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1550億円がなくともいずれは実現させたい妄想

「アートマネジメントを若林朋子、大澤寅雄に師事」とプロフィールに記載して良い、と許可していただいた師匠から「1550億円あったらどうする?」というお題をいただきました。妄想は得意!とお引き受けした日から、「億、億、億…」。

現在、公益財団法人大分県芸術文化スポーツ振興財団の企画普及課に籍を置いていますが、ここはiichiko総合文化センターを管理し、iichikoグランシアタ、iichiko音の泉ホールという劇場を所有しています。また、この財団は2015年4月に開館した大分県立美術館OPAM(オーパム)も管理運営しています。私はここの劇場の公演企画、また、2つの施設を合わせた友の会である大分県芸術文化友の会「びび」の運営、イベントプロデュースを担当しています。

OPAMの建設費は約100億円。1550だと、あと15個。ちなみに2018年に開館20周年を迎えるiichiko総合文化センターは約214億円。あと7個できる…。iichikoのネーミングライツは5年で2.7億円。話題になった京都のロームシアターは50年間で52億円! 1550億円あれば国内の主な公立文化施設のネーミングライツを取れるなぁ。全国統一名称! 大分県八坂千景ホール、大阪市八坂千景ホール(生まれは大阪市なのであえてこの都市を選択)…。ぷぷぷ。なんてことを考えていたら、1550億円なんて、規模が大きすぎて、私がとうてい考えられる額なんかじゃなーい。しかも、「億」なんて何桁すらわからない。

さて、まったくの芸術畑でなかった私が、「クラシック音楽公演の企画・制作業」に軸足を置いて10年になります。ですが、楽器経験はお琴のみ。クラシック音楽の作曲家も曲名も、ましては演奏家なんて誰だかちんぷんかんぷん。プロデュース経験もなし。実践、独学(放送大学で「アーツマネジメント」なども受講しました)を重ね、行きついた先が九州大学大学院ホールマネジメントエンジニア育成ユニットでした。
そこでの講義、また出会った先生方、学生さんたちは今での私の財産だと思っています。また、そこでの学習経験を通して「劇場と地域」を真剣に考えるようになりました。

私は劇場にこだわりたい、と思っています。せっかく建てられたものを「ハコモノ」で終わらせたくはない。
今、携わっているiichiko総合文化センターは大分市の中心市街地にあります。2018年に開館20年を迎えますが、メンテナンスもとても良く、綺麗ですし、iichikoグランシアタ(1966席)、iichiko音の泉ホール(704席)と劇場として十分な機能を携えています。
ココで舞台芸術鑑賞体験をしてほしい、という気持ちと地域の劇場を活用していきたいという思いを1550億円で実現させることにしました。

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大分県立美術館のエントランスから臨むiichiko総合文化センター
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大分県立美術館1階アトリウムでのミュージック・イン・ミュージアム。初回は赤坂智子(Vl.)とクス・クァルテット

1. 「足」の確保
私の実家は大分市から約45kmほど北東にある杵築市という坂道の美しい城下町です。車で約1時間、普通電車で40分。70歳を迎えた両親も「夜の運転は怖い」と言うようになりました。これは大分市内の郊外の方も共通。また「足があったらコンサートに行きたい」とも。
この願いを叶えるべく、コンサート時に市町村発のバスをチャーターし、往復の足を確保します。
ちなみに、今年開館した県立美術館では、県内の小学生全員を招待する「小学生ファーストミュージアム体験事業」がありました。この事業費は、約1億4千万円と公表されています。
検診のように年齢にあわせて、まずは招待が良いかもしれません。0歳児、5歳児、10歳児をご招待。これは保護者もお一人まではご招待。
次に13歳(中学1年生)、16歳(高校2年生)ですが、これは招待はせずに、チケットは300円でも500円でもお小遣いから出していただく。なによりもチケットは購入していただくことが前提。バスをチャーターする方法もあるし、チケット購入者へ在住地域の距離に準じた交通クーポンのようなものを配布する方法もあるかも。購入された方がバスや電車などで思い思いに来ていただく、などでしょうか。

2. 「地域の劇場へ」公演を配達
大分県内にもさまざまな劇場があります。足を確保して、こちらへ来ていただくのとあわせて、地域の劇場に公演をお届けします。よくある話ではありますが、たとえば公演内容を変化させる(クラシックコンサートの場合は、曲目を違うものにする、など)ことで、2公演行く人もでてくるかもしれません。劇場をきっかけに、人が動く仕組みづくりに取り組みます。

劇場は非日常空間であるけれども、劇場に行くことは日常であってほしい。いつもそう願っています。

クラシック音楽関係以外にも、ある時は白衣を着てトイレ掃除(肩書:おおいたトイレンナーレ実行委員長)、ある時は街のおじさんたちとの戯れ(肩書:まちなか劇団ぶんご・ふない座プロデューサー)、ある時は浴衣で飲み歩き、はたまた割烹着でおもてなし(肩書:ただの着物好き)と遊んでいるように見えながらも真剣に「芸術文化振興活動」に身を投じています。
大分市の中心市街地である府内町にある市の複合施設である「コンパルホール」を拠点に年1回の活動を続ける「ぶんご・ふない座」の全国ツアー実施。全国に「まちなか劇団」が発生し、「座長公演in大分」なんてのも1550億円の一部の使い方としてありかもしれません!

