寄付税制 その2
第2回は、寄付税制のうち、法人が寄付をした場合の優遇措置と、相続人が寄付をした場合の優遇措置を見ていくことにします。
1.法人が寄付をした場合の税制上の優遇措置
法人税という税金を計算するうえで、経費となる金額のことを「損金」といいます。寄付金については、他の経費とは違い、支払った寄付金のうち一部の金額しか損金にすることは認められていません(損金に算入できる金額の限度額を、「損金算入限度額」といいます)。
寄付金が一部しか損金にならないのは、寄付金の場合には、広告宣伝費や消耗品費など他の経費とは違い、「事業遂行に必ず必要」とはいい切れないからです。寄付金は「事業遂行のために必要」というよりは、「事業を遂行して利益が出た結果として支払う」という部分が多く、その区分けが難しいため、一定の算式をつくり、その算式で収まる範囲の寄付金であれば損金とし、それを超える部分については損金としないという扱いになっています(一定の算式で計算した金額を「一般寄付金の損金算入限度額」とします)。
そして、法人が、特定公益増進法人や認定NPO法人など税制上の優遇を受ける法人に寄付をした場合には、一般寄付金の損金算入限度額とは別枠で損金に算入することができる限度額(これを「特別損金算入限度額」といいます)が設定されています。寄付をする法人側から考えた場合には、認定を受けていないNPO法人に寄付をした場合には損金算入できないが、認定NPO法人へ寄付をした場合には損金算入できるということが考えられます。
寄付金の損金算入限度額は、資本金等の金額(資本金+資本積立金額)と所得金額を基に計算されますが、計算方法はとても複雑なので、ここでは説明を省略します。計算方法を知りたい方は、下記をご覧ください。
株式会社Aは、美術品の販売をしている会社です。利益の一部として、300万円をアート系のNPO法人に寄付をしたいと考えており、寄付先として、NPO法人甲(認定をとっていない)と、認定NPO法人乙が候補にあがっています。
株式会社Aの一般寄附金の損金算入限度額は100万円、特別損金算入限度額は200万円です。
なお、株式会社Aは、ほかに寄付金は出していません。
株式会社Aが、NPO法人甲に対して寄付をした場合には、300万円の寄付金のうち、損金に算入できる金額は、100万円までで、残りの200万円は、損金不算入(経費扱いができないこと)になります。
それに対して、認定NPO法人である乙に寄付をした場合には、300万円全額が損金算入できることになります。
2.相続人が相続により取得した財産を寄付した場合の税制上の優遇措置
相続や遺贈により財産を取得した相続人が、その財産を寄付する場合に、その寄付をした財産が相続税の課税の対象から除外されるという優遇措置です。
例えば、3億円の相続財産があった場合に、このうち1億円を認定NPO法人等に寄付をすれば、相続税の計算上は、相続財産は2億円と考えればよいのです。
相続財産は1件あたりの金額も大きくなりますので、その可能性がある場合には、寄付によりこの優遇措置を受けるメリットは高いといえます。
芸術家である父親から財産を相続した相続人Bは、相続財産のうち100万円を生前に父親が支援していたNPO法人甲と、認定NPO法人乙に寄付をしようと考えています。 どちらの法人に出そうか、思案中です。
相続人Bは、相続財産をNPO法人甲に出した場合には、この100万円に相続税が課税されますが、認定NPO法人乙に出した場合には相続税が課税されません。相続税を加味すれば、認定NPO法人乙に寄付をする場合には甲に寄付をする場合よりも余計に寄付をすることができるともいえます。
寄付税制のまとめ
区分 | 所得税 | 法人税 | 相続税 |
---|---|---|---|
特定公益増進法人に対する寄付金 | 一定の金額を所得控除又は税額控除 (税額控除は、認定NPO法人、特定公益増進法人のうち一定の要件を満たしている旨の証明を受けた法人) |
一般寄付金とは別枠で特別損金算入限度額が設定されている | 相続税の課税対象から外れる |
認定NPO法人に対する寄付金 | |||
一般寄付金 | 所得控除、税額控除 なし |
一般寄付金の損金算入限度額の範囲内で損金算入 | 相続税の課税対象になる |
なお、企業メセナ協議会は、民間の芸術文化支援を税制面から促進する目的で、1994年より「助成認定制度」を運営しています。これは、公益社団法人であるメセナ協議会を通じて企業や個人が芸術・文化活動に寄付を行うと、特定公益増進法人への寄付として税制上の優遇措置が受けられる制度です。
詳細は、下記を参照ください。
(2012年9月11日)