ネットTAM

4

自治体立アーツカウンシルという挑戦 ~大阪で「自治を再発明するねん!」

~大阪のアーツカウンシルでの基本的な考え方

(1)地位とフィーのせめぎあい

 現在進行形の事柄を文章にまとめるという作業は、いわば時代を包み込む雰囲気に「消印」を押すようなものだと感じています。2012年5月から1ヶ月ごとにつづらせていただいた「アーツカウンシル入門」も、今回が最終となります。まずアーツカウンシルとは何か、続いてなぜアーツカウンシルなのか、そしてアーツカウンシルとは各国でどのように展開されているのか、という具合に、その名称と機能、歴史的経緯と意味、海外の事例と日本の動向の順で綴ってまいりました。最終回は、筆者も制度設計に参画している大阪の「今」を、大阪府大阪市それぞれに定められた「特別顧問及び特別参与の設置等に関する要綱」にも示されている「守秘義務の遵守」の範疇において記すことにいたします。

 そもそも、アーツカウンシルが大阪で取り上げられていく背景については、この「アーツカウンシル入門」の第1回でも紹介したとおりですが、筆者が制度設計に参加していく契機となったのは、2012年2月22日に大阪市役所本庁舎で開催された大阪府市統合本部の都市魅力戦略会議における「第1回アーツ・カウンシル検討ワーキング」に外部委員として話題提供をさせていただいたことがきっかけです。この作業部会において第2回(3月19日)までは外部から参加する一委員だったのですが、第3回(4月28日)からは大阪府と大阪市の特別参与の立場で参加することになりました。ただ、これらの作業部会は非公開にて開催されてきています(ちなみに第4回目の5月16日からは文化施策再検討ワーキングと併催での実施となってきました)。一連の議論が公となったのは、公開にて開催された6月13日の第3回都市魅力戦略会議ですが、その間の会議日程や概要は、たとえば「大阪府政策企画部大都市制度室」のウェブサイトの大阪府特別顧問及び特別参与との会議等のページなどで順次公開されていくと思われます。

 非公開での議論の中、諸外国を含めて多くの前例がありながら、大阪で設立される予定のアーツカウンシルの制度設計で最も困難な課題は、大阪府と大阪市とが共同で大都市制度の一つとして設置しなければならない、ということです。そこに、2012年2月7日に大阪のテレビ局「朝日放送」のキャスト内でも特集されたとおり、人形浄瑠璃文楽の振興にまつわる「文楽協会への補助金について」の再検討の中、アーツカウンシルのあり様に大阪内外からの注目が高まりを見せていきました。加えて、市長によるTwitterでは「アーツカウンシルで文化トータルで助成(6月27日)」、「チャンスは皆に開く(7月6日)」、「民主的正統性を有するアーツカウンシルに評価、審査(8月12日)」、「文化補助にも、評価、効果測定、戦略性を採りいれる(8月19日)」など、アーツカウンシルの導入に対する積極的・精力的な発言が重ねられるものの、非公開での制度設計ゆえ、断片的な情報に対して、憶測が憶測を呼んでいる状況も生み出されているように思います。さらに、2月22日に第1回アーツ・カウンシル検討ワーキングが開催された裏で、関西経済同友会が「大阪版アーツカウンシル『タニマチ文化評議会』(仮称)の創設を」と題した提言を発表したこともあって、誰がどこまで何を検討しているのか当事者・利害関係者の範囲がよくわからない、という印象がもたらされているかもしれません。

 結果として、本稿執筆時点(2012年8月19日)において、大阪府市統合本部によって検討されているアーツカウンシルについて公開されている資料は、6月13日の第3回都市魅力戦略会議の配付資料となるのですが、その際の議事録にもあるように、担い手の人選方法等について、その後も精密な議論が続けられています。特に活発に議論されているのは、アーツカウンシルの日常的な事業執行の要となる統括責任者についてです。どのような職責を置き、勤務形態を定め、選出を図っていくのか、いわば「地位」(条例に対する授権範囲の明確化など)と「フィー」(業務内容や成果への期待など含めた報酬額)について、議会での決議に向けた予算要求に際して何が妥当か、複数のシナリオから接近されています。こうして、2月9日の第1回都市魅力戦略会議で設定されたスケジュールは大幅に見直され、第3回都市魅力戦略会議で確認されたとおり、2012年度当初からの活動開始に向け、9月には中間まとめが公表できるよう制度設計にあたっています。

arts-council-04-01+.jpg
図1:大阪におけるアーツカウンシル導入の意義と留意点(2012年2月22日説明資料) ※図をクリックして拡大

図2:大阪府・市の芸術文化振興施策一元化とアーツカウンシル展開可能性(2012年2月22日説明資料) ※図をクリックして拡大

(2)制約条件から正統性と正当性を担保する

 大阪でのアーツカウンシルの議論は、都市型遊園地「フェスティバルゲート」活用を目的とした「新世界アーツパーク事業」の突然の終了に伴う、アートNPOと大阪市ゆとりとみどり振興局との対話的関係の不全(この経緯・経過等については、吉澤弥生さんの『芸術は社会を変えるか』[青弓社、2011年]に詳述されています)を契機として、2007年に民間で設立された「大阪でアーツカウンシルをつくる会」から4年あまりを経て、図らずも自治体主導によって進められていくこととなりました。「大阪でアーツカウンシルをつくる会」の報告書にまとめられているように、各国の事例を踏まえ「公民協働による文化事業の推進組織」こそがアーツカウンシルだと筆者は捉えてきました。しかし、大阪でのアーツカウンシルの設立を特に主張してきた市長が、「維新の挑戦 体制維新」と掲げたマニフェストにおいて、「天下りの根絶」と「外郭団体の全廃」を掲げていたことが、アーツカウンシルの制度設計において大きな制約条件を生むことになりました。すなわち、このマニフェストの実現は、新たな財団の設立どころか、財団等への事業委託という選択肢をも事実上封じられることを意味するためです。

