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地域を越えた人と文化の交流をめざして

「つなげ役」として15年 いまから、ここから

 芸術文化に親しむ機会が全国津々浦々に広がってきた中で設立された門川ふるさと文化財団が、地域と芸術文化の「つなげ役」を宣言して早くも15年。法・制度の整備が希薄だったころから今日まで地域の芸術文化の環境整備・振興に携わってきた各地の皆様の日夜の労苦も偲ばれます。

 私は、運営に携わってすぐに、地域の会館への期待の大きさを痛感し、芸術文化と地域の「つなげ役」に徹するべく、まず10年間で財団運営の基盤整備のために、最初の5年間は「事務の確立」、次の5年間を「地域との連携」、その後は「地域・人、みんなが主役」の会館運営を自らの目標と定め取り組んでおりますが、すでに地域の方々の実行委員会などの主体的活動も見え始めてきました。
 今後も地域との連携をはかり、会館が地域住民に親しまれる場所となった時、「つなげ役」には新たな機能が求められてくることでしょう。

「C-WAVEネットワーク」とのさらなる連携をめざして

 宮崎、大分、鹿児島県の中・小規模の公立文化施設で設立した「C-WAVEネットワーク協議会」は、現在、熊本、福岡県とも連携して11館と賛助会員としての地方新聞社を交えた年4回の定例会をはじめ、日常的な会員相互の情報交換を通して、会館の管理運営や事業に必要な知識、技術の蓄積をはかりながら、招聘コストの軽減やスタッフ不足の間接的補完、職員の学びの場として協働中です。

 定例会で多くの講師(*)に提案されました「地域特性や地域資源を生かして個性的な文化芸術の振興をはかることが日本の芸術・文化を支えるキーワードになる」や、「C-WAVE」アンサンブルの結成・育成」、そして「文化ホールがまちをつくる」などの具体的な提案に応えることは今日もなお課題となっていますが、「優れた実験場」となることを目標に、成果が感じられるまで時間と手間をかけながら「心に橋をかける文化事業」を模索中です。

(*)主な講師:芸術情報プラザアドバイザー・大野遼氏/柏原靖典氏、北海学園大学教授・森啓氏、宮城大学教授・小林進氏、文化庁・加藤寛充氏、東海メセナ研究会・下斗米隆氏、シアターネットかんげき・漢幸雄氏他の皆様に常に新鮮・有効な情報とアドバイスをいただいています。

「ふるさと」を共通テーマに参加型音楽劇

 音楽環境に比して決して恵まれているとはいえない演劇環境の整備・振興をはかる上においては、鑑賞機会の充実とあわせて住民参加や教育普及を、地域の独自性を生かしながら演劇関係者等との連携を深めつつ取り組んでおります。

 辰巳卓郎の「兵士の物語」(1998年6月地元出演者7名)、常田富士夫の「星のおじいさま」(2001年8月地元出演者26人)は、C-WAVEネットワーク協議会加盟の宮崎県内の3会館が地元の劇団「こふく劇場」主宰永山智行氏の総合プロデュースにより、財団法人地域創造の助成を受けて連携した「九州・みやざき音楽物語」小林・串間・門川編(2003年12月〜04年1月)の公演に繋がりました。
 方言や伝統芸能をはじめ姿を消してはならない大切なふるさとをテーマにして「広場のものがたり」と題し、地域に親しまれ支援される作品とすることをめざして、地元の劇団と地元出身の在京俳優の里帰り共演、地域の伝統芸能継承活動を行う小学校の団体や一般団体、公募により集まった出演者に、本町では町長も参加し総勢133名が一体となり作り上げました。また建設産業労働組合の皆さんが大道具や舞台美術を担当するなど、大切なものを探しつつ「まちの再発見」につながる音楽劇となりました。
 本町では昨年11月の再演も好評で、新たな文化活動が芽吹こうとしています。

 今後も一定期間で再演を繰り返し、作品の芸術性を高めていくとともに、ネットワーク間の連携も広めながら、今回の作品を下敷きにした新作も目標にして展開することができたら、地域における芸術活動の活性化が地域の活性化にもつながることと期待しています。

21世紀は「子ども」が主役
〜やがて「文化少年団アドベンチャークラブ」が四季を彩る



 同一作品を協働企画する場合、事業・収支計画の中での集客目標の設定は、人口やホール規模、演劇ファンなどを当然考慮する必要がありますが、いまだに文化振興ビジョンや長期計画抜きに集客数・率のみが評価基準とされ、積極的な取り組みをためらう会館さえあると聞きます。

 そんな状況には一石を投じたいものですが、当館では「劇団こふく劇場」(宮崎県都城市)が、県北演劇活動の拠点として四季を通じて制作と公演を繰り返して5年目になります。ステージ上やホワイエに舞台と客席を特設したり、また会館前の交流広場を背景にした公演などユニークな演出で観客を感動させてくれています。
 小林市文化会館10周年記念作品小林ドラマ工房公演「オットイタノカンサア」は小林初演の後門川町での巡回公演も実現しました。50〜100席の公演を続ける小劇団ならではの発想と工夫は観客にも賛同され、ファン拡大のための魅力のひとつとなっているのです。そしてこふく劇場のように、地域のホールを制作と発表の場所として活動する地域の芸術団体の支援を継続的に試行していくことを、各県のC-WAVE加盟館とも連携できないか提案していきたいものです。また、鑑賞の場として存在してきた多くの地域のホールは、同時に制作の場でもあるべきと強く感じ始めています。

