ともにつくる「みんなでミュージアム」
みなさんはどんな風にミュージアムを楽しんでいますか?
「一人でゆっくりじっくり見たいので、鑑賞プログラムにはあまり参加しません」
「実はショップやカフェでの時間の方が楽しみなんです」
「展覧会を見ていると疲れてくるので、横になれるスペースがあるといいな…」
楽しみ方や求める環境は人の数だけ多様になってきているのではないかと感じます。
はじめまして。
今回このリレーコラムを執筆していますNPO法人エイブル・アート・ジャパン「みんなでミュージアム」事務局の原衛と平澤です。
エイブル・アート・ジャパンは『アートの社会化、社会のアート化』をキーワードに、だれもが豊かに生きることのできる社会の実現を目指して、1994年から活動をしている団体です。
オープンアトリエの実施や、展覧会支援、著作権マネジメントなど、障がいのある人たちの表現活動の環境整備を実施するとともに、障がいのある人の鑑賞支援 ※1 などを行ってきました。
障がいのある人たちの鑑賞体験の機会拡充を目指し、2018年の国の施策では、ミュージアムの環境を整えることが示されました。しかし、人員や予算の制約から、すべてのミュージアムが単独で取り組むことは難しく、継続的な鑑賞体験プログラムを実施しているミュージアムはわずか12%という状況もあります。 ※2
そこで私たちは2021年に、「いつでも、だれでも、どこへでも『ミュージアム・アクセス・センター』」設立事業」に着手しました。
障がいのある人の生み出すアートへの評価だけでなく、あらゆる人が鑑賞活動に参加し、交流する機会をつくることで、社会をひらかれたものにしていきたいと考え、未曾有のコロナ禍でも歩みを止めず、できる活動を少しずつ続けてきました。そして、アートが自他へ与える力や、人々が支え合いながらつながっていくことの豊かさを学んできました。
※1:美術と手話プロジェクト、みんなの美術館プロジェクト等
※2:令和元年度「障害者による文化芸術の推進に向けた全国の美術館等における実体調査」
さて、だれもが豊かな鑑賞体験ができるアクセスしやすい環境を整えるには、どうしたらいいのでしょうか。
1年目(2021年度)は、障がい当事者や支援者、国内外のミュージアム関係者(初年度は美術館に限定)へのヒアリング、中間支援組織やビジネスモデル団体へのインタビューを実施し、ニーズの模索と構想を練っていきました。
2年目(2022年度)になり、「みんなでミュージアム(愛称:みんミ)」と名称を変え、実践的な活動に動き出します。
多様な人を受け入れたいけれど、どうしたらいいのかわからないミュージアム、ミュージアムに行ってみたいけれど行きづらかったり、もっと楽しめる方法を探したい人、双方をつなぎ、持続可能な方法を一緒に考えつくっていくのが、みんなでミュージアムの役割です。
1年を通じ、みんミの活動に関心を持ち、さまざまな人と鑑賞体験を楽しみたいという想いをもつ人たちが集まりました。集う仲間とともに、定期的なオンラインイベント「みんミの”わ”」と、ミュージアムとの実践型協働の実施に取り組みました。
「みんミの“わ”」は、各地の活動を紹介し、集う人の交流を目的とするプログラムです。ここでは活動を紹介する人も、聞く人も、同じ輪の中で自分の気づきや感じたことを安心して伝えあえる、フラットな場になるよう心がけています。
昨年度は月1回開催し、障がい当事者やその支援者、多分野のミュージアム、福祉・教育関係者、企業、行政、学生など…さまざまな立場の人がゆるやかに集いました。
参加した人からは、ミュージアムで人とつながっていきたい、自分も何かやってみたいという声が広がり、実際にミュージアムでの実践にかかわってくれた人もいました。「みんミの”わ”」は今後も定期的な開催を予定しています。
ここから、ミュージアムで行った実践型協働のエピソードをご紹介します。実践型協働は、ミュージアムとさまざまな人たちが一緒に考え、誰もがアクセスしやすい環境をつくっていく取り組みです。
みんミに関心を寄せるミュージアムを探していたとき、ぜひ一緒にやりたい!という「さいたま市立漫画会館(以下、漫画会館)」と出会うことができました。
そこでは、所蔵品の企画から、広報、来館者の案内、電話対応まで学芸員の人がほとんど一人で担っています。