 そもそもアーツカウンシルは、設置形態や対象分野の差異はあれど、文化予算をいかに配分するかを考え、執行する機関です。それゆえに、アーツカウンシルとは政府から独立した存在でありながら公的な組織として対象に手が届く適度な距離を保ちながら適切に介入する、つまりアームズ・レングスの原則のもとで政治に左右されない文化振興を図る組織であると述べてきたのですが、政治からの独立を謳うアーツカウンシルも、その設立時には一部、政治主導で進められうるのです。そうした構図のなか、大阪のアーツカウンシルでは、行政からの独立性を「財団型」などによる組織の外部性によって行政からの独立性を担保するのではなく、憲法第93条ならびに地方自治法第89条による首長と議会の二元代表制による行政の統治機構において、アーツカウンシルはどのように位置づけられるのか可能性を探ってきました。特に、それを大阪府と大阪市という別の二元行政のあいだで共同で設立するためには、どのような設置形態が妥当なのか、この点については「アーツカウンシル入門」の第2回にて論文を紹介させていただいた帝塚山大学法学部教授の中川幾郎特別参与を中心に、「地方公共団体における事務の共同処理の改革に関する研究会報告書(2010年1月25日)」などを参考にして協議してきています。

 ただ、アーツカウンシルは設立時はもとより、設立後の運用段階にあたっても高い倫理感を必要とします。たとえば、文化振興予算の一部が、アーツカウンシルの管理運営費に充当されること、いわゆる間接経費の適正さについて説明責任を負わねばなりません。(ただし、特に「ふるさと納税」制度をはじめ、各種基金の接合によるファンド機能の充実させていくならば、オーバーヘッドコストの発生というべきかもしれませんが、ここでは用語の選択について立ち入らないこととします)。要するに「アーツカウンシルの運営費を助成にまわせばよいではないか」という疑問や疑念が寄せられることがある、このことを前提にして、アーツカウンシルという執行機関には適切なマネジメントが行われる必要があります。筆者は『よくわかるNPO・ボランティア』(ミネルヴァ書房、2005年)という書物の中で、人と組織と地球のための国際研究所川北秀人さんの言葉を引用し、「NPOには人事部と広報部がない」と、行政や企業でいうところの「総務部門」の弱さを指摘したのですが、アーツカウンシル側の組織マネジメントの透明性が重視されるのと同時に、行政予算の配分について新たな制度が運用されるにあたっては、特に芸術文化の公演団体の総務部門の基礎体力、すなわちアートマネジメントの力量が問われていくことになるでしょう。

 アーツカウンシルは政治的リーダーによって設置されつつも、政治的リーダーのための機関ではありません。当面、大阪のアーツカウンシルは、大阪府と大阪市の共同によって設置しようとしている「府市文化施策審議会(仮称)」を母体(広義のアーツカウンシル)として、大阪府と大阪市の共同によって、統括責任者のもとで評価・企画・シンクタンク事業を執行していく機関が設置されます。何度も記しているとおり、非公開にて重ねられてきた議論ではありますが、今後、直接対話のフォーラム等を重ねることで、現場での活動実態の調査や、幅広い人々の関心の喚起と、より広範な対象からの公募を通じた人選プロセスの確保などにあたっていく段階に入ります。大阪のまちが継承してきた都市文化の「正統性」を大切にしつつ、と大阪が大阪として都市魅力を創出しつづけられる行政機関としての「正当性」を前例のない自治体立アーツカウンシルが大阪で設立されることになりますので、リーダーによる大きな改革のもとで文化の主役である市民の小さな挑戦への意欲や日々の努力が矮小化されないよう、みなさんの関心と期待をお寄せいただけることを願っています。

追記: 本校執筆にあたっては、大阪府文化部都市魅力創造局文化課企画グループの皆さん、大阪市ゆとりと緑振興局文化部文化振興担当の皆さんに協力をいただきました。記して謝意を表します。

arts-council-04-05+.jpg
図3:ユニット展開をもとにしたアーツカウンシルの執行機関におけるガバナンスイメージ ※図をクリックして拡大

(2012年8月19日)

おすすめの1冊

『よくわかるNPO・ボランティア』 川口清史・田尾雅夫・新川達郎編
2005年

『芸術は社会を変えるか―文化生産の社会学からの接近』 吉澤弥生著
2011年

アーツカウンシル入門 目次

1
複数形の<アート>を評議する
~アーツカウンシルが問う芸術文化
2
行政とアーツが適度な緊張感を持つ
~アーツへの独立性・アーツの計画性
3
助成団体にとどまらないアーツカウンシル
~諸外国の文化政策・推進の<型>から
4
自治体立アーツカウンシルという挑戦
~大阪で「自治を再発明するねん!」
~大阪のアーツカウンシルでの基本的な考え方
この記事をシェアする: