ネットTAM

36

地域が変わる メディアを変える

 渡されたバトンを何となく受け取ってしまい、門外漢だがリレーエッセイを書くことになった。私はコミュニティラジオとNPOの現場にいるので、正直、アートマネジメントのフィールドのことはよくわからない。でも、地域でアートマネジメントをがんばっている人を知らないわけではない。むしろ親近感をもっていて、ときに共通の悩みを見てとったりすることもある。

 アートマネジメントという言葉を知ったのは10年前。北海道の演劇関係のある団体で制作助手のアルバイトをしていて、トヨタ・アートマネジメント講座の名前をよく耳にした。当時の私は、コミュニティFM放送局をNPO型でつくれないだろうかと模索していて、その立ち上げまでの「つなぎ」として働いていた職場だったが、今思えばそこにはいろいろなヒントがあった。

 ところで、コミュニティFM放送局は、いまや全国に200局を超えている。市町村単位の放送エリアで地域の情報を発信するラジオ局だ。日本初は北海道で、1992年のクリスマスイブに開局した函館のFMいるかである。実は、開局時に私はそのスタッフだった。函館山のふもとにあるスタジオはいつもにぎやかで活気があった。散策の帰りに立ち寄って函館山に咲いている花ややってくる野鳥の話をしてくれるおじいちゃんには何度も出演してもらい、まっさらだったスタジオブースのカーペットに泥のついたゴム長が不釣合いだったことが印象深い。函館西部地区でまちづくりの活動をしていた市民グループが毎週各界のゲストを招いて話を聞く番組は、コミュニティFMならではの企画で、最近まで放送されていたが、700回目を目前に終了となりとても残念だ。

さっぽろ村コミュニティ工房
さっぽろ村コミュニティ工房


 15年前に産声をあげたコミュニティFMは、当時、設立時の設備投資に1億円が必要と言われたが、さまざまな工夫と努力で今や1000万円以下で開局するケースもある。運営形態はさまざまで、ビジネス志向の強い経営で地域経済の活性化をもめざす局があれば、非営利志向で市民参加を広く呼びかけまちづくりのツールとなっている局もある。世界的にも、マイノリティや自然災害・貧困と戦うコミュニティなどがラジオを通して社会を変える活動が各地で展開されている。世界コミュニティラジオ放送連盟(AMARC)は、コミュニティラジオを「地域の要望に応え、社会の変化を促すことにより、地域の発展に貢献する非営利型放送局。地域住民のメディア参加を促し、社会の民主化に貢献することをめざす放送局」と定めており、2007年6月にはAMARC日本協議会も発足した。

まちなかで映像ワークショップ
まちなかで映像ワークショップ


 阪神淡路大震災をきっかけに神戸市長田区にできたFMわぃわぃは、多文化共生の拠点となっている。多様な文化的背景をもつさまざまな国籍・年齢の子どもたちもここでラジオ番組をつくったり、映像での情報発信を通じて社会や自分と向き合っている。NPO法人のラジオ局も全国に増えつつある。

 ラジオ番組や映像番組をつくる過程は、かつてはプロだけのものだったが、今や機材の価格も安くなり身近なものになった。さらに、インターネット上に自分たちの放送局をつくることもたやすい。伝えたいことがあればいつでもどこでも情報発信できる時代だ。メディアを体験すれば、テレビのバラエティ番組や報道番組の仕組み、新聞記事ができるまでのこともわかるようになる効用もある。コミュニティ放送局でボランティアとして番組づくりにかかわった人の多くは、「今まで以上に新聞をよく読むようになった」とか「地域の話題に敏感になった」と口にすることからもわかるように、社会との関わり方が変わる。

 今年9月、北海道で市民メディアサミット'07を開催した。全国のコミュニティFMやケーブルテレビ、インターネットで市民の手による情報発信をしている実践者や研究者が、夕張、二風谷、富良野、支笏湖などへのツアーで北海道を体感したのち札幌に集まり、交流を深めた有意義な3日間だった。メディアを通じた表現で地域が変わっていくことを確信し、ささやかな場づくりに腐心している仲間がたくさんいることがうれしかった。作った番組をメディアを通じて発信するバーチャルな仕組みを支えているのは、実は作品上映会やワークショップやカフェのような人が集まるリアルな場だったりする。誰でも情報発信者になれる時代、市民メディアでは、新聞・テレビなどの大手マスメディアではできないことも可能になり、市民社会の未来が広がったように感じている。

市民メディアサミット富良野ツアー(富良野演劇工場)
市民メディアサミット富良野ツアー(富良野演劇工場)

市民メディアサミット大交流会
市民メディアサミット大交流会

(2007年11月26日)

今後の予定

2008年7月の北海道洞爺湖サミットに向けて、サミットが市民に開かれたものになり北海道(アイヌモシリ)の未来を考えるために、北海道のNGO・NPOがネットワークをつくっています(G8サミット市民フォーラム北海道)。そこで、サミット開催にあわせて世界中からやってくる市民やNGOの情報発信拠点となる市民メディアセンター設立に向けて活動をすすめています。

関連リンク

おすすめ!

札幌・大通公園のホワイトイルミネーションやミュンヘンクリスマス市もすてきですが、2008年1月19日の「冬のまちにスノーキャンドルの灯りをともそう! 2008」では、家の前や近所の公園で思い思いのスノーキャンドルが一斉にともされます。

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

鹿児島の小さなラジオ局たちもすくすく育っていることでしょうね。

NPO法人ではコミュニティ放送局免許はとれない
と言われていた時代に、京都三条ラジオカフェが
それを見事に打ち砕いてくれましたね。衝撃的でした!

今年の市民メディアサミットでは
お目にかかれませんでしたが、
来年は京都に行きますのでよろしくお願いします。
この記事をシェアする: