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「すごかった」より「よかった」と言われる舞台を創りたい

 いま和太鼓といわれている演奏形態は、伝承芸能とは別に、実は戦後に始まった新しい舞台芸能で、いまでは全国で15,000チームを超え、現在もその数は増えつつあり、いろいろな意味で現在進行形の熱い状況が続いている。

 自分が和太鼓と本格的に関わったのは1985年に国立劇場の「日本の太鼓」という公演で林英哲氏にアンサンブル指導をさせていただいたのが最初であった。

 当時、私も一介の打楽器演奏家だったし自信も持っていたけれど、そこで出会った太鼓奏者の「打つ」ということへの真摯な姿勢や日本太鼓の音色に心を打たれた。そのとき強く「これは何だ!」という、漠然としてはいるけれど、とんでもない物を発掘してしまったような衝撃を受けた。

 その後、英哲氏とは共演する機会も増え、曲を提供したり教えたり教えられたりの関係が続き、CD制作や世界35か国を回ることとなる。

 その時もう一つ興味を持ったことは、一民俗芸能としか思われていなかった和太鼓を、国立劇場という古典邦楽の権威のような舞台にのせる努力をされた芸能部長、西角井正大氏のプロデュースの手腕であった。

 海外に目を向けると、既に和太鼓は先駆者たちの超人的な努力による単独公演で、注目を浴びる存在になっていたけれど、確固たるものにしたのはやはり楽壇デビューの成功ではないだろうか、そのことに尽力された作曲家の功績は大きいと思う。

 武満徹氏は、多くの映画音楽で、和太鼓を効果的に取りあげ、その音色に市民権を与えたのではないだろうか。[*1]。

 石井眞木氏は小沢征爾氏とボストンフィルと太鼓グループの共演という形で楽壇に衝撃を与えた。[*2

 水野修孝氏はコンチェルトの形で日本太鼓がソリストたり得ることを楽壇に証明した。[*3]。

 こういった事実が逆輸入され(いかにも日本的だけれど)、「うるさ方」にもアートとして認知される契機となったのではないだろうか。

 ここで私がいいたいのは、権威への憧れではなくて、新しく起こった芸能が各方面からのプロデュースにより、可能性が大きく広がっていったことと、作曲家の、絶対に真似をしないで、自らの趣旨と内容を自分の語法で主張していく姿勢のことだ。

 現在、太鼓はどちらかというと演奏家主体で動いているような気がする。自身の経験から、演奏家は作家に比べると以外と保守的で、有り体にいえば「気持ちよく演奏出来てよい汗かければ最高、何も冒険したり、理屈をこねたりしなくてもいいじゃない」みたいな傾向がある。

 「作曲家と演奏家を同列に論じるな、お前と一緒にするな!」と怒られそうだが、こと、現在進行形のアートに携わるのであれば、その趣旨と内容を意識して言葉に出すべきだと思うし、演奏家の側からもっと過激な提案があってもいいと考える。

 作曲の世界で「とにかく曲の頭で大きな音でビックリさせれば、あとは黙って聞いてくれる」なんてあざとい技があるけれど、その後の内容が無ければやっぱりお客様は帰ってしまう。

 和太鼓も、初期の頃は太鼓の持つバーバリズムの直球勝負で十分センセーショナルだったけれど、いつまでも「すごい」とは感じてもらえない。これからは「よかった」と言われる、一過性にならない舞台を作る時期にさしかかっているのではないだろうか。

 ここでやっと、コンサートのプロデュースになるのだが、最近はとにかく短期的な効果を期待される例が多くて辟易する、関わる演奏家も現在進行中の芸能なのに、苦労して何かを作るより既存のお手本をそれらしくまとめた形で満足してしまう例が多い気がする。この辺の意識改革をしなければ長期的には寂しいことになってしまう。

 そりゃあ、既存のものをそのまま持ってきて、ゲストでも入れて、あとはうまく構成してコンサートとして成立させれば、みんなが楽できるし、リスクも少ないし、お客様にもわかりやすくて喜ばれるかもしれないし、そのイベントは長続きするかもしれない。

 しかし何が残るかといわれると返答に窮してしまう。

 「リスクがあってもどこにも無いもの、残るもので勝負しましょう」という提案は、まるで従来の学説をひっくり返そうとする考古学者のようでもある。

 自らの発明したソフトをとことん煮詰めて発展させ、応用していく、この一番日本が苦手とすることをプロデュースや作曲活動を通じて、一番日本的な和太鼓の世界から打破していければと考えている。

(2010年6月26日)


