トヨタ・エイブルアート・フォーラム その後の10年
ネットTAMブログ特別企画
「トヨタ・エイブルアート・フォーラム その後の10年」
~エイブルアートの歩みと未来~(6)
トヨタ・エイブルアート・フォーラムからの10年(6)
<高知県高知市>
10年一昔といいますが、はるか昔のことのようでもあり、昨日のことのようでもあるふしぎな感覚を覚えます。
自分たちの会社は、営利法人として1990年に設立。創業理念は「愉快製造工場」創業時のパンフレットには舌を出したアインシュタインの肖像をアンディウォホール風に描き起こしたイラストを象徴的に使っています。私たちはその時から常識と決別し、本当の意味で愉快が充満した社会が実現するように働くことが私たちのミッションであると意思表示したのです。以来、市町村や県から障害のある人の社会参加を目的とするイベントやデザインの仕事を通じて障害のある当事者の方々に会い、話す機会を持ちました。そういった機会の中で見えない人や聞こえない人がそれぞれの持つ感覚で感じたことをどのように理解し、表出するのかに関心を持つことで、100人100様の個を大切にすることが大切なことであると気づかせてもらいました。
2001年からトヨタ・エイブルアート・フォーラム高知の事務局を努めながら3年にわたるフォーラムの支援を受ける間に「彼ら(ユニークで良い意味でアンバランスな人たち)」が、通うことの出来る常設のアートセンターの必要性を感じ、フォーラム終了後の翌2004年、現在地にアートセンター画楽を設置しました。
画楽が生まれてから10年、画楽劇場では毎日へんてこおかしいことが生まれます。画楽はアートセンターですから、メンバーはみんな何らかの作品をつくりに通ってくるのですが、この劇場で繰り広げられる愉快に感じることのほとんどは、本人のおもしろさからくるパフォーマンスとして消えてしまうものです。立ち会えるスタッフのみが手にするご褒美といえます。
S君は西部警察が大好きで「ほらみて!大門警部のサングラス、石原裕次郎のタバコとブランデーグラス描きました!犯人が逃げる時に乗った日産のトラック!」といいながら何も見ずに大胆な構図で絵を描いていくのですが、いかんせん絵としてみたら一見残念な出来映え。ある日、スタッフがYouTubeで西部警察を検索して、「S君どのシーン描いたが?」と尋ねると自分でどんどん検索して、「あったこれが日産のトラック!」といって教えてくれました。確かにそのシーンを見れば日産の幌付きのトラックがカーチェイスを繰り広げています。
24年前創業の頃から画楽誕生までの10数年を振り返ると、ハード上のバリアフリーが進み、車いすや白杖を使う人の姿が町のあちこちで見かけるようになった変化のある10数年だったように思います。フォーラム以降(画楽誕生以降)の10年、まだまだ途上ではありますがこころのバリアフリーをめざした活動であるということが出来るのかもしれません。私たちは「幸せ」=「愉快の充満した社会の実現」と捉え、時間はかかるかもしれませんがひとりずつ共感者を増やしていく"幸せの革命者"であり続けようと思っています。
皆さんも力を貸してください。
(2014年1月10日)
アートセンター画楽 代表 上田祐嗣(本名:善道)
昭和38年 高知県高知市生まれ
昭和63年 高知大学教育学部卒業、高校美術教員免許取得
昭和63年 株式会社ポリセント就職
平成2年 同社退職
平成2年 有限会社ファクトリー設立
平成7年 有限会社ファクトリー代表取締役就任、現在に至る。
◆ 高知県発達障害児・者支援体制整備検討委員会/高知県広域特別支援連携協議会委員(平成17年〜平成19年)
◆ 高知県発達障害者支援開発事業企画・推進委員会委員(平成20年〜 )
◆ 現在の有限会社ファクトリーの業務
・デザイン・行政コンサルタント
・集落再生等の地域計画
・認知症グループホーム・ヘルパーステーション・デイサービスセンター等の
介護保険サービス事業
・地域活動支援センター・児童デイサービス等の自立支援法サービス事業
一昨年のゴールデンウイークに、高知市文化プラザかるぽーと7階・市民ギャラリーで「画楽プロジェクトVol.3〜誰もが芸術家であり、創造することが人間の本能に基づく幸せな行動である〜」を開催しました。この取り組みは開設以来9年目を迎えようとする「障害のある人を支える仕組みとしてのアートセンター」の活動を広く知っていただこうと、高知県内はもとより他県のアートセンターにも声かけをして賛同者を募って開催されたものです。
出品していただいたのは、北は埼玉県の工房「集」さん、よくアート化セミナーでもご一緒するエイブルアートカンパニーに参加する団体さん、それ以外でも福岡のアトリエブラボーさんにも作品を送っていただきました。短期間の準備、無茶ぶりなお題「人間って面白い」にもかかわらず、それぞれのアートセンターから渾身の作品が集まり、見応えのある展示にできたことはご協力いただいた皆様のお陰と、心から感謝しております。
アートセンター画楽には、開設以来、発達障害のある児童や主に知的な障害のある人が通い、美術活動を通じて自己表現に取り組んでいます。ここには、上手な絵や下手な絵という「ものさし」はありません。自分の目で見、感じ、その手から生み出されるもの、自然に内なる私が表出された作品のもつ力強さこそアートの本質であると考えますから、「ここを、こんな風に描いたら?」のような指導を行うことも本人が迷っていない限りしません。私たち支援者がすることは、通ってくる人たちが安心できたり、気持ちよく過ごせる環境(物理的環境はもちろん、その人の過ごす生活全般を通した心理的環境も含みます。)を提供することです。
ここで紹介する写真のCDラックは、画楽に来るみんなが自分の好きなCDを聞きたい、その気持ちを上手く調整して人と譲り合いができるようになるために、くじ引きで順番を決めて自分の持参したCDを並べていくためにつくったものです。このくじ引きの件については、とてもおもしろい話しがいっぱい展開されるのですが、その話しは又の機会にして。このように環境調整さえできれば、みんな集中して制作に没頭できるんだということを経験的に知ることができました。
アートセンター画楽の支援スタッフは、教員や保育士ではありません。もちろん教員免許や保育士資格を持つスタッフが支援にあたることはありますが、あくまでも画楽の支援スタッフとして接しています。私たちが常に心掛けていることは、注意深くみんなの様子を見ること、言葉にならない要求を見逃さないこと、そしてなにより彼らの手から生み出されるものを誰よりも楽しみにして喜ぶことです。
人としてうまれたことを大切にし、違いを認め合うという簡単なようで難しいことを徹底して行うだけで、こんなに素敵な人が集まる、素敵な環境ができあがります。ここからどれだけ人の心を動かすことのできる素敵な作品が生みだされていくかが楽しみでたまりません。
有限会社ファクトリー 上田祐嗣
※アートセンター画楽へのお問い合せ→sttoco@factory-com.co.jp
(画楽の担当者に直接とどきます)
※ファクトリーへのお問い合せ→59yuji@factory-com.co.jp
(上田に直接とどきます)