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「ニホンは安い」といわせていいのか??

中国のアートバブルの中で

 「中国の現代アートがとんでもないことになっている」という話を耳にしたことがある方も多いかと思います。
 2006年の春、張暁剛(Zhang Xiaogan)という作家が、中国現代アートの作家としてオークションで初めて一億円を超えたことが大きなニュースとなりましたが、2007年11月の香港クリスティーズでは別の作家で、なんと10億円を超える作品が出てきました。
 そんな未曾有のアートバブルの中、北京や上海の芸術村では、世界各国からコレクターやキュレーターが訪れ、グッゲンハイムやポンピドゥーの分館が建設されるという話もあります。
 中国のアートバブルが一般のメディアでも取り上げられはじめた2006年、私は Office339 というアートマネージメントを行う事務所を立ち上げ、上海を拠点に活動を始めました。今回は少々マーケットよりの話題になりますが、Office339 の活動と、中国での仕事を通して感じる「日本」について書かせていただこうと思います。

アートマネージメント事務所「Office339」

 上海の M50(莫干山路50号)というギャラリー街の小さなギャラリーで勤務、その後、同じ地区にある版画工房勤務を経て、2006年6月偶然が重なり Office339 という事務所を設立し、独立する形になりました。

M50入り口
M50入り口


 上海に来る前はまったく異業種の仕事をしており、カネなし、コネなし、経験なしの手探りで始めたため、独立当初はそれこそ「できることは何でもやる」というスタンスでしたが、一年半が経ち、現在では主に二つの業務に集約しています。一つがコーディネート業務、もう一つがアーティストマネージメント業務です。
 コーディネート業務は、中国で開催されるアートフェアや展覧会のサポート、人材派遣、作品管理など。またその他に、中国の市場リサーチを含めた、メディアやコレクターへの情報提供も行っています。人治国家といわれ何かとトラブルが起こりやすい中国でスムーズに事が運ぶよう、日系ギャラリー等、美術関係者の方へ向けてサービスを提供しています。
 そして現在メインで行っているのが、アーティストマネージメント業務です。日本人の作家をマネージメントし、上海を中心にプロデュースをする活動をしています。具体的には、現地のギャラリーと協力しながら、展覧会を企画したり、アートフェアに出展するなどして、作家の認知度を高め、作品のディーリングを行いながら、継続的にアーティストの価値を高めていく作業です。
 昨年は4つほど展覧会を企画し、上海のギャラリーで日本人作家の作品を発表しました。国内ではほとんど無名の作家にもかかわらず、作品が完売したケースもありました。

 今年は複数のギャラリーと提携し、積極的に日本人アーティストを紹介していく予定です。また、現地のギャラリストやキュレータと共同で、国内外のアーティストを集めたグループ展を予定しており、ギャラリーという小さな空間の中だけでなく、よりパブリックへ向けたメッセージの発信を行いたいと考えています。

なぜ中国なのか

 近頃仕事の話をしていると、「なぜ中国?」と聞かれることがよくあります。しかし私としては、「いま中国にいなければいけない」という思いのほうが強い。
 中国で暮らしながら感じることは、日本はもう他の国からそれほど注目されていないということです。これまで途上国だった国の経済成長から、さまざまな分野で市場がアジアにシフトしている中、相手として重要なのは中国やインドであり、ベトナムやタイなのです。
 今はまだ世界第二位の経済大国といわれますが、かつての存在感はもうなく、他国の人に注目されていないということは、彼らが日本の将来に大きな可能性を感じていないということです。
 そして私が一番危惧している点は、そういう状況に多くの日本人は危機感を抱いていないのではないかということ。
 これまでオフショア開発などで中国に進出し、賃金の安い中国人労働者を雇い価格競争率の高いサービスを提供する日本企業が多かったですが、近い将来、資本力と野心を持った中国企業が、日本の質の高い労働力や技術を求めて押し寄せてくるでしょう。歴史のある日本の大手企業が買収されるケースも出てくると思われます。実際サムソンの時価総額は、ソニーを買収できる規模なのです。

 資源のない日本が、超高齢化と人口減少の時代に入り、高い経済成長も望めない状況で、他の国とどう渡り合っていくべきか。それは日本人が得意とする分野で勝負していくしかない。
 私は日本人が世界に通用する要素として、技術、文化、モラルが上げられるのではないかと考えています。
 あえていうまでもありませんが、自動車に代表される日本の技術力は国際的にもトップクラスのものが多い。文化の面では、伝統芸能はもちろん、ブームとなっている日本食や、アニメ等のサブカルチャーまで、若者を中心に海外でリスペクトされています。またモラルという面では、近年食品偽装問題などが事件になっていますが、それでも日本人のモラルやそれに基づいたサービスは群を抜いていると思います。私は日本に帰るたびに、飲食店の店員さんの丁寧な対応や、まちですれ違う人たちの心遣いに感動を覚えます。