[註]
  1. 太鼓にとって一番の功績は、当時最先端の現代音楽(プリペアードピアノや電子音響)の流れの中に並列して、和太鼓や和太鼓的な打楽器音楽を取り入れられ、多くの人に聞かれた事実ではないだろうか。
    武満徹氏とはコンサートの他、吉田喜重監督の「嵐が丘」の録音で呼ばれたことがあるが、太鼓を含めて打楽器の音色に対する繊細な扱いが印象的だった。もっといろいろ伺っておけばよかったと思う。
  2. モノプリズム (日本太鼓群とオーケストラのための)作品記号 029 作品年 1976、初演奏 1976年7月25日:ボストン交響楽団、小澤征爾 Tanglewood (USA)。
    石井眞木氏とは「輝夜姫(かぐやひめ)」 (日本太鼓群と打楽器群のための交響的組曲)を1984年に初演以来多くの作品の初演や舞台でご一緒できたし、近年は「東京国際和太鼓コンテスト」(青山劇場2002~)の立ちあげに、氏とともに課題曲作曲家として参加でき、ご一緒に審査もさせていただき、いろいろお話を伺うことができた。2002年12月草月ホールでの「舞踊道」での演奏が最後の仕事となってしまった。
  3. 「交響的変容」アメリカン交響楽団+岩城宏之指揮でカーネギーホールにて84年2月22日上演(Music from Japan)。
    水野修孝氏とは、73年以来、多くの作品を演奏させてもらった。「交響的変容」、およびソロ部分の抜粋版「鼓動」ともに複数回ソリストとして関わることができた。「幕張クラシック・スペシャル'92 水野修孝作曲「交響的変容」全4部初演コンサート」(92年09月20日)ライブ収録盤cond岩城宏之・東京交響楽団に林英哲氏との演奏が納められている(このCDは全国の図書館に所蔵されていて、聞くことができる)。発売:CAMERATE TOKYO INC.JAPAN 品番:CDT-1017~19。

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野外舞台の場合、現場ではブルドーザーの整地から始まります。音大に「土木科ゼミ」があればよかったと思います。岡山県ファーマーズマーケット・ノースヴィレッジ特設野外舞台(1999~2003、その後ホールの完成とともに定期コンサートへと結実した)。
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基礎舞台ほぼ完成、これから照明さん、音響さんの出番。この程度の規模になってくると、電源の確保が重要です。
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和太鼓と西洋打楽器のコラボレーション(1+1が2以上になるよう、作曲は大変でした)。(Photo 鍋島徳恭)
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照明効果、野外は風でスモークが飛んで行ってしまうので苦労します。(Photo 鍋島徳恭)
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大太鼓両面打ち (Photo 鍋島徳恭)
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照明プランは信頼できるスタッフと綿密に打ち合わせ(ビジュアルは音よりも強いので、演奏者への愛情が一番大切「すごい照明でしたね」といわれたら失敗!)
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文中の水野修孝氏の曲を林英哲氏とともに(別セッション)。cond:松尾葉子、orch:東京交響楽団、solo 和太鼓:林英哲、solo Timpani:細谷一郎
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パーカッションと造形の出会い「環」細谷一郎コンサート。舞台美術:松原賢、照明:中川健二、音響:琴谷中
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東京国際和太鼓コンテスト。細谷一郎作曲 課題曲「鼓楽響成」(太鼓合奏のための)の舞台、青山劇場(2002~) ©Stage Life
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細谷一郎作曲「打韻」を熱演中の釧路蝦夷太鼓、サントリーホール(2010年2月6日)、第32回サントリー地域文化賞受賞 ©釧路新聞、時事通信社撮影
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子どもに夢を。未来の演奏家には、小さいうちから人に伝える快感を味わってもらいたい。ライブハウス! でのピアノ発表会をプロデュース(2002~)、青山曼荼羅(2010年4月4日)、照明:中川健二 (Photo 濱田則之)

今後の予定


■ ロンドン在住のアーティスト(キーボード&Vo)のユミ・ハラ・コークウェルさんと、久しぶりにLiveをやります。

2010年7/10(土)
18:30開場 19:30開演
2,500円(+1ドリンクオーダー500円)
@江古田Cafe FLYING TEAPOT(東京都練馬区)
細谷一郎(和太鼓)+Yumi Hara Cawkwell(Key, Vo)SUSANOO:石坂亥士(神楽太鼓)+塩島光弘(G)MMW:MEW(Perc)+Wave Drum(和太鼓)+ダンサー日程調整中


■ ワークショップや講演会などのスケジュール

「和太鼓カレッジ(TAIKO JAPAN 2010)」レクチャー細谷一郎「実践作曲講座とにかく一曲作ろう〜色々なテクニックを質疑応答を交えながら〜」
和太鼓カレッジで作曲に関しての講座をやります。今回は実践編! 実際に曲を作りましょう
2010年8/15(日)14:00-16:30
こどもの城会議室 2,000円 40名
お問合せ:東京新聞事業局 文化事業部 東京国際和太鼓コンテスト事務局
TEL:03-6910-2345(土・日・祝日を除く平日10〜18時)
E-mail:
http://www.tokyo-np.co.jp/event/taiko/

【第25回】富士山太鼓まつり
2010年7/31(土)、8/1(日)
高校生太鼓甲子園一人打ちコンテスト 両部門の審査員を務めます
http://fujitaiko.com/

第34回全国高等学校総合文化祭 全国高総文祭みやざき2010
郷土芸能部門の審査員を務めます。
2010年8/3(火)・4(水)・5(木)@小林市文化会館(宮崎県小林市大字細野1650)
TEL:0984-23-7400

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次回執筆者

バトンタッチメッセージ

形の無い音楽をやっている私からすれば、形ある、しかも走るもののデザインをされている。ものすごく憧れる。
原田さんのラインは、伝統と革新、力強さが一体となってその存在感は見るものを圧倒します。
一度聞いたら忘れられない音楽と共通の何かが感じられます。
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