今回、このようなお題で妄想する機会をいただきました。でも、もしかしたらこれって、いずれ実現できるかも。いや、実現させなくてはいけないかも、と思っています。
大分県は2015年に大分駅ビル、県立美術館が開館し、「100年に一度の変革」といわれる時期を迎えています。「おおいたトイレンナーレ2015」、「別府混浴温泉世界」など、県内各地でアートフェスティバルも開催されました。また、2018年に国民文化祭大分大会を開催することが決まっています。またこの年はiichiko総合文化センターの20周年。翌年2019年はラグビーワールドカップで大分も会場に選ばれています。オリンピック、パラリンピックも開催予定。
芸術文化での街づくり、みたいなことがただの流行でなく、根付かせていくための数年であると思っています。潮の流れを見ながら、「いまだー!」というポイントで波に乗り、そしてこの妄想を実現できるよう、機会を窺っていきたいと思います。

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おおいたトイレンナーレでの「大分圏清掃整理促進運動@銀座七丁目」。大分に所縁ある赤瀬川原平さんのパフォーマンスにちなんで。NPO法人BEPPU PROJECTの山出さん(おおいたトイレンナーレ 総合ディレクター)。
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第2回ぶんご・ふない座「ピッチピッチ・タップタップ・ランランラン」より。
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街あるき案内人もしています。大分市中心市街地にある瀧廉太郎終焉の地にて。朝倉文夫作。

(2015年12月24日)

今後の予定

  • 1月9日(土)OPAM ミュージック・イン・ミュージアム「宮田まゆみ(笙)」@OPAM
  • 1月10日(日)OPAM ミュージック・イン・ミュージアム「小林道夫(チェンバロ)」@OPAM
  • 2月11日(木・祝)まちなか劇団 ぶんご・ふない座 第3回公演「黄昏・夜明け・府内町」(今年はプロデューサーに加えて、女優デビューも果たします)@コンパルホール文化ホール(大分市)
  • 2月14日(日)カティア・ブニアティシヴィリ ヴァレンタイン・ピアノ・コンサート@iichikoグランシアタ
  • 2月29日(月)青島広志のおしゃべりオペラティックコンサート@iichiko音の泉ホール
  • 日本経済新聞夕刊掲載(日にちは未定です)

関連リンク

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ロードバイク。学生時代に街乗りマウンテンバイクで通学。帰郷してからは地元のツール・ド・国東というバイクレース大会にも出場(60kmコース)していました。昨年末(2015)に初のロードバイクを購入しました。とりあえず実家への足として、年内には豊後水道〜四国〜しまなみ海道を経て、話題のONOMICHI U2へのツーリングが夢。芸術と無縁ですみません…。

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

本企画で日本の未来を考える時に、東北の話は外せないと思ってきました。東北の未来は日本の未来であり、東北の現在は日本各地の未来だと感じるからです。震災からの復興は、2020年よりも遥か先まで続く、長く険しい道のり。東日本大震災から間もなく5年となる今、皆さんと東北の未来に思いを馳せたく、その道先案内を坂口大洋さんにお願いしました。

坂口さんは、文化施設を中心とした建築がご専門で、東北の演劇創造活動のメッカであるせんだい演劇工房10-BOXをはじめ、さまざまな文化施設の計画・設計、調査研究やまちづくりの領域で活躍しておられます。震災復興においても、各地に足を運び、被災した文化施設の調査やコミュニティの再建、まちづくりで、ハード・ソフト両面において奮闘中です。
2年前に坂口さんに案内いただいた被災各所では、貴重な声をたくさん聞くことができました。

坂口さん、東北の地で形にしたいことを思いきり妄想して、共有いただけましたら幸いです! 日頃感じていることや、多くの人に知ってほしいことも、ぜひこの機会にお伝えください。
(「もし1550億円の予算を手にしたら、あなたはどのような未来をつくりますか?」スーパーバイザー:若林朋子)

もし1550億円の予算を手にしたら、あなたはどのような未来をつくりますか? 目次

1
イチゴーゴーゼロの夢
2
イチゴーゴーゼロの使い方
3
世界一の文化大国へ
4
1550億円がなくともいずれは実現させたい妄想
5
「場」のサステナビリティと2116年に向けた新たな布石
6
人に賭ける
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