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今、社会に求められているもの

─クリエイティブの重要性について─

突然ですが、あなたは今、生きていることを楽しんでいますか?

この質問を投げかけられて、一体、どのくらいの人が「Yes」と答えられるでしょうか。

日本は、戦後の高度成長期を経て、人も増え、物が豊かになり、生活水準は格段に上がった。
「技術の発達で生産性が高くなった。生活水準も高くなった」
単純に考えれば、余裕ができるはず。なのに、人の心は忙しい。
生産性が高くなれば、ゆとりが出るはず。なのに、今や国際語になってしまった「karoshi」。
若い世代の「社畜」という揶揄表現。
高いままの自殺率に、鬱病の拡大、我が子の虐待、孤独死。
いわゆる"現代病"と言われるもの。
次々とヒットするコミュニケーションツール...の裏に隠されている"孤独"感。人口が増えたのにも関わらず。
そんなパラドックスを抱えている現代社会。

「物質的には豊かになった。」
ですが、それと対照的に、心の豊かさが乏しくなっているように感じます。
というよりも、次のステップとして、心の豊かさが求められているのかもしれません。

個人、社会が、「その人らしく」存在し、生きることができるのは、物質的な豊かさとともに、重要なのがアートやクリエイティブな領域ではないでしょうか。

さて、そんななかで、私が現在、関わっている2つの活動を紹介したいと思います。
まずは、学生時代に共にアートプロジェクトで活動していた友人(リレーコラム前執筆者)と、ひょんなことをきっかけに再会し、結成・活動を実現した、ピアノユニット「Fried Again」の活動。奈良・京都を中心にピアノライブ活動をしています。
今月は初のCDをリリースです。
リーダーのクラシックピアニストはじめ、ジャズピアニスト、三線を演奏するアーティスト照屋夏樹ことNachintosh。そして、私はデザインを担当。クラシックピアノとジャズピアノはピアノで共通するものの、畑違いの4人。
はっきり言って奇妙なグループです。
しかも、再会のきっかけは「お茶」。付け加えると、皆がお茶を習っていて、集まったわけではありません。
「ピアニスト」「沖縄」「デザイナー」が、自ら茶の湯に興味を持ち、徐々に集まった──。
全くもってバラバラです。
ですが、なぜか、良い感じにまとまるのが、本当に不思議です。
畑が違うからこそ、それぞれの役割があり、自分だけではできないモノができ上がり、それは、単純に1+1ではなく、予想以上のものが生まれるおもしろさがあります。
同じベクトルを持った仲間との活動は、刺激を受け、気づくことあり、学ぶことあり、モチベーションにつながっています。
そして、何よりもおもしろい。

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2つ目は滋賀県東近江市(八日市)の「妖精の扉プロジェクト」。

公園に突如「妖精の木」が現れた。その木には人間の手のひらに載るほどの小さな妖精クヌートが宿り、彼を慕って小人や妖精たちが八日市のあちこちに引っ越してきてこっそり暮らし始めた。妖精自体は人間の目に映らないのだが、確かに商店街や保育園、図書館の片隅に妖精の家を示す小さな小さな「妖精の扉」が現れたのである。扉の前にお菓子や手紙を置くと妖精から返事がくることもあり、子どもたちの口コミでその注目度は上がっている。(DADA Journal掲載記事より)

北欧や北米の方には妖精の伝説があり、家に妖精用の扉を置いておくと、そこに妖精が住み着き、幸せをもたらす...という風習があるそうです。
滋賀県と姉妹都市である米ミシガン州のアナーバーという町には、町中に扉が設置されあり、探して歩くこともできます。
世界各地からアーティストが移り住み、創作活動を行っている、カナダのソルトスプリング島にも、アーティストが仕掛けた妖精の扉が。
"妖精の扉"の仕掛人は、ともにアーティスト。
夢を持つこと、想像すること。大人になればなるほど、忘れがちなこと。
ですが、とても大事なこと。
私はそう思います。
滋賀県東近江市の全ての図書館には、妖精の扉が設置され、市役所にも妖精の扉の窓口ができる予定です。
今冬は3回目の「妖精」をテーマにした展覧会「妖精綺譚-参」の開催予定です。
子供からプロまで、ジャンルも問わず。ここでは「表現」することに価値があります。
「子供だから」「プロだから」「○○だから」という,社会的な価値観、ともすれば偏見はなし。
私は現在、この妖精の扉の作品集(カタログ)を制作中、今月、発行予定です。

クリエイトに関わる私たちができることは、コツコツと続けること、
ワクワクすること。
楽しむこと。
妄想すること。

それを続けていれば、何かが徐々に変わって行くのではないかと思ってます。

最後に、幕末の志士、長州藩の高杉晋作の辞世の句を。

おもしろき こともなき世を おもしろく

今後のアート、クリエイティブ業界が楽しみです。

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(2015年2月4日)

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

ピアニスト渡里拓也との出逢いは衝撃的でした。私が必死で譜読みをし、必死に練習してやっと弾けたラヴェルの《水の戯れ》を、目の前でサラッと美しく弾かれた時のショックは未だに忘れられません。あれからあっという間に月日が流れ、あれよこれよと長いお付き合いになりました。和心持ったピアニスト渡里拓也は、日々進化を遂げ、人の心を根本から癒すピアノを奏でています。どのようなコラムになるのか、茶々を入れずに、静かに楽しみに待っています!(照屋夏樹[第121回執筆者])
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