国による感動と評価の違い
やっと、演劇の世界にも、確たる「アートマネジメント」の必要性が、巷にまで広がってきた。国内のさまざまな人たちによる、「研究」と「発言」、「厳しい創造環境」による結果であろう。
島根県松江市の八雲町で、「八雲国際演劇祭」をスタートさせてから8年が経過した。国際演劇祭だから、常に、「国際」を意識しながらの毎日だった。こういった活動をしていると、必然的に、「国際的アートマネジメント」も考えなくてはならない。今日は、その一端をご紹介したい。
八雲国際演劇祭の開会式 |
2001年に、韓国の劇団が上演した演劇は、衝撃的だった。
作品名は、「サンシッキム」。数人の手下を伴ったシャーマン(呪術師)がメス、包丁、ロープなどを取り出して、若い女性を恐怖に落し入れるというシーンが演じられたのだ。
この演劇は、ひとりの人間がある方向に洗脳されていくという人間の弱さと怖さを描いたもので、脚本、演出、演技ともに際立っていた。
上演会場となった「しいの実シアター」は、満員でも130人という小劇場であるから、幕開きからラストまで、目の前で繰り広げられる事の成り行きに、観客は釘づけとなった。ドラマが進んで若い女性が着ていた下着のスリップがピシッと引き裂かれたときには、場内が凍りついた。偉大な権力の前で、虫けらのように扱われる一人の女性。観客の胸が張り裂けるような瞬間だった。
しいの実シアター外観 |
芝居の幕が下り、人々はようやくわれに返った。私自身も久し振りに鋭いテーマを突きつけられた気がした。
公演後、演出家が「若い劇団員と対峙して夜の白むまで稽古をした」と、話していたが、そのかいあって、「最優秀作品賞」と「主演女優賞」を獲得した。
しいの実シアター内部 |
実は、ここからが「国際的アートマネジメント」の本題である。
この劇団は半年後、同じ作品を持ってカナダの国際演劇祭に出場した。優秀劇団として招待されたのだ。ところが、結果は惨憺たるものだった。
なぜか。あれこれと推し量って私が出した結論は次のようなものだった。
軍事政権下に自由が圧殺されていたという過去を持つ韓国。そんな隣国の作品に接した日本人にとっては、戦前、戦中の日本と重なり合うものがあったため、他人事とは思えない怖さを感じながら、作品世界に観入っていたのだと思われる。
しかし、カナダは名だたる自由の国だ。建国、歴史、文化、生活といった基盤に立って考えてみると、たとえ、ドラマという創造世界ではあっても、あれほど生々しく演じられるものを凝視することはできなかったのではないか。観客はもとより、審査員でさえ舞台を見続けることに苦痛を感じた、と言っていた。その審査員は北米の人だった。八雲の演劇祭では三人の審査員のうち2人がアジアの人だったが、そのうちの1人は、シャーマンをもっと強く表現すればさらにいい作品になっていた、と言っていた。
真摯に芝居づくりに励んだ韓国の劇団員にとって、結果は重いものだった。だが、かけがえのない体験だったと私は思う。日本とカナダでの評価の違いを見せつけられて、国外へ創造作品をもっていくときに心しておかねばならないことに気づかされた出来事だった。
作曲家の團伊玖磨さんも雑誌のインタビューで言っておられた。「1957年、はじめての海外公演として、スイスで上演したオペラ「夕鶴」が成功したのは、半年とか3か月単位でヨーロッパに行って、劇場から劇場へとホームレスのような生活をしながら研究して歩いたからだ。ヨーロッパというものをよく知っていたからこそ成功したのだと思う」と。
(2007年4月4日)
今後の予定
11月21日(水)〜25日(日)
しいの実シアター/アルバホール(島根県松江市八雲町)
シリア・イラン・フランス・韓国・カナダ・ベルギー・日本などが参加
NPO法人あしぶえ
あしぶえ創立40周年記念公演「セロ弾きのゴーシュ」
6月10日(日)・24日(日)・7月8日(日)・22日(日)
しいの実シアター(島根県松江市八雲町)
原作:宮沢賢治、脚色:園山土筆、演出:園山土筆
関連リンク
- 八雲国際演劇祭
- NPO法人あしぶえ
- しいの実シアター
- 「星降る里の演劇村計画」
- 地域創造
- しまね文化ファンド
- ごうぎん文化振興財団
【2007年度支援を受けている団体各位】
おすすめ!
ダイヤル・サービス(株)社長の今野由梨さん著『ベンチャーに生きる』をおすすめいたします。
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次回執筆者
バトンタッチメッセージ
新しく、C-プランニング フラノを立ち上げられたこと、おめでとうございます。きっと、富良野の演劇がさらに進化するものと思います! 期待しています! お互いの合言葉を贈ります。「成功を祈る!」