瘡蓋とキャラメル
俺は最長で1日16時間制作します。風呂と飯で2時間、あと6時間は睡眠です。これを2か月つづけるとだいたい5キロから10キロ痩せます。ああ。もちろん世の中にはもっと働いてる人もいるに決まってるけど、俺はこれ以上は制作しません。制作で疲れて眠る前に、同じように制作で疲れて眠る人たちのことを思い出します。
バイトでぐったり疲れて、わけのわからねえ立体物とか気持ち悪い絵とかを缶コーヒーとかレッドブルとか、時には精神安定剤とかの力を借りながらつくり始める人間の手つき。
稼ぎが少ないから結婚の見込みをたてれず、彼女にふられて泣いたりゲロ吐いたりしながらつくったもの。それが床に転がっている。彼氏にふられて樹脂用の防毒マスクをつけながら泣いてる人。
絵の書き過ぎで段々ブスになっていく恐怖感が滲みでている画面越しの後ろ姿。(実際はブスになんかなってません。)
結婚した奴もいます。でも金もねえのに子供できたってお前正気かよ?とかいわれながら軽のワゴンにコンパネを積み込む時の顔。みんな疲れてる。
「なんか俺精神病くさいんだけど、お前いい病院知ってる?」とおちゃらけてるけど、シリアスな声。
アトリエが寒すぎて樹脂の立体に耐水ペーパーかけてるそばからシャーベット状になっていくのを横目で見てる目つき。
貼るホッカイロを体中に貼ってうれしそうにアクリル盤を切る手つき。
共同アトリエをシェアしてる人間とうまくいかなくて、会いたくないから、朝4時から昼の12時まで制作してる奴。そいつが食ったコンビニ弁当のかすと、休憩時間に読んだと思われる『闇金ウシジマ君』。
晩飯100円の、もやし焼きそばつくって貯めた金で買った2万円のノミが楠の木を彫る音。
絵の描き過ぎで白目から血が出てる、笑顔。親父さんが亡くなって葬式すませて帰ってきた日にアパートで紙に描いてた変な抽象画。
4日も寝ないで富士の樹海で撮影してアパートに帰ってきて「どうだった?」ときいたら「まあまあうまくいってる」といったときの目。
無限に書き出せる友だちのアーティストの疲れた顔の思い出が、すごく安眠させてくれます。
『アートマネージメント』をちゃんと、やっている人たちは、そういう思い出を肯定してくれる人たちだと思うので、この場を借りて心から感謝します。どうも、ありがとうございます。
(2012年10月29日)