ロケーションについて
この春から愛知県美術館に勤めることになり、三重県の四日市市に住所を移しました。それまでは自他共に認める調布中心主義者だったのですが(まさか調布市を知らない人いませんよね?)、新しい土地にも徐々に愛着が湧いてきたところです。
約30年住んだ調布をいよいよ去ることになり心残りだったのは、調布在住のアーティストを集めた「調布ビエンナーレ」を実現出来なかったこと。同年代の友人たちと、いつかやりたいねと言いつつ先延ばしにしていたのが悪いのですが。結局その代わりに、引越が片付いた3月末に、ほとんど空っぽになった自宅でささやかな展覧会を行いました。それが前回の清水美帆さんにも参加してもらった「メメント調布」です。急遽思い立ったので準備もドタバタでしたが、そのおかげで色々なことを学び得難い経験となりました。
実はこれまでの人生で仕事を転々としてきたこともあって、新しい職場に赴くたびにその土地のことを調べたり、それを仕事のネタにすることがあたり前になっていました。だからなのか、人が長い時間をすごす場所、つまりロケーションというものに興味を抱いています。そして住んでいる場所に思い入れを抱くことと、美術の体験には深い関係があるような気がなんとなくするのですが、どうもまだそれを言葉でうまく説明できません。ただ今回の展覧会をやって作家の皆さんと話しているうちに、考えるためのヒントをたくさんもらいました。
それから作品を見るロケーションについても。以前から、美術館やギャラリーの白い空間ではなく、普通の家で行う展示というものに憧れを抱いていました。アーティストの自宅を使った展覧会に足を運び、大きな刺激を受けていたからだと思います。今回の展示ではお客さんが靴を脱いで上がり、お茶やお菓子などで寛ぎ、そして作品を見て作家と話すという一連の行為のための演出(おもてなし)をしている時間が、とても充実したものでした。美術館で働いていると、誰がどういう感想を持ったのかということはなかなか分かりにくいのですが、自宅では目の前のお客さんからダイレクトに反応をもらえます。そういうやりとりが実に貴重な経験でした。
自分が住むロケーションと作品が設置されるロケーション、これは今後も考えていきたいテーマです。そのために、四日市でも何かおもしろいことをやっていこうというのが現在の計画。自分も楽しみながらやれて、無理のないペースで続けられるというのが理想です。
(2012年6月15日)
今後の予定
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