「自在」に絵を描くということ。
何も描かれていない画面に対峙し、作品を無からつくり出すとき、この自在という言葉が大きな意味を持ってきます。
今迄、主に和紙に膠で顔料を定着させる日本画という技法で作品をつくり出してきました。
和紙に顔料を膠で接着するという技術は誰でも一通りの手順を踏めば、具現化することは容易です。しかし、自分だけの世界観を表現しようとすると、いわばこの手順が表現にとって、一つの罠になることを多くの制作者の作品から時々、見受けられます。
あくまでも技法は手段であり、表現の本質とは切り離されるべきものだと考えます。そうでなければ技術のための標本の様になってしまいます。
技術はあくまでも教養の部類であり、土台の様なものです。
自在に心を解き放ち、教養をひけらかすのではなく、あくまでも従で技術があることが、作品本来の表現のレベルまで引き上げてくれます。
絵を描く行為はとても原始的なことです。例えば、一本の線を引いても、その人が何を考え、感じたのかが現れてしまいます。
仙崖という禅僧の描いたものを観たとき、何事にも囚われない心の中を観た様な気持ちになりました。表現者にとって見かけの体裁より、大事なことがあるはずです。それが心を自在にするということだと考えます。
「価値の創出」
芸術に価値等あるのだろうか?
人それぞれでしょうが、歴史に残って来たものと現代のものは切り離して考えなければなりません。歴史を経て現在、その時代につくられたものであれば二度とつくられないものですから、存在価値は当然あるでしょう。それでは現代の作品はどうか。
歴史を経たものは歴史という荒波を超えて大事にされてきたからこそ今、我々の前にあるわけですから、言わば価値の変遷という荒波をくぐり抜け、一般的にオールマイティな価値観を持っていると考えるほうが自然です。
現代の作品はつくり手や社会の演出で脚色され本当の価値? は、なかなか見えません。有名な作家が評価が高くても、それは泡沫の意味を持つことと同じです。
そこに価値を見出すのは、邪念を削いだ心に響く作品であるかということだけの様な気がします。
観た瞬間、何かを感じられれば、そこに価値を見出せるのかもしれません。逆の言い方をすれば何も感じられなかったら、その人にとって世間で高額なものでも、何の価値もないと言うことです。
たとえ、それが有名な作家の作品であっても、そこから何も感じなかったら、その人にとって? 無価値なものです。
換金するという行為を除けばですが...。
たとえばダイヤモンドは換金という行為があって初めて価値が出てきます。でも元を正せばただの炭素で出来た石です。一番硬度が高いと言いますが、ハンマーで叩けば粉々になります。そこに価値をそれぞれが見出しているのかは不明ですが、本質的な価値とは違う幻想を持たせる思惑が働いているとしか思えません。
芸術作品はまさにその紙一重の所でその存在価値を常に問われています。
「五感」
普段、人物を描いていることが多いのですが、年に一枚は風景を描いています。
道を描くことが多いのですが、なぜ、道が多いか。
五感を作品の中に投影できているかの言わば確認の意味もあります。
裸足で歩いたら足の裏に乾いた草の感触が感じられるか、空間を流れているであろう空気に微かな草や花の臭いが陽の光に乗って吹いているか、風は頬を優しくなでているか等、画面の中で自在に入り込み遊んでいます。
普段から五感で周りの環境を敏感に感じることは人間としても絵描きにとっても、とても大事なことだと思います。
感覚を研ぎすますことは、生きることと比例していると感じます。
「陰翳礼賛」
現代は闇のない世界だと感じています。電気が発明されてから闇の世界を感じることは少なくなったのでしょう。
人間にとって闇は古代から怖れであり、魑魅魍魎の存在する場所でした。
そこに想像の源が存在していたのだと思います。人類が文字を発明し、想像の源から文学や芸術が形として成り立ってきたと考えます。
闇と火の揺らぎの劇的な対比。現代はそれを捨てた社会です。小さい頃、まだ今ほど、夜は明るくなかった様な気がします。田舎でも容易に天の川も肉眼で観れましたし、暗闇が怖くて夜、出歩くことは恐怖心がありました。
自然の光に身を任せ、地球という惑星の一住人として畏敬の念を持って過ごすことも五感で感じることと同じだと考えます。
作品に金箔を使うことが多いのですが、朝、昼、夕刻の光でまるで違う輝きを見せます。作品の中に時間を閉じ込めた瞬間を体現していただきたいと思っているからです。
(2014年4月21日)
今後の予定
2014年6月18日〜6月24日
個展(岡山髙島屋)
2014年9月24日〜10月10日
「画家と音楽」展 ギャラリーショウアウッド
港区南青山3-9-5
2014年9月1日〜9月30日
2人展 石正美術館 島根県浜田市
2015年5月
個展 下保ギャラリー 京都