人間社会における団体とは
人間社会における団体とは
人は一人では生きていけないといわれますが、確かに私たちの人間社会は人と人との触れ合いが基本です。うれしいことが起こったとき、悲しいことが起こったとき、その喜びや悲しみを共有することができる人が周りにいることで、喜びはさらに増し、悲しみは少しでも和らげることができます。
そして何よりも人の願いや希望を実現するためには多くの人々の協力が必要になります。その実現したい夢が大きくなればなるほど、共鳴する人たちと相談し、ともに行動しそしてその輪を広げていきます。そうです。人の集まりです。それが人間社会における仲間でありグループです。グループがある程度大きくなると団体といってもよいでしょう。
アートの世界でもこのことはまったく同じで、何らかのグループや団体があってこそ、アートは無限の広がりを期待することができるのです。
今回はこの「団体」というものについて、考えてみたいと思います。
団体の態様
人間社会で作られる「団体」はいろいろな種類があります。まず、任意に集まる「団体」です。ここから先は物語で説明してみましょう。この物語はまったくのフィクションであることをお断りしておきます。
任意団体
Bさんは日本古来の伝統奇術が大好きで、その腕前は玄人がはだしで逃げ出すほどといわれています。近所の人や勤め先の同好の士に声をかけて一層腕前を磨くため同好会を作りました。会費や役員を設けるなど規約も作り、「A市伝統奇術普及協会」と名づけました。ここまでは別に役所などに届ける必要もなく簡単に設立ができました。このような団体は法律的には「権利能力なき社団」といいます。
そのうち評判を呼び、市内そして広く県内の高齢者福祉施設や児童施設から声がかかるようになり、ボランティア活動の輪はますます広がりました。法人化
お年寄りや子どもたちの笑顔と拍手はメンバーの人たちにとって何よりの励ましになりますが、県内を移動する旅費や新しい道具の購入も結構お金がかかります。そのうち無料公演の施設だけではなく、公民館や文化ホールなどでの有料公演の回数も増えてきました。ここまでくると、大道具を運ぶワゴン車もほしい、専属でスケジュールを調整したり、お金を管理したりする人も必要、プログラムやチラシも印刷したい、コピー器、電話、パソコンが必要、小さい事務所もほしいと、だんだん「A市伝統奇術普及協会」の活動と規模は広がる一方です。
任意団体では事務所を借りたり、職員を雇ったりすることが難しく、運転資金の借入れもできない、法人にするべきだとの声が大きくなり、会長のBさんはじめ役員の人たちは法人化のための勉強を始めました。
「法人」というのは個人と同じように権利能力(契約、裁判その他の法的行為をする能力)が与えられますが、「法人」はすべて法律でその設立・運営条件が定められており、その種類は特殊なものまで含めるとかなりな数になります。Bさんたちはどの法人が最も「A市伝統奇術普及協会」に適切なのか、主な法人種類の比較検討に取りかかりました。営利法人
最もポピュラーな法人種類は「株式会社」です。株式会社は営利(利益)追求を目的とする法人です。設立は法務局に登記するだけで簡単に設立できますが、Bさんたちの「A市伝統奇術普及協会」は別に利益を挙げ会員に分配すること自体が目的ではなく、「日本古来の伝統奇術を継承しその普及啓発を通じて、高齢者や児童などの健康で明るい生活の増進に寄与すること」すなわち、自分たち会員の利益(共益)というよりは社会の人々の利益(公益)が目的ですから株式会社、合同会社など営利法人は候補からまず外しました。
もっとも、次回説明するNPO法人や一般法人の法律がなかった時代には、公益を目的とするアートの団体でも有限会社(現在の合同会社)を利用するものもあったようです。
(2011年1月15日)
※本シリーズは全3回の連載です。次回は「非営利法人の種類」(2011年2月掲載予定)です。
おすすめの1冊
『改訂版 新公益法人制度はやわかり―新制度のもたらす影響と市民社会の課題―』
公益法人協会 編集・発行 2008年 |