ワーカーによる文化団体の支援事例②
リレーコラム第3回では「芸術家と子どもたち」を支援したプロボノワーカーである小木さんとの対談を掲載させていただきました。第4回では同じくプロボノワーカーで「NPO法人ARDA(芸術資源開発機構)」を支援した経験を持つ西川さんにバトンをお渡しします(本リレーコラムは対談形式で皆さまにご登場いただきます)。
綿江:まず、自己紹介をお願いします。
西川:現在、子どもの職業社会体験施設「キッザニア」を運営するKCJ GROUP株式会社に勤めています。これまで何度か転職していますが、一貫してマーケティング畑を歩んできました。以前勤めていた外資系企業は、「地域社会への貢献」が信条の一つで、社員がどう参画するかが重視されていました。幅広い活動が用意されており、仕事と並行して真剣に取り組む社員も多かったです。転職後は、引き続き社会に対する貢献感をバランスよく得るためにサービスグラントに登録し、プロボノを始めました。私の中では、「子ども」という軸と、「マーケティングのスキルを活かす」という軸で取り組んでいます。
綿江:もともとサービスグラントはご存知でしたか。ワーカーのみなさんがどのようにプラットフォーマー(プロボノの仲介を行う団体)を選択されているのか気になっています。
西川:友人の紹介で知りました。その友人も知人から聞いて知ったようです。同じような団体との比較検討はしなかったですが、結果としてとてもよい経験ができたので継続しています。
綿江:これまでの支援団体を教えてください。
西川:1回目は「のざわテットーひろば」(NPO法人 野沢3丁目遊び場づくりの会)、2回目が「NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)」です。3回目が「東京ホームタウンプロジェクト」東中野キングス・ガーデンで、今年の3月にプロジェクトが終わりました。そして次の4回目が、現在支援している「認定NPO法人 開発教育協会/DEAR」です。 1回目の「のざわテットーひろば」のプロジェクトでいい仲間と巡り合えて、それがプロボノを続けているきっかけにもなっています。当時のメンバーとはバーベキューをするなど家族ぐるみのつき合いが続いています
綿江:今までどのような立ち位置で参加されましたか。
西川:1回目がマーケター、2回目はプロジェクトマネージャーとして参加しました。3回目でマーケターに戻り、4回目でプロジェクトマネージャーを再挑戦しています。プロボノの中でも、自分のキャリア開発をしているのかもしれません。
綿江:2回目はなぜARDAさんを選んだのですか。
西川:ARDAさんが推進している「対話で美術鑑賞」の主対象が子どもでしたので、まずはその「子ども」という切り口が私にフィットしました。また個人的にも、「アートといえば鑑賞。鑑賞といえば、わかる人だけが理解できる世界。自分はどのように捉えていいかわからない」という意識がありました。だからアートの見方には興味がありました。その世界を学べるきっかけになるのではないかと思いました。
綿江:アートファンではない人にもアートプロボノは響くんでしょうか。どうすればワーカーさんが文化団体に興味を持ってもらえるのだろうと考えています。
西川:積極的に芸術的なことをやりたくてプロボノをやる人は少ないかも知れません。ただ、そもそもプロボノをやりたい人は知的好奇心が旺盛で、忙しくても仕事以外にも自己成長したいというある程度余裕のある人が多い。そういうプロファイリングから考えても、アートはすごくフィットします。アートにかかわりがなかった人がかかわりを持つチャンスだと思っています。また、重めの社会課題を解決するプロボノに関心がある方も一定数はいると思いますが、そうでない人も多い。さらに、アートも向き合っている社会課題はあるので、課題解決にも一役担える。
綿江:社会課題と接続していないわけではない。
西川:そう。アートに解決できない課題はむしろないという気がします。なぜかというと、アートが得意とする「心を豊かにする」というのはどんな人にも届くからです。ARDAさんの名称も「芸術資源開発機構」ですが、アートはいろんな課題解決につながる前向きな資源だと思います。文化団体が接点を生むためにプロボノを活用するという事例はもっとあっていいですし、その接点からアート人口を増やすだけでなく、業界として幅広い人材を発掘できるのではないでしょうか。文化団体がより積極的に募集をすれば、参画したい人は多いんじゃないでしょうか。もっと多くの文化団体にアートプロボノを知ってもらいたいですね。
綿江:文化団体は発信力が弱く感じますか。
西川:アートに限らずNPO運営者は、思いはとても強いけど発信するための時間やお金といったリソースに苦労している気がします。10年前よりは改善していると思いますが、今日本はまだ成長ステージなのかなと。だからこそプロボノが成り立つわけです。その現場を目の当たりにしたので、お手伝いを始める際には、まずはやってきたことの整理をして頭の中で再認識してもらうところからスタートします。アート団体であっても、他のNPO団体でも同じです。思いだけが強いと、伝えたいことがどんどん増えてウェブサイトも複雑になってしまいがち。どの団体も最初の課題は同じような気がします。