 さて、宮崎県においてはスポーツ競技力向上のためにジュニアからの一貫教育を推進しようと協議され、一つの競技で成果を出すまでに10年、それが伝統になるまでにさらに5年かかるということが浸透してきました。スポーツ振興に追いつきたい文化行政としても「子どもが主役」の視点は極めて重要といえましょう。

 質の高い伝統民族音楽・舞踊などにより日本の音楽の源流をたどるとともに、民族との芸術文化、生活文化交流事業「アジアシルクロード音楽フェスティバル」に併せて開催した国際民族会議に出席する機会を得た「文化少年団アドベンチャークラブ」の子どもの質問「いつから音楽をはじめましたか?」に対し、ウィグル、モンゴル、カザフスタンの演奏家たちが異口同音に「生まれたときから音楽に囲まれて育った」、「野遊びするときも楽器を持ち歩く」と答えると文化少年団アドベンチャークラブの子どもたちの目は輝いていました。

 当財団が12年間継続している通年事業「アドベンチャークラブ」は、町内の小学生を対象に自然体験や歴史探検、芸術体験を中心にしたプログラムですが、そのうちの演劇体験はここ数年「こふく劇場」が一手に引き受けてくれています。地域の劇団はフットワークのよさが光ります。来町の際、座長をはじめとする劇団員たちは、数日にわたり職員とアドベンチャークラブの子どもたちとホールで寝食を共にします。座長や俳優たちが町内を散策すると、子どもたちをはじめ、まちの人々が気軽に声をかける光景も見られ、地域と劇団との親密な関係が生まれつつあります。

 アドベンチャークラブが、スポーツ少年団のスポーツ活動のように、子どものころから芸術文化活動を継続的に行うことにより、文化施設に親しみながら芸術文化の日常性を高めていくとき、子どもの成長のように文化活動の裾野が拡がり、文化ホールは四季折々の子らの笑顔と弾む声を包む文化の杜となることでしょう。

【写真】
上2枚は、2003・2004年度に文化庁の指定を受けて開催した文化体験プログラム支援事業の一部。 2005年度は、北海道、朝日町サンライズホール漢幸雄氏の紹介で「子どもの居場所づくり」に取り組んでいる。「文化少年団アドベンチャークラブ」はさまざまな芸術・スポーツ文化の体験を繰り返しながら、21世紀の主役になるべく育っていきます。

08-01.jpg 狂言体験では、「盆山」の稽古や発表、江戸時代の衣装を身に着ける体験をする。東海メセナ研究会会長・下斗米隆氏。

08-02.jpg アジアシルクロード音楽フェスティバルで楽器の体験をする。演奏会終了後には子供たちも国際民族交流会議に参加。

08-03.jpg 文化会館すぐ隣の浜で「カムイノミ」(神への祈り)をする東京アイヌ協会会長・浦川治造氏。

08-04.jpg 東京アイヌ協会会長の浦川氏と地元の大工さんたちの指導で、樹齢90年の杉の木で「チプ」(丸木舟)を造る。

08-05.jpg 東京アイヌ協会会長・浦川氏を船頭に、「チプ」の進水式を行うユーラシアンクラブ理事長・大野氏と事務局。

08-06.jpg ケンブリッジ大学聖歌隊とのちぎり絵体験交流。聖歌隊は地元にホームステイし公演を行った(連携事業企画:熊本県立劇場・本田恵介氏)。

● C-WAVEネットワーク事務局
門川ふるさと文化財団
〒889-0600 宮崎県東白杵郡門川町南町6-1
Tel:0982-63-0002 / Fax:0982-63-5048

(2005年7月29日)

今後の予定

■今後のアドベンチャークラブの予定

・C-WAVEが贈る宝くじ助成「永遠の一秒」公演
アドベンチャークラブとともに7月25日から29日まで、シアタージャンク、こふく劇場、スターダストプロモーション、スタジオキューブ他で合宿稽古の後、7月30日九州初演、8月1日小林市、2日串間市、3日宮崎市公演。30日門川公演はアドベンチャークラブが親子で観劇。

・7月27日、29日
アドベンチャー手作り「チプ」(アイヌの丸太舟)で五十鈴川下りを楽しんだ。

・8月23〜25日
五十鈴川上流で川えびを採りそうめんの出汁にする。もちろん海老も食べる。川で存分に泳ぐし上映会の裏方もする。

・10月16日
アジアシルクロード音楽フェスティバル鑑賞
14日から合宿して楽器体験、モンゴル食文化体験他

・12月上旬
富良野塾公演「地球光りなさい」漢幸雄氏紹介

・3月2日
人形浄瑠璃「文楽公演」等とあわせた合宿体験、鑑賞など四季折々にかかわっていく。

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

漢さんからのバトンを、九州山脈越しにいつも新鮮な情報を宮崎に届けてくださる熊本県立劇場プロデューサー・本田恵介さんに渡します。
ご多忙中とは存じますがよろしくお願いします。
管理指定者制度等の荒波を乗り越え、強力に航海中の船団・集団の船頭さんです。
九州山脈越しにいつも、思いがけないホットな情報と、すばらしい企画のプレゼンターは、C-WAVEにとって、北海道の漢さんや東海メセナ研究会の下斗米さんと同様、ネットワークの原動力です。
これからも一歩一歩、前へ!の心で...皆さんのご支援よろしくお願いします。
ただいま、アドベンチャークラブ夏季合宿5泊6日41名の朝食作りに奮戦中です!
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