助成をするのです。ですから、助成という行為は、「助成する側の問題意識」と「助成対象が抱えるニーズ」が交差した場所から出発することになるわけです。
(2010年1月12日)
※本シリーズは全4回の連載です。次回は「助成プログラムをめぐって」(2010年2月掲載予定)です。
おすすめの1冊
『民間助成イノベーション―制度改革後の助成財団のビジョン』
助成財団センター 松籟社 2007年 |