豊かな生活者たち
1999年、国際芸術センター青森(ACAC)の準備室に勤務が決まり、故郷である青森に戻り仕事を始めてからもうすぐ10年が経とうとしている。よもや自分がUターンするとは思っていなかった。芸術の仕事を志していた多感なお年頃にとって、青森に留まることは未来を失うに等しかった。青森から脱出して早く自立したいと目論み、大学進学を東京に決めた。それが、いま、「青森はアートで熱い」のだというのだから、本当に驚きである。
その熱い青森に、大きな転機が訪れたのは、99年に行われた「トヨタ・アートマネジメント講座Vol.24/青森セッション(TAM/A)」が大きな要因のひとつであったと私は思っている。県立美術館(2006年開館)、ACAC(01年開館)ともに準備室であった当時、行政が立ち上げようとする両事業を、市民の目線でどのように受け止め、積極的に関わっていくことができるかが議論された。そこには、行政、NPO、アーティスト、日頃文化活動に興味を持つ方など、ジャンルを超えたさまざまな分野の人々が集まった。また、アーティストきむらとしろうじんじんによる「野点」も企画され、対話によるイメージづくりのみならず実際のアートの現場も持ち込まれた。
そこで出会った人々を中心として、やがて弘前ではレンガ倉庫を会場にした「奈良美智展」が市民ボランティアにより開催され、その成功がNPO法人「harappa」設立へとつながった。青森ではACACのプレイベントを地元NPOとの協働により開催し、その活動がACACのレジデンス・サポーター「AIRS」結成として引継がれることとなった。また、AIRSメンバーが中心となり、青森市出身の消しゴム版画家、ナンシー関の展覧会を市内の古民家で開催し、事業終了後、運営メンバーが中心となり「ARTizan」を発足。現在、市中心街の空き店舗をリノベーションし、若いクリエーターの発表の場を提供する「空間実験室」の運営を中心とした活動を行っている。このほかにも多くの個性的な活動が、TAM/Aでの出会いに後押しされるように生まれた。
そのことは、もちろんTAM/Aというすばらしいきっかけが作ったものであることに違いないが、その出会いを大切に場を作り上げようとしてきたこの地域の人々の熱意、努力の賜物なのである。生まれてくるものに立ち会える喜び。さまざまな人々、世代の垣根を越え互いに横断しながら考え、自らが手を動かし場を生み出す醍醐味を、青森の人々は日常的に味わっている。なんと、豊かな生活者であることか。いや、豊かに生きようとしているからこそできる活動なのか。私は、いまあらためて太古から受け継がれた、この地が湛えるエネルギーを強く感じているし、きっと、多くの地域には、そうした熱さが宿っているはずなのだ。
さて、熱い青森をさらにアピールしているのが、今年4月に開館した十和田市現代美術館。ここでひとまず、この熱はおさまるのか。あるいは、新しい人材や場が、さらにニョキニョキ生まれていくのか。後者への期待を寄せながら、この地域でもう少しがんばってみようかな、と思っている。
工事前。元美容室の空間を、ギャラリーへと作り変える。 |
ギャラリー部分、工事中。 |
ご近所のこどもたちも、時々お手伝いにやってくる。 |
休憩時間のひとコマ。どんな空間にするか。 互いのイメージづくりにとって一番大事な時間でもある。 |
(2008年7月21日)
今後の予定
2008年は新しい拠点にて、総勢40組(約50名)以上にもなるクリエーターによる、週代わりの展示、ライブなどが連日ノンストップで行われます。
・会期:2008年7月25日(金)〜12月3日(水)
関連リンク
おすすめ!
『在青手帖』
青森駅前の魚菜市場での朝ごはん。
市場でぶらぶらお買い物をして、その場で新鮮なお刺身やてづくりお惣菜をてんこ盛りにした食事を堪能すること。
県外からのお客様がいらっしゃると必ずご案内します。ですから、今最も「旬」というよりは、いつでも「旬」! なんですね!
そんな青森の豊かなくらしぶりに焦点をあてた、空間実験室スタッフ編集(監修:福田里香、束松陽子)による『在青手帖』。おすすめです!
次回執筆者
バトンタッチメッセージ
ずっと気になっていた、あこがれのココラボラトリーを率いる笹尾さんに直接お目にかかったのは、本当につい最近のこと。どこにそんなパワーがあるの!?と驚いてしまうぐらいの笹尾さんのキュートな魅力に、くらくらしました(笑)。
アーティストの中村政人さん、石山拓真さん等、大館出身・在住の人々が中心となって開催した、「ゼロダテ」。今年は、ゼロダテ、そしてリレーをしてくださった、菅沼さんが運営に関わる「アートつちざわ」、そして笹尾さんのココラボラトリー、青森の空間実験室などなど、北東北を結ぶアートネットワーク構築をめざした対話、プロジェクトが始まっています。
…ということで、ぼちぼちと、一緒に楽しくやっていきましょう〜!