Q&Aその1
前回告知した受付フォームにさまざまな質問をいただきました。皆さまありがとうございました。その中から2つの質問に対して、今回と次回にわたりそれぞれ熊倉純子さんからの回答を掲載します。
Q1:アートセンターの指定管理者です。仕様書にアートイベントを実施すること、と書かれており、街中に作品を展示するといったものでも良いのですが、やはり地域の課題が出てくるようなことを仕掛けたいと考えています。他の地域の皆さんはどのような狙いでスタートしているのでしょうか?また、アートプロジェクトの効用とは何でしょうか?「やってみなければ分からないこと」を実践することについて行政や市民の人たちに納得してもらうには、どのような点を強調すればよいでしょうか?(芸術団体・文化施設の企画運営担当者)
ご質問ありがとうございます。「やってみなければ分からないこと」を説明するには、いろいろ方法があると思いますが、たとえば、行政には、「空き店舗の活用」とか「アウトリーチ」とか、何らかの目的を明らかにしたうえで、方法論を具体的にする必要がありますよね。自治体の総合計画や5か年計画などから、課題を探すというのもありです。でも、机上のプランは危険ですので、まちを歩いたり、パートナーになりそうな部署や機関を探すために関係者にヒアリングをしたりなど、体をつかってリサーチをぜひしてくださいね。
一方、市民の人たちには、具体的になにをするのかがないと、みなさん忙しいから話に乗ってこないですよね。市民にとっては目的よりも「楽しそう」とか「わくわくしそう」というのが重要だと思うので、呼びたいアーティストを決めてから「こういうアートをあなたのところで一緒にやりませんか?」と持ち掛ける方がいいかもしれません。
ただ、指定管理の仕様書の要件を満たすためだと、一過性のイベントになるでしょうか? 一度だけだと、ワークショップのような小さなプロジェクトをやっても効果も一過性に終わってしまうので、ある程度フェスティバル性があったほうが、後にネットワークなどの人的資源が残る可能性があります。ただ、初回の慣れない準備のなかから、「次はこうしよう」、「あの人にも手伝ってもらおう」などと、じわじわ次の展開が見えてくるのが普通なので、一回だけだと、まちを巻き込んでも「迷惑をかけられた」「わけがわからなかった」で終わってしまう危険性もあります。指定管理者とはいえ、センターはまちから動けませんから、まちや行政の間をつなぐコーディネートを丁寧に、汗をかいてやるのが大事かと。文化施設がまちなかにいろいろ仕掛けるのは、杉並区の公立劇場「座・高円寺」の事例など参考になるかもしれません。賑わいを生むには、展示より上演芸術のほうが効果的だという好例だと思います。
アートプロジェクトの効用はいろいろありますが、比較的確実なのは「普段は出会う機会のない人たちが出会える場ができる」ことだと思います。他の地域の狙いについては、拙書『アートプロジェクト―芸術と共創する社会』をお読みいただくと、いろいろな具体事例がご覧いただけます。特に、第4章「まちづくり×アートプロジェクト」の名古屋の長者町(あいちトリエンナーレ)や別府(BEPPUプロジェクト)の事例が参考になるかと思います。