(壮大な)アートの現場は、(夢を語る)『言葉』ではじまる
1996年から2004年まで開催した「トヨタ・アートマネジメント講座」の活動をまとめた9ミリほどの背の厚みのある『軌跡』が届いた。(う〜ん、足かけ9年。フルモデルチェンジ2回ぶんに相当する。本当は『奇跡』かも)。全講座収録版の刊行に際し、その奇跡/軌跡を振り返り寄稿した自分の小文を確認したのち、各ディレクターの言に目を通す。「あれ、同じだ」。根底部分で同じようなザラッとした原罪―――アートマネジメント講座をやらかしてしまった!―――を感じていたことをあらためて知る。制作と製作の双方の現場の大先輩であり、TAMでは演劇のディレクションを担当された市村さんが「アート」の専門家と「アートマネジメント」の専門家について書いている。ほとほと現場の好きな「アート」の専門家で、かつ「アートマネジメント」の専門家である市村さんらしいボヤキ節で綴られている。で、結論が「アートのマネジメントなんて、やればやるほど問題だらけなのだから、しぶとくかつ過激に、つまり根底的に問題を提起してやりつづける以外にない」である。この覚悟は、やらかしてしまったことを引き受けた者の原罪感をエンジンとするように思えてならない。
そしてTAMで関わった地域コーディネータ諸氏が、各地でのアートマネジメントの先達者としての原罪感を胸に秘めながら(と思えるほどに)更なる過激な現場に身を投じている姿を目にすることが多くなった。神戸アートビレッジセンターの木ノ下智恵子女史もその一人。彼女には、TAMの公式プログラムとしては1999年と2002年のチャレンジ編で世話になった。昨今はあちらこちらで名を目にし、その活躍をうかがい知る。
NAMURA ART MEETING '04 - '34 vol.00「臨界の芸術論」シンポジウム会場に用意された直径1.8メートルのミラーボール。 (撮影:森 司) |
この9月25日の夕方、彼女に会った。場所は大阪市住之江区北加賀屋の名村造船所跡地。30年構想の大いなる実験「NAMURA ART MEETING '04 - '34」の開催を告げる36時間マラソンvol.00「臨界の芸術論」会場で、ゲストを案内し、シンポジウムをテンポ良いMCで仕切り、元気にする彼女に会った。「いつ、休んでるの?」と僕が聞くと「これが、お休み!」と忙しく働きながら笑顔で話す。昔からそうだったけど、さらに輪を掛けて「アート」と「アートマネジメント」に膨大な時間とエネルギーを惜しげもなく捧げているぞ。彼女は、TAMが提唱し、求めたプロ=現場対応型アートマネジメントの意識と姿勢における、紛れもないプロ―――アートシーンを生み出す現場のプロ―――だった。(なんとも眩しい。うん?いや、頭上に輝くミラーボールのせいかも?それはうそ。ほんとにご本人がキラキラしてました)。シンポジウム会場は、椅子があるだけ。唯一の設えは、「野外ステージ」の頭上にクレーン車で吊り下げされた直径1.8メートルのミラーボール。それがスポットライトの光を反射させている。「光と言葉」でドック跡地を満たすことから始まった壮大な実験の推移が楽しみだ。そして誰もが抱くであろう「なぜ30年間なのか?」の疑問に対し、土地を提供した千鳥土地株式会社の専務取締役の芝川能一氏は「借地は30年が単位だから」と事も無げに口にし、「ここを魅力的な場所と見たアート側の目線が新鮮」とも口にする。異種混合の出会いを生み出す「アートマネジメント」とその場を生かす「アート」の力の可能性を間近に見た気持ちで満たされた、中秋の名月間近の秋の夜は、月夜でもあった。アートのための豊かな場所と時間の誕生に祝福を!
ソフト集団である論客陣を待つミラボール下の「野外ステージ」。背景にはハードな世界のハードが見える。 (撮影:森 司) |
今後の予定
TAP2004 開催
茨城県取手市内各所
2005年1月8(土)~10日(月・祝)
ARTizan Presents アート・フォーラムVol.3「陸の孤島‘青森’アート・パラダイス化計画 (仮)」出演
主催:ARTizan
共催:国際芸術センター青森(ACAC)
場所:ACAC
関連リンク
次回執筆者
バトンタッチメッセージ
西巻様
森です
TAMが終わり、打ち合わせで会う機会も無くなり寂しい限りですが、お元気ですか?
熊倉さんに誘われて、11月13日から28日の会期で開催する「取手アートプロジェクト2004」でインターン生にアドバイス立場でアートマネジメントの現場に関わっています。
ホールを歩いてのコンサートの日々で忙しくしていると思うけど、今年も残すところあと2ヶ月となりました。どこかのタイミングで一度、飲みに行けたらと思います。
ところで「リレー・コラム」の次の書き手に西巻さんを指名させて頂きました。
音楽の世界の旬のネタ話し、楽しみにしています。
ではまた。