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美術館による教育普及活動の20年

もう10年ほど前になるが、英国のegage(全国ギャラリー・美術館教育協会)が「New Venues, New Audiences」(新たな場、新たな観客)というシンポジウムをロンドンで開催した。当時の英国は、国営宝くじ復活から3年ほどたち、宝くじの収益金が急速に芸術分野の重要な資金源となった頃。ハードへの投資が盛んになり、その結果、新しい観客の開拓がどこでも話題になっていた。

このシンポには、日本の美術館の教育普及担当者がパネリストとして招聘され、ワークショップの事例などをプレゼン。会場の反応はすこぶるよく、英国の関係者から質問が相次いだ。「どうしてそんなに普通の人(ordinary people)が参加するの?」----こんな質問があった。多様な人種が暮らし階級の差が明確な英国では、芸術文化に最も遠い層の人々の参加をいかに促すかが、常に大きなテーマ。だから、富裕層でも特に上流階級というわけでもない人たちが美術館のワークショップ(WS)にたくさん参加して楽しんでいる、日本の公立美術館の様子がびっくりだったのかもしれない。あるいは、英国では貧困や非行等などの社会的課題を抱えるコミュニティを対象としたWSが多いので、「普通」対象が不思議だったのか。。。ともあれ、この「普通の人」という言葉は、筆者の中では現在でも企画を立てるとき等の重要なキーワードとなっている。

さて、このシンポで事例を紹介したのは、目黒区立美術館で早くから教育普及プログラムの開発に従事されてきた学芸員の降旗千賀子さん。教材制作・コレクションにも力をいれ、「画材と素材の引き出し博物館」などユニークなツールを生み出してこられた。

今夏、その20年にわたる目黒美術館の教育普及ワークショップをまとめた展覧会がで開かれている。20年間のワークショップ活動を振り返り、「画材と素材の引き出 し博物館」81点すべての引き出しと、その内容に関連する作品を所蔵作品から展示。<作家、専門家、参加者、スタッフに支えられてきた>というワークショップの理念と成果を、記録写真によるドキュメント展として開催している。

会期は今月いっぱい。今週はフォーラム・連続公開インタビュー(「美術館ワークショップの再確認と再考察−草創期を振り返る」)も開催される。日本の美術館のワークショップを振り返る「概論」のほか、この分野を牽引してきた専門家たちの話が聞ける。「引き出し」とあわせて、お見逃しお聞き逃しなく!

目黒区美術館オリジナル教材『画材と素材の引き出し博物館』+ ワークショップ20年のドキュメント展 (~8/31)

【8/29追記】 滑り込みセーフで観てきました。20年間の実績に感嘆!いまや普通となった手法やテーマにも相当早くから取り組んでこられたことがわかりました。<引き出し>もやはり必見です。20年史カタログも資料価値大ですばらしい。

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