ネットTAM


アートマネジメントのインターン現場レポート
世田谷パブリックシアター 2023(1)

世田谷パブリックシアターでは、毎年、夏休みインターンを募集しています。

舞台芸術をとりまく仕事に触れてみたいと考えている若い方たちを対象に、世田谷パブリックシアターの現場で、舞台芸術にかかわる人々の仕事に触れ、舞台芸術・ワークショップと劇場、地域などの芸術文化事業について学び考える機会を提供したい、という目的で、2015年に開始されました。

2023年の具体的な活動内容は、夏休み期間中に実施する「せたがやこどもプロジェクト」のステージ編(①落語『せたがや 夏いちらくご』、②ミュージカル『カラフル』、③ダンス『エアー~不思議な空の旅~』、④演劇『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』)ならびにワークショップ編(⑤『高校生のためのエンゲキワークショップ』)における現場での準備から実施までの制作補助。このほかにも、舞台芸術に関する劇場運営、制作、広報、技術などのレクチャーも用意されました。

今夏も数多くの応募の中から選出された8名が、各コースのインターン活動に参加しました。ネットTAMでは昨年と同様、インターン学生のレポートをご紹介します。合わせて今年は、世田谷パブリックシアターのインターン担当者のレポートも掲載。参加したインターンの気づきや感想、受け入れた担当者の思い、双方向でお届けいたします。

  • Aコース(短期)落語とダンスコース ①③:7月16日~30日
  • Bコース(長期)ミュージカルコース ②:6月17日~8月6日
  • Cコース(長期)演劇コース ④7月3日~8月20日
  • Dコース(短期)演劇ワークショップコース ⑤8月21日~23日

Aコース(短期)落語とダンスコース

青山学院大学 文学部 比較芸術学科 川上さくらさん

今回、印象に残った出来事は、初日祝いの瞬間です。幕が開くには、さまざまな人がかかわりますが、その人たちを守るものが、“安心と安全”。たとえば、楽屋には救急セットを常備し、コロナ対策も最善を尽くしました。起こりうる可能性に対して、できる最善を思考し続ける。舞台を支える人たちの安全を守ったその先に、作品が守られる。だからこそ、幕開きは、作品が守られた瞬間のようで、充実感あふれるものでした。

また、“観客の声”は舞台の日々の変化に不可欠です。たとえば、公演終了後に、観客の声を聞くことやアンケートを回収すること。その日の声は、すぐにキャストにお伝えします。観客の反応や感想を知って喜ぶキャストの姿を間近で拝見できたことは、私も次へ力が漲(みなぎ)るような体験でした。

キャストやスタッフの安心・安全が万全になって初めて上演に全力を注ぐことできる。最善のために、日々飛び込んでくる事柄に対応を模索しながら、何事も考え続ける粘り強さを学びました。私も、しぶとく作品制作を目指していきたいと強く思います。

受付

名古屋芸術大学3年 福浦雅楽さん

劇場と地域がどのようにかかわっているのかを知りたいと思い参加しました。

「せたがや 夏いちらくご」では、客席から子どもが囃家に返事をしていたり、劇場は舞台を観るだけでなくもっと自由で、舞台と観客のコミュニケーションの場でもあるのだと知りました。

「エアー〜不思議な空の旅〜」では終演後に公演に関連して風船をプレゼントしており、誰を対象にするかによって工夫が変わってくるのだと知りました。公演をよりよい体験にするには、公演の前後も大切なのだと思いました。

今回制作現場のお手伝いをさせていただき、細やかな気遣いと咄嗟の判断が求められていること、その行動によって現場が動いていることを実感しました。何か困っている方がいればすぐに気づき声をかけたり、ケータリングの説明書きは出演者の方が一目で種類が判別できるようイラストを書き加えたりしていました。どの行動が相手にとってよりよいのかをその場で判断することが必要で、これらの積み重ねがよりよい公演につながっているのだと思いました。

来場される方の姿を見て、劇場は広場という言葉の意味を実感した気がしています。

この光景を忘れずに、これからの学びに活かしたいです。

受付

世田谷パブリックシアター担当者からのコメント 酒井淳美さん

短期コースのため、作品をつくっていく様子やアーティストと劇場が信頼関係を築いていくプロセスには触れられずでしたが、レポートを拝見し、お二人が些細なやりとりからも我々が大切にしていることをしっかり受け取ってくれていたことが分かり、とてもうれしく思います。

川上さんが書いてくださった「安心・安全」は、危険が多い劇場の中で何よりも一番に気をつけなくてはならないこと。「安全の先に作品がある」という気づきを、ぜひ忘れないでいただきたいです。

福浦さんの書いてくださった「公演をよりよい体験にするには、公演の前後も大切」についても、今回の様な“初めて”劇場に来るお客様が多い作品のときには、特に気をつけていることです。

今回、お二人にはロビーに立っていただきお客様をお出迎えしてもらいましたが、回を重ねるごとに「よりよい」を求めて、お客様への説明の仕方、接し方を工夫している様子を見て、とても頼もしく思いました。ぜひ、粘り強く、舞台芸術の道を進んでいただけるとうれしいです。

(2023年9月12日)

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