綿江:一緒に課題を整理していくことからはじめるわけですね。
西川:そうですね。その整理を通じて、文化団体が何を一番大切にしているのかをワーカーが実感する機会にもなります。私たちは正解か間違いかを指摘する立場ではなく、NPOの思いを実現するためにどうしたらよいかを一緒に考える立場なので、そもそも、そのNPOがどちらを向いているのか、何をやりたいのかをきちんと理解する必要があります。
綿江:団体がプロボノとして頼んだ方がよいことと、お金を支払って仕事として頼んだ方がよいこととの違いはなんでしょうか。
西川:私たちにできることは、解決したいことの最初の一歩、基盤をつくることです。基盤から広げていく段階で、お金をかけていくのがよいのかなと思います。設立時のビジョンを再確認してから、何にお金がかかるのか、何がプロボノで対応できるのかを見極める。そのお金をかけるかどうかの仕分けについてはプロボノワーカーに聞いてしまってもよいかもしれないですね。また、サポートする団体から「第三者的な客観的な見方をしてもらえる」とよくいわれますが、それに加え、団体側も「プロボノワーカーに説明することで自分たちの整理になり、気持ちも引き締まる」といわれたことがあります。プロボノを始める準備がプロセスとして団体にもとてもよい体験になると思います。
綿江:少し話は変わりますが、プロボノを行うにあたって大変だったところをおうかがいできますか。
西川:時間の管理です。仕事もフルコミットメントしている方が多いので、その中でどうチームメンバーの時間を捻出してクオリティの高いものを生むか。土日だけでなく、平日に動くことも多いです。仕事だと同僚との基本的な信頼関係がありますが、プロボノの場合、細切れの時間の中でどう関係をつくり上げるかもポイントです。
綿江:職務内容と同じ専門性でかかわる際に、モチベーションはどう保っていたのでしょうか。
西川:職務内容が同じだとしても、私の中では仕事とプロボノはまったくの別物という感覚です。私は、社会課題を解決するという実感を仕事で得にくかったので、もっと積極的に得るためにプロボノを始めました。そういう動機は参画者によってまったく違うので、それぞれの動機を最初に共有しておくことが大切だと思います。それから、プロボノは仕事ではないので、仕事とは違う向き合い方をしたほうがよいと思っています。仕事と見てしまうと、他のメンバーの取り組み方に不満が出てきてしまう場合もありますが、そうではなく、プロボノは貢献する気持ちがまず共通してあるので、足りないところがあれば補い合えばよいと思っています。
綿江:学んだことや、仕事に対するフィードバックはありますか。
西川:他の人の仕事の仕方を学び、自分の仕事に活かしていくことはできます。会社の中では、仕事のやり方、資料作成の切り口は似通ってきてしまうので、いろんな違う視点を知ることができるのは新鮮でおもしろいです。
綿江:(前回のインタビュイーの)小木さんは、コミュニティへの参加が楽しいとおっしゃっていました。
西川:そうですね。プロボノにはまる人はそういう人が多いのではないでしょうか。仕事で何かを得ようというより、知らない人と出会って楽しむことを目的に持っている人の方がリピートしていくし、楽しめると思います。報酬はなく、自分の大切な時間を割こうという気構えがある時点で、ある程度共通項のある人たちの集まりなので、やっていて気分が悪くなるような人と出会う確率はとても低いと思います。
綿江:プロボノだと普段会わない人と一緒になれますね。
西川:プロボノに集まる人には、「困っている誰かの役に立ちたい」という同質性がありますが、この切り口は会社の中にも他にも多くはありません。だから出会った時点からとても気持ちがいい関係になるんですよ。そのうえで、各々の得意とするものを持ち寄るので、学び合いもある。
綿江:そこにヒエラルキーはないんですか。
西川:まったくなく、みんな横並びです。過去の経験者も新しく参加した人も、貢献の仕方はいろいろですし、誰かが指示を出すこともありません。
綿江:私も、西川さんや小木さんの話を聞いているとプロボノのプロジェクトに参加したくなってきます。
西川:多分小木さんも私も特にのめりこんでいる方だと思いますよ(笑)。
綿江:最後に、プロボノに関心がある文化団体へのメッセージをおうかがいさせてください。
西川:ワーカーも文化団体もお互いが求め合っているのに、その出会いの場がないのかなと改めて思いました。やりたいという人も、やってもらいたいという人も潜在的に多い気がします。プロボノワーカーは基本「プロジェクト待ち」で、出てきた案件の中から選ぶというシステムなので、最初の一歩はまずアート団体に踏み出してほしいです。そんなにハードルは高くないですし、そこにのれば、ワーカーが手を挙げてやりたがるジャンルだと思います。これから2020年に向けて、そういうチャンスをうかがっている人はいっぱいいると思います。
綿江:本日はありがとうございました。
次回執筆者
バトンタッチメッセージ
次回は、これまで積極的にボランティアを受け入れるとともに、各個人の専門性を活かした支援を受けている「SPAC:静岡県舞台芸術センター」の活動を取り上げたいと思います。お話は、制作部の丹治陽さんにおうかがいする予定です。