 これらの日本の技術や文化、そしてモラルをバックグラウンドとしてもったサービスやプロダクト、コンセプトはそのまま海外で通用するものであると考えています。しかし、それも国外に目を向けて積極的に輸出していかないと、これからどんどん小さくなっていく日本の中でのみ語られ、忘れ去られてしまう可能性があります。
 よい例が携帯電話です。システム・性能とも世界一の技術を持っているのに、国際スタンダードをめざさなかったばっかりに、国内マーケットという非常に小さなパイを奪い合う形になり、フィンランドの NOKIAや韓国のサムソンなどはじめから国外を相手にしている企業と、国際シェアで取り返しのつかない差が出てしまった。同じような失敗を繰り返してはいけないのです。

安いニホンと言わせないために

 このコラムのタイトル「ニホンは安い」というのは、先日たまたま手にとった雑誌『AERA』 2008年1月28日号の特集のタイトル「トーキョーは安い」から引用しました。
 その特集では、アジアやヨーロッパの経済成長や為替要因から、日本のモノが相対的に安くなっていて、外国人が築地の「大トロ」から秋葉原のフィギアまで、日本のモノを買いあさっているという内容でした。
 まったく同じことがアート業界でも起きています。アジアのコレクターが、日本人の作品は安いからという理由で買いあさり、それを本土の裕福層に数倍の価格で転売しているのです。
 中国人作家と比べて、数分の一の価格で買える日本人のアート作品は、高値でしか取引できない中国人の作品とくらべて魅力的ですし、質も引けを取るとは思いません。昨年末、日本で行われたオークションでも、中国や韓国のコレクターが多くの作品を落札し、日本のコレクターはほとんど手が出なかったと聞いています。
 日本人の作品が海外で紹介されるという面で見れば歓迎すべきことかもしれませんが、海外のディーラーに安く買い叩かれているというのはいかがなものでしょうか。

 自国の文化の価値を自分たちで認めてアピールしていく。それも国内だけで消費するのではなく国際スタンダードで戦える価値を生み出し、海外へ向けて積極的にプレゼンテーションしていかなければ、国際社会で埋没してしまう可能性があります。

 今アートシーンの中心になりつつある中国から、日本のアートを発信していくことで、微力ながらその一端を担っていければと思います。そして、それが長い目で見て国益に繋がることなのではないかと考えています。

SHContemporary (アートフェア) の様子
SHContemporary(アートフェア)の様子

アートフェアのパーティの様子
アートフェアのパーティの様子

Private - 長沢郁美・ナオ氏 - 展覧会の様子
Private - 長沢郁美・ナオ氏 - 展覧会の様子

NamHyoJun 個展の様子
NamHyoJun 個展の様子

(2008年1月23日)

今後の予定

2008年の予定

  • 4月:
    Art Shanghai 2008(アートフェア) 参加
    Vanguard Gallery(上海)にて、Nam HyoJun と、中国人作家 Sun Guojuan の2人展
  • 6月:
    Andrew James Art(上海)にて、日本人作家のグループ展
  • 9月:
    上海ビエンナーレにあわせた、サテライトイベントを企画中
  • 10月:
    北京にて日本人作家のグループ展
  • 11月:
    Shanghai Art Fair 出展予定
  • 12月:
    Refined Nest Gallery(上海)にて、日本人作家のグループ展

* その他
日本のラブホテルをモチーフに、多方面のアーティストを集めた、アートとSEXに関する展覧会を、美術館のキュレーターと一緒に企画中。

関連リンク

おすすめ!

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書 687)

『ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか』
(梅田望夫著、ちくま新書)

アートとは直接関係ありませんが、旧世代の価値観や組織に縛られることなく、好きなことを貫いて生きるための指南書。ITの発達によって可能になった、これからの働き方や学び方が綴られています。本書に限らず、氏の若者に対する真摯なメッセージには、いつも勇気づけられます。
梅田望夫氏のブログ

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

NamHyoJun 繋がりでお会いしたのも、つい数か月前。
他の地域も巻き込んだ活動や発信力に、実はいつも感心しています。
近々上海にも遊びにきてくださいませ。
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