芸術文化分野における公益法人制度改革の現状
さて、前回(入門[2])説明した「公益法人制度改革」によって、いまどのくらいの新しい公益法人が誕生したのか、数字や具体例でみてみましょう。
いままでに公益認定を取得した法人は、2011年2月末現在、旧公益法人から移行した法人も新しく一般法人を設立してから公益認定を取得した法人も含めて1147団体ありますが、そのうち、私たちが芸術文化関係と分類している団体(美術館や史料館等の博物館を含む)は15%、170法人にのぼります。
さらにその内容をみますと、博物館が66団体。下記のように、東京の著名な博物館や、地方所在の有名美術館等があります。
また、音楽・演劇などの実演団体や音楽家、文芸家、美術家などの協会等は21あり、実に多彩な文化団体が含まれています。
- 江戸糸あやつり人形結城座
- 札幌交響楽団
- スペイン舞踊振興MARUWA財団
- 日本七宝作家協会
- 日本三曲協会
- 大日本書芸院
- 日本ギター連盟
- 東京二期会
- 日本バレエ協会
- 日本和紙ちぎり絵協会
- 能楽協会
- 京都観世会
- 日本尺八連盟
- 煎茶道方円流
各地の音楽ホールや文化ホール・劇場を運営する法人も、すでに数多く公益認定を受けています。
そのほか、 下記の団体もそれぞれ個別の法人として公益認定を取得しています。
- 日本古来の神社仏閣建築の技法を承継する文化財建造物保存技術協会
- 全国社寺等屋根工事技術保存会
- 京都祇園祭で有名な四条町大船鉾保存会
- 長刀鉾保存会
- 月鉾保存会
これらの法人の財政規模は総じて小規模なものが多く、公表資料等によりますと、日本和紙ちぎり絵協会、日本ギター連盟の年間予算はそれぞれ1500万円、1300万円です。日本七宝作家協会は2000万円となっています。また江戸糸あやつり人形結城座は、有限会社であったものが公益法人になった特異な事例です。
ヨーロッパの王政時代や日本でも明治維新前は、芸術文化は王侯貴族や大名などの庇護のもとにその活動が支えられて栄え、その伝統が現代に継承されてきました。しかし、そのような巨万の富を持つ特権階級や財閥などの豪商は、現代、特に日本では存在しません。もちろん国民の収める税金が国(政府)を通じて芸術文化支援事業にも支出されることは必要ですが、昨今の財政事情に苦しむ日本では、芸術文化は広く一般市民によって支えられていると思います。いや、支えられなければならないと考えます。芸術文化の分野では大法人、小規模法人ともに、市民の支えなくしては成り立ちえません。その支えとは、芸術文化を鑑賞するためどんどんお客様になっていただくことと、寄附金だと思います。
能狂言、文楽、歌舞伎、日本舞踊、日本画、日本文学、陶磁器、茶道・生け花、囲碁将棋、柔道・剣道など、私たちがこれらの伝統文化に親しむことができるのも、多くの団体が資金難にあえぎつつも活動を続けてきたからこそといってよいでしょう。もちろん日本の伝統芸術だけではなく、オーケストラ、バレエ、オペラなど西洋音楽や、演劇、西洋美術、西洋文学に触れ親しむことができるのも、それぞれの団体の血のにじむような活動のおかげです。
芸術文化分野の団体は、旧公益法人制度のもとでも、社団法人や財団法人として市民社会で大きな役割を果たしてきました。これらの団体の多くは新制度でも当然公益法人として認められるべきだと考えますが、なかには事務局が少人数であり、申請書が自力では書ききれない、複雑な会計その他の基準が理解できないなどの悩みも抱えています。最も深刻なのは、債務超過(資産より負債の方が多いこと)になっており、公益認定はおろか法人存続すら危ぶまれるところがあることです。新制度では、債務超過だと法人が存続できないからです。何とか、立派な活動を続けながら必死でがんばっている小規模な団体や、規模は大きくても資金難に悩む団体を救う道はないのか、と考えさせられます。
旧公益法人からの移行は、数の上ではまだ序の口です。これから続々と後に続きます。そしてまた、新しい公益法人がドンドン誕生してくることにも大いに期待したいものです。
昨今、厳しい国家財政や長引く経済の低迷により、将来の日本の国家像に不安感を持つ人も多いようですが、せめて芸術文化の分野では、市民の支援と関係者の努力の積み重ねにより、豊かで香りの高い文化大国日本として、内外に誇りたいと思います。
(2011年3月15日)