初めての打合せのとき、担当学芸員が、「当館ではまだ障がいのある人が参加しやすい鑑賞プログラムにトライしたことはないけれど、障がいのある人だけでなく、多言語の人、若い人などいろんな人に来てもらいたいと思っている」と話してくれました。
漫画会館では、視覚に障がいのある人、聴覚に障がいのある人とそれぞれ実践をしました。視覚に障がいのある当事者としてかかわった人は、海外旅行やスポーツなど多様な趣味を楽しんでいましたが、ミュージアム体験はあまりありませんでした。みんミについて紹介したところ、何か楽しそう! と興味を持ち、かかわってくれることになりました。
視覚に障がいのある人に初めて出会う担当学芸員と、ミュージアム体験があまりない視覚に障がいのある人との実践型協働では、まず、みんミのメンバーも加わり、一緒に所蔵品展の作品を見ていき、気づいたことを話し合うことにしました。
担当学芸員による工夫された解説と、作品を愛していることが伝わるトークに、視覚に障がいのある人から「自分にはもう楽しめない、興味がないと思っていたけれど、楽しいと思えた」というコメントがありました。また担当学芸員からは「障がいのある当事者の観点で、作品説明のポイントなど教えてもらい、その指摘は誰にとっても通ずることで今後の勉強になった」と感想がありました。
漫画会館では、障がいのある人とともに鑑賞を工夫した経験を通して、地元の学生や作家、教育関係者などさまざまな人とのかかわりしろを増やしながら、試行と実践を続けています。
もう一つ、誰もが行きたいと思ったときに、行きたいところに行くことを実現するための取り組みを紹介します。
実践では、ミュージアムに行きたい自閉症のある人と、普段から彼女の生活のサポートに携わるヘルパー、「みんミの”わ”」に参加し活動に関心を寄せていた人、3人で鑑賞をすることにしました。
自閉症のある人は、普段からご家族でさまざまなミュージアムにお出かけをされています。「みんミの”わ”」の参加をきっかけにかかわった人は、ミュージアムでコミュニケーターの経験があり、作品の前でたたずむ時間を、誰かと一緒に共有することが好きなのだそうです。
二人とも美術が好きですが、今回が初対面です。
初めて会う人と出掛けるのは誰しも緊張しますよね。
そこで、会う前にお互いにプロフィールシートを書いて交換し、事前に行きたいミュージアムを相談するなど、双方が安心して時間を過ごせる準備をしました。
当日は、ミュージアムでコミュニケーターの経験がある人が提案した中から、自閉症のある彼女が選んだ特別展と、常設展に行きました。
人によってミュージアムの楽しみ方はさまざまなので、課題も多い部分ですが、誰かと一緒に過ごす時間は、一人ではできない喜びを味わえるなど、個々の経験を豊かにしてくれることもあると感じます。
日本には博物館と呼ばれる施設が5,738館あるそうです。(平成30年10月時点)
博物館 には、美術館をはじめ科学館、文学館、動物園、水族館などさまざまな分野があります。
こうした多様なミュージアムを自由に体験すること、好きなものを好きなときに楽しみ、文化芸術の豊かさに触れることは、本来だれもが受け取ることのできる権利です。
人の数だけ多様になってきた「楽しみ方」「かかわり方」で、これからのミュージアムの価値をつくっていくことができる。
価値をつくるはじめの一歩は、わたしやあなたの 想い なのだと思います。
どんなに小さな活動や、たった一度のミュージアム鑑賞でも、「やってみたい・行ってみたい」という想いから切り開いた機会だからこそ、そこで出会った人や気づいたことが次の機会へとつながり、持続していくことを実感しています。
これからも、それぞれの想いや意志を持ち寄り、新しいつながりを生むことで「いつでも、だれでも、どこへでも」が実現できるよう、一緒に次の一歩をつくっていきたいです。
みんなでミュージアムのこと、ミュージアムやアクセスのことなど、関心のある人がいたら、ぜひつながれるとうれしく思います。
(2023年4月17日)
今後の予定
みんなでミュージアム
アーカイブ<2022年度 シンポジウム~もっと気軽にミュージアムへ、 もっとつながるミュージアムを~>
4月末日 WEBページにてURL公開予定。(~5月末まで視聴可